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4.日頃の行いが悪い


 え? なに今の? 清楚ド美女のリリーローズちゃんに、確かに嘲笑されたわよ? 見間違いかしら? 私、視力めちゃくちゃいいんだけど!? 見間違いかな!?


「……お可哀相なエマ様。浅ましい人の身で、龍の御子と結婚しようなどと大層な夢を見るから、こうなるのですわ」

「はぁ……?」


 見間違いじゃなかった。

 しかも言葉の端々にカッチーンてきた。これはあれだ、人族にも多くいるけど昨今問題になってる差別主義者だ。

 ニヤリと笑ったリリーローズは醜悪な顔をしていた。今まで楚々としたか弱い女性の仮面をかぶっていたとは思えないほどの豹変ぶりである。


「……人族だろうが、龍族だろうが、他の一族だろうが関係ないでしょ。ようは相手を愛して恋をするのであって、そいつがどの一族かなんか関係ないわよ」

「人の子らしい軽薄さね。崇高な龍族の価値が分からないなんて」


 ここでも人族の風評被害!

 とはいえ人族だって生涯添い遂げる夫婦も珍しくないし、他の種族だって同じぐらいの確率の筈。龍族が特別一途なだけなのよ。

 いやまあ、うちの両親の下に生まれた私はちょっと主張しにくいんだけどさ。


「価値? あんたには分かるの?」

「勿論。そして私は、その龍族の若様に嫁ぐのに相応しい美貌と才覚を兼ね備えているわ」


 ふわりと手を広げて、リリーローズは艶やかに笑ってみせる。


「どこぞの人族の魔女などとは格が違う、完璧な淑女よ」


 お、喧嘩か? 受けてたつ!

 確かに美人だし自分で言う程度には優秀なんでしょうけど、それを自分で言う厚かましい女を私は『淑女』とは認めない。

 これでも貧乏ながら人族の令嬢として育てられた身。悲しいかな自分では体現出来ていないものの、淑女のなんたるかは知っている。

 その培ってきた感覚がバッシバシ否定している。このリリーローズは『完璧な淑女』なんかじゃないって。


 中途半端な女にくれてやるほど、私の愛しの若様はお安くないのよ!


「龍族龍族うるさいわね。アンタが嫁ぐのはラグナなの? 龍族なの?」

「どちらでも一緒よ」


 さっきラグナのことをお慕いしている、と言ったのは『龍族のラグナ』を愛している、て意味だったのだ。


「全ッ然違うわよ」


 私がキッパリと否定しても、リリーローズは嫣然と微笑んだまま。だんだん、この笑顔が気味が悪くなってきた。殴ったら笑うのやめてくれるかなぁ


「あなた、本当になにも分かっていないのね。ラグナ様は龍に変化出来る、特別な御子なのよ? その方の『運命の番』が私で、私は彼の子を産むの。そして私は、これ以上ないほどの栄誉を得るんだわ」

「きもちわるっ」

「なっ!?」

「あ、言っちゃった」


 反論はこの女の思惑を全部聞いてからにしようと思ってたのに、お口がツルッと滑って本音が出ちゃった。だって気持ち悪いんだものー!

 キリ、と表情を整えて、まるで何事もありませんでした、と言う顔を取り繕って話に戻る。


「……ラグナのことを愛していて、彼を間違いなく幸せにしてくれるなら仕方ない、と思ってたけど、あの人を龍の若様としか見てない女には譲れないわね」


 私のツッコミにぎょっとしていたリリーローズだけど、すぐにこちらをせせら笑ってきた。

 一発殴ろうかなぁ。腕力なら勝てそうなんだけどなぁー


「フフッ、どうぞ言いたいように言えば? ラグナ様は私のものになるのよ、あなたは譲るまでもなく奪われていくのを指を咥えて見てるがいいわ」

「オッケー、そのご自慢の可愛いお顔、殴らせな」


 ばき、と拳を鳴らすと、途端リリーローズは突然その場にしゃがみこんで悲鳴をあげた。


「きゃあああ! 誰か助けて! 殺される!」

「はぁー? まだ何もしてないんだけど。せめて殴られてから悲鳴あげなさいよ」


 彼女の悲鳴の大きさにぎょっとしていると、侍女数名がまるでタイミングを見計らってたみたいにドドドッと部屋に駆け込んできた。


「リリーローズ様! ご無事ですか!」

「エマ様、おやめください!」

「嫉妬にかられて『運命の番』であるリリーローズ様を害そうとするとは、なんとヒドイ!」

「は、はぁ~~~~?」


 何これ! 私、ハメられた!? 冤罪待ったなし!

 ビックリして開いた口が塞がらない私を放って、事態は進んでいく。しくしくと嫋やかに涙を溢すリリーローズは、侍女の一人に差し出されたハンカチで楚々と目元を拭った。こ、こ、この女~~~!


「わ、私はただエマ様に謝りたかっただけなのに……じ、自害しろとまで言われて」


 あ、うん。それは言ったな。冤罪ではないね。

 侍女達も私なら言いかねない、という視線で睨みつけてくる。


「エマ様、このことは長老様方に報告させていただきますからね!」

「荷物を纏めるのを早めた方がいいと思いますわ!」


 侍女達は口々にそう言い、リリーローズは彼女達に抱きかかえられるようにして部屋を出て行った。

 部屋に残ったのは、呆然とする私だけ。


「なんなのあの女! 第一こっちだって、好きでこんな嫌味な奴だらけの国にいるわけじゃないっての!」


 呆然とした後には猛烈な怒りが込み上げてきた。

 リリーローズは楚々とした美女の仮面を被った、とんだ女だった。しかも、ラグナ個人のことをちっとも愛していない。


「ラグナと対面して、メロメロになっても遅いんだから。私のラグナの可愛さに、ビックリするがいいわ!」


 もういい! こんな国、こっちから出て行ってやるわ。半年もここにいてネチネチネチネチ虐められた所為で大人しくなってた私がバカだった。

 本来の私に戻ろう。もう知らん!



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