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第38話 鱶(ふか)の餌食
敵なしの戦闘機とは言えども、海上に不時着しようものならたちまち鱶の餌食となる。鱶とは鮫の事で、日本が主戦場としていた太平洋には広範囲に渡り鱶がいた。鱶は自分よりも大きい物は襲わないと言う習性がある為、不時着してしまったら、パイロットは着ているものを脱ぎ捨てて、ふんどし一丁になり長いふんどしで体を大きく見せろと教わっていた。とは言え、近くに島でもあれば話は別だが、泳げる範囲に島がなければ、鱶にやられるまでもなく、水死する。戦闘機のパイロットにとって水上への不時着は文字通りの死を意味していた。零戦に長大な航続力、航続距離が求められたのは、この広大な太平洋と言う戦場で海上に絶対不時着させない為と言う理由があったと、三平や嘉三ら開発チームは後に語っている。その点に関しては、米国海軍も同じであった。ただ、米国の場合は欧州戦線を重要視していたのと、零戦を越える戦闘機の開発に時間がかかっていたと言うそれだけの理由であった。




