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宇宙樹の生贄~少女がドラゴンと七聖樹を旅して世界を救う物語~  作者: 風雅ありす
【第一章】白い使者と黒い竜

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6. 夜が明けるまでは

 洞穴の奥へ着くと、卵は、昼間見た時と変わらず、そこにあった。


 ヒビが入った様子も、動いたような形跡もない。


 触れると温かいので、生きているのが分かる。


 アムルとユースティスは、昼間と同じように絨毯の上へうつ伏せになり、卵を眺める。


「うーん……まだ孵らないねぇ。なんとか今夜中に生まれてくれませんかねぇ」


 アムルが卵に向かって拝むように話しかける。


 そんなアムルの明るい様子を見ていられず、ユースティスは、視線を逸らした。


 モリスの話では、明日、アムルの迎えが来るという。


 時間までは指示されなかったが、明日は、村から外へ出ないようにとモリスからきつく言われている。


 卵が孵るところを見るなら、今晩が最後のチャンスなのだ。


「やっぱり、石で割っちゃおうか」


 アムルがおもむろに傍に落ちていた石を拾って振りかざしたので、ユースティスが慌ててそれを留めた。


(だ、ダメだよ~! 卵が割れないってことは、まだ生まれる準備が出来ないってことなんだから。

 無理に割っちゃったりしたら、死んじゃうことだってあるんだよ)


 ユースティスに石を奪われて、アムルがちぇっと舌を鳴らす。


 耐えきれず、ユースティスが心の中で呟く。


(このまま逃げちゃおうよ、二人で)


 アムルがぱっと顔をあげた。


 その顔は、ユースティスの期待に反して、心底嫌そうな顔をしている。


「やだよぉ。あたし、逃げるの嫌いだもん。それに、ゆーくん、あたしより足が遅いし、体力もないじゃない。きっと、すぐに捕まっちゃうよ」


(でも、でも……それでも、僕は、アムルがいなくなるのは、嫌だよ…………!)


 ユースティスが俯く。


 赤い絨毯の上に雫がぽたぽたと落ちて、シミをつくる。


 ユースティスは、泣いていた。


 アムルがユースティスの頭をぽんぽんと撫でる。


「ありがとう。ゆーくんは、優しいね。

 でも、あたしなら大丈夫。ゆーくんなら、感じるでしょう?

 それに……ゆーくんなら、あたしがいなくても、逞しく生きていけるよ」


 ユースティスは、嗚咽を堪えながら顔を上げることが出来ない。


 そんなユースティスの白い後頭部をアムルは愛おしそうな目で見つめる。


「この卵のこと、ゆーくんが守ってあげてね」



  §  §  §



 その夜、モリスは、自室へ戻らず、図書館の古い蔵書を漁っていた。


 いつもならとうに寝ている時間だが、目が冴えていて眠れそうにない。


 ここは、図書館の中でも村の誰も入ることが出来ない、禁書が置いてある小さな個室だ。ここにある本は、どれもモリスが一度は目を通したものばかりだ。


 それなのに、ここで調べものをしているのは、我ながら無意味な悪足掻きだとしか思えない。


 この歳になって、こんなに何かに心を乱されることになるとは、自分でも思わなかった。


 何か自分の見落としているものはないか、それを探す。


 それが何かすら分からないが、何もしないではいられなかった。


 何をしていても、昼間の光景が頭にちらつくのだ。


『いいよ。あたしの心で世界が救えるなら。

 みんなが幸せになるなら。あたしのハートを世界にあげる』


 あの時の、アムルの真っすぐで純粋な瞳が脳裏に焼き付いて離れない。


 眠れる筈がない。


 アムルは、〝どうして自分なのか〟とは、一度も口にしなかった。


 まるで自分が選ばれるのが誇らしいとでもいうように、胸を張って笑っていた。


 アムルは、そういう子なのだ。


 もし、アムルが断っていれば、誰か他の者が犠牲に選ばれることになる。


 だからこそ、<鍵>として選ばれるのは、アムルでなくてはいけなかったのだ。


(わしの選択は間違っていなかった……)


 そう頭で解ってはいても、やはり心は痛む。


 これまで十年、アムルの親代わりとして育ててきたのだ。


 良心が痛まない筈がない。


 せめて優しい嘘でアムルを見送ってやることができたら、と考えていたのだが、その目論見もくろみは、ユースティスによって打ち破られてしまった。


 一瞬、あの優しく大人しい少年を恨む気持ちに囚われてしまったが、それもアムルの無垢な瞳に救われた。


 アムルの笑顔には、見る者の心を優しく解きほぐす不思議な力がある。


 何の魔力も持ってはいないが、それこそがアムルの能力だともいえるだろう。


(初めから分かっていた筈じゃ……)


 アムルを引き取った時から、この時が来るのは、分かっていた。


 世界のために必要なことなのだと覚悟はしてきた。


 それでも、モリスの脳裏には、アムルの笑顔が焼き付いて離れてくれない。


 例え、無駄だと分かっていても、悪足掻きだとしても、モリスは、本をめくる手を止めることが出来なかった。


 モリスは、そのまま窓から朝日が差し込むまで蔵書を漁り続けた。

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