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宇宙樹の生贄~少女がドラゴンと七聖樹を旅して世界を救う物語~  作者: 風雅ありす
【第二章】 -風樹編-

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24. 暴漢と風来坊

 アムルたちの三人は、宿屋へ向かって小道を歩いていた。


 すると突然、脇道から一人の男が風のように飛び出して来た。


 あまりにも急だったため、先頭をスキップしていたアムルが、それに気づかず衝突してしまう。


「うわっ」

「ぎゃっ」


 二人は、もつれるように地面に倒れた。


(アムル?! 大丈夫?)


 ユースティスが慌てて、アムルに駆け寄る。


 一見、男の下敷きにされる形になったアムルだったが、男が両手を地面に着いて自身の重みを支えていたことで、かろうじて押しつぶされずにいた。


 男の長い翡翠色の髪が、石畳に水紋を描くように広がっている。


「大丈夫?」

「ほぇ」


 優しく声をかける男の端正な顔立ちが、アムルのすぐ目の前にある。


 ぽっと頬を染めるアムルを見て、ユースティスは、理由の分からない胸のムカつきを覚えた。


(なんだろう……これ……)


 その時、男が飛び出してきた脇道から大勢が駆けてくる足音が聞こえてきた。


「待てや、ごらぁあ〜!!」


 怒声と共に脇道から現れたのは、見るからに柄も人相も悪い粗野な男たちだった。五、六人……いや、十数人はいる。


「やれやれ……しつこい男は、嫌われるよ」


 涼やかな声を発しながら、倒れていた男が立ち上がる。その際、小さな声で「立てる?」と聞きながら、アムルに向かって手を差し出した。


 翡翠色の長髪が、はらりと顔にかかるのを手で耳にかける。


「お前……イサールか?」


 シンの驚いた声に、男が振り向いて、その薄く整った眉をひそめて見る。仮面を被っているので、自分に声を掛けた人物が誰なのか分からないのだろう。


「その声は……シン?」


 イサールと呼ばれた男の瞳が大きく見開かれた。その瞳の色は、髪と似た色をしている。


「なんだ、お前らの仲間か? んなら、そいつの分まで礼をしなきゃな」


 悪漢たちの中から、黒い髭を蓄えた一人の男が一歩前に出て、指を鳴らす。その両腕は、毛の生えた太い丸太のようだ。


「一体、何の話だ」


 シンが落ち着いた声で聞き返すと、黒い髭の男が顎をしゃくって答える。


「そこの緑の髪した兄ちゃんがな、俺らの仲間を可愛がってくれたみたいでよ。

 これは、そのお礼ってとこよ」


「遠慮する」


 あっさりと即答するシンの態度に、一人の痩せこけた男が声を荒げて、シンに飛び掛かる。


「っるせぇ!」


 しかし、シンは、男の拳からさっと身をかわした。

 勢い余った痩せた男は、そのまま地面に転がる。


「なんだ、イサール。腕が鈍ったんじゃないのか?」


 シンの挑発するような台詞に、イサールは、不敵に微笑んで見せた。


「まさか」


 その様子を見ていた悪漢たちは、自分たちを馬鹿にされたことに腹を立て、顔を真っ赤にして怒声を上げた。


「……やろう~……やっちまえ!」


 黒い髭男の掛け声に、十数人の悪漢たちが一斉に、二人に向かって殴りかかる。


(アムル、危ないよっ! こっち!)


 傍で、茫然と突っ立って見ていたアムルを、ユースティスが道の脇へと引っ張って避難させる。


(ど、どうしよう……人を呼んで来た方がいいかなぁ)


 ユースティスが迷っている間にも、乱闘は激しさを増していった。


 しかし、それは、ユースティスが心配していたものとは違っていた。


 シンとイサールは、互いに背中合わせになり、悪漢たちを次から次へと流れるように薙ぎ倒してゆく。その様は、まるで大人が赤子を相手にするかのごとくだった。


「お、覚えてろよぉ〜!」


 最後に悪漢たちは、三流以下の捨て台詞を吐きながら、脇道へと逃げて行った。

 シンとイサールは、傷一つ負っていない。


「……まったく、なんだってこんなことに」


 シンの愚痴は、最後まで言い終えることが出来なかった。

 くるりと振り返ったイサールが、両腕を広げてシンに抱きついたのだ。


「シ~~~ン♡ 生きてたのね!

 会いたかったわぁ~♡」


 その裏返った女のように甲高い声を聞き、シンは、イサールに抱きつかれたまま、石のように固まっている。身体に触れるイサールの体つきは、ごつごつとした男のものだ。


 数秒後、意識を取り戻したシンは、イサールを引きはがして、彼に背を向けた。


「……いや、すまん。どうやら人違いだったようだ」



  §  §  §



 風見鶏亭にて、女将の振る舞ってくれた食事を前に、一同が顔を合わせていた。


 メニューは、朝と変わりないが、人数分にしては量が増えており、スープには何かの肉片が浮かんでいる。


 たくさん食べてくださいね、と言って、女将さんは、イサールに向かって熱い眼差しを送った。


「……で、その者は?」


 ベトゥラが、イサールに向かって問いかけた。


 それに、シンが答える。


「彼は、俺の……いや、私の《《弟》》弟子のようなもので、名をイサール=エヴァンと言います」


「いやぁ~ん、弟だなんてっ。妹って言って欲しいわぁ~♡」


 イサールは、自分の頬に手をやり、しなっと身体をくねらせる。


「ベトゥラ様! こいつの言葉には、耳をかさないでやってください!」


 声を荒げて訴えるシンを、ユースティスは、意外に思いながら見ていた。


 たった十日ほどではあるが、シンがここまで感情を露わにする姿を見るのは、他の三人の使者たちを含めて初めてのことだった。


 そんな中、アムルだけは、スープの肉片を美味しそうに頬張っている。


「俺の記憶違いでなければ、《《弟》》弟子だったはずだがっ」


 シンの棘だった口調にも、イサールは、笑顔を崩さない。


「まぁ〜……色々あったのよぉ。

 今の私のことは、〝イル〟って呼んで♡

 シンとはぁ~……将来を約束した仲じゃな〜い」


「そんな約束をした覚えはないっ!!」


 思わず席を立つシンに、イサールが流し目を送る。


「あら、忘れちゃったの?

 お互いがピンチの時には、必ず駆けつけるって、誓い合ったじゃない。

 あれは嘘だったわけぇ〜?」


「それは友人として、だろう。

 誤解されるような言い方をするなっ!

 第一お前は、こんなところで何をしているんだ。《《樹官長の継承者さん》》?」


「なっ」

「樹官長の継承者だと……?」

「風樹のか?」

(この人が……っ?!)

「ん? ……あ、逃げた人?」


 シンの発言に、全員がイサールの方を向く。


 しかし、イサールは、注目されるのが嬉しいのか、頬を染めながら片目を瞑ってみせた。


「はぁ~い♪ そうよ~。私が、風樹の次の樹官長なのぉ~。

 でもぉ、逃げただなんて、人聞きが悪いわねぇ。

 ただちょーっと、自分探しの旅に出てただけよぉ~」


「なら、なぜ戻って来た?」


「路銀が尽きちゃったから、帰って来ちゃった〜♪」


「ふ……ふざけるなぁ~~~!!!」


 シンの怒声は、ウィンガムの大通り中に響いて聞こえたとか、聞こえなかったとか。

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