池
夏のホラー2024の参加作品です。
ご一読よろしくお願いします。
以前より、タイトル一文字をやりたかったのです。
池
序
江戸の時代は、池袋村(現在の東京都豊島区の中心地域)や池尻村(現在の東京都世田谷区の町名)の出身の女性を雇うと、その家に怪奇が起こるとの噂がありました。
池尻村に関しては、江戸南町奉行などを務めた、根岸鎮衛(1737年~1815年)が、その著した耳嚢にて、池尻の女性を雇った家にて怪奇が起こった、と記載しております。
興味深いのは、どちらも「池」が付いた村名です。
「池」の付いた村の女性を雇うと怪奇が起こるのか。確かなことは、この噂を当時の江戸の人々は、強く信じていたそうです。
一
文政の終り頃。
とある西国の藩の中屋敷にて、隠居した元藩主が居住していた。
夏の暑い時期。ご隠居は屋敷で一番涼しい部屋で寝るのを常としていた。
この部屋は庭に面していて、庭には大きな池がある。
庭に面した障子や襖などを全て開け、蚊帳の中で寝るご隠居。
だが、夜中になると、庭の池の蛙がうるさく、なかなか寝付けない。
障子を閉じれば、鳴き声は左程気にならないが暑い。
他の部屋はもっと暑い。
ご隠居は使用人たちに、池の蛙の駆除を命じた。
駆除といっても殺生は忍びないと思ったのか、捕まえた蛙を近くの川へ逃がす程度。
だが、ご隠居の寝所に面した池からは、またも蛙が大量発生。
中には庭から縁側まで飛びつき鳴き騒ぐ。
二
「蛙を始末したのか?」
「捕まえて、近くの川に放り出しました」
「その蛙共があの池に戻っているのだ。全て殺してしまえ」
ご隠居は使用人たちに厳命する。
こうして池の蛙の鳴き声はせず、ぐっすりとご隠居は眠る事が出来た。
だが、数日後。
またも池に蛙が大量発生。
ご隠居の寝所は夜に蛙の鳴き声に満ち、再び眠れぬ日々が続いた。
駆除しようとするも、何と日中には蛙たちは池から離れ、夜になると、何処からかこの池に集まっている様だった。
西国出身のご隠居は、親しくしていた江戸町奉行の役人たちから、江戸での噂話を聞いた。
「先代殿。お屋敷で『池袋村』出身の女を雇っていますでしょうか? 池袋の氏神というのは、自らの氏子が他へと遣られるのを嫌うので、怪奇を起こすと言います。若し『池袋村』の女を雇っていたら、暇を出すべきです」
「おいおい、その手の話は聞いたことがあるが、『池尻村』だぞ。先代殿。『池尻村』の女に暇を出すのです」
ご隠居が自身の屋敷の使用人の女たちの出身を調べると、池袋も池尻も共に数名居た。
彼女たちはこの噂を信じたご隠居に、強制的に屋敷から追い出された。
三
不思議なもので、「池」の付く村の女たちを追い出すと、夜は静かになった。
処が数日後。またも池に蛙が大量発生。
夜になると鳴き声だけでなく、部屋は勿論、蚊帳の上にも何十匹と飛びつき大騒ぎ。
怒り心頭のご隠居、庭の池自体を埋めて、蛙が現れない様にしろ、と使用人たちに命じた。
翌日、池は埋められた。
以降、蛙は現れなくなる。
暑い夜は続く。ご隠居は漸く安眠出来る様になった。
流石に暑い日々が過ぎ去り、秋の気配がする時期。
ご隠居も蚊帳を片付けさせ、寝る時には障子や襖を閉じる様になった。
とある日。
何時まで経ってもご隠居が寝所から出て来ない。
無礼、と思いながらも、ある使用人が主人の部屋の襖を開ける。
「あっ……!?」
何と布団の中にはご隠居は居ない。
既に起きて、広い屋敷の何処かに居るのか?
屋敷中を探し回るも何処にも居ない。
そして、屋敷外に出て、方々を探すも、ご隠居の姿は見つからなかった。
四
この西国の藩主が、父が行方不明と聞き、屋敷に現れた。
藩主が中心となって、江戸中を探し回るが、結局ご隠居は見つからない。
頻繁にではないが、たまにこの中屋敷へ来る藩主。
庭の池が埋められているのに気付く。
「何故、池が埋められている?」
中屋敷の使用人は真夏の蛙騒動を話す。
「もう蛙は出ないのだろう。池を元に戻せ」
藩主の命で、埋められた池が掘り返される。
「……!」
一同は仰天。
中には既に事切れた寝巻姿のご隠居が見つかった。
世の人々は、「池袋村の女を粗末に扱ったからだ」とか、「いや、池尻村の女をだ」と噂し合ったが、ある者はこう述べた。
「殺生をし、池自体を粗略に扱ったからだよ」
後にこの事件は「池の怪」と呼ばれるようになる。
池 了
次の投稿作品は、多分秋の歴史になると思います。
現在作成中ですが、すご~く混乱しています。
混乱の理由は現代史をテーマにしたからです。
現代史をテーマにした理由は、去年の秋の歴史で現代史(平成時代を扱ったもの)に印象に残った作品が多かったからです。
自分もやってみよう、と挑戦したら、見事にドツボにはまって、なかなか進みません……。
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