表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

江戸怪奇譚集

作者: 大野 錦

夏のホラー2024の参加作品です。

ご一読よろしくお願いします。


以前より、タイトル一文字をやりたかったのです。



 江戸の時代は、池袋村(現在の東京都豊島区の中心地域)や池尻村(現在の東京都世田谷区の町名)の出身の女性を雇うと、その家に怪奇が起こるとの噂がありました。


 池尻村に関しては、江戸南町奉行などを務めた、根岸(ねぎし)鎮衛(しずもり)(1737年~1815年)が、その著した耳嚢(みみぶくろ)にて、池尻の女性を雇った家にて怪奇が起こった、と記載しております。


 興味深いのは、どちらも「池」が付いた村名です。

 「池」の付いた村の女性を雇うと怪奇が起こるのか。確かなことは、この噂を当時の江戸の人々は、強く信じていたそうです。



 文政の終り頃。

 とある西国の藩の中屋敷にて、隠居した元藩主が居住していた。


 夏の暑い時期。ご隠居は屋敷で一番涼しい部屋で寝るのを常としていた。

 この部屋は庭に面していて、庭には大きな池がある。


 庭に面した障子や襖などを全て開け、蚊帳の中で寝るご隠居。

 だが、夜中になると、庭の池の蛙がうるさく、なかなか寝付けない。

 障子を閉じれば、鳴き声は左程気にならないが暑い。

 他の部屋はもっと暑い。


 ご隠居は使用人たちに、池の蛙の駆除を命じた。


 駆除といっても殺生は忍びないと思ったのか、捕まえた蛙を近くの川へ逃がす程度。


 だが、ご隠居の寝所に面した池からは、またも蛙が大量発生。

 中には庭から縁側まで飛びつき鳴き騒ぐ。



「蛙を始末したのか?」


「捕まえて、近くの川に放り出しました」


「その蛙共があの池に戻っているのだ。全て殺してしまえ」


 ご隠居は使用人たちに厳命する。


 こうして池の蛙の鳴き声はせず、ぐっすりとご隠居は眠る事が出来た。

 だが、数日後。

 またも池に蛙が大量発生。

 ご隠居の寝所は夜に蛙の鳴き声に満ち、再び眠れぬ日々が続いた。


 駆除しようとするも、何と日中には蛙たちは池から離れ、夜になると、何処からかこの池に集まっている様だった。


 西国出身のご隠居は、親しくしていた江戸町奉行の役人たちから、江戸での噂話を聞いた。


「先代殿。お屋敷で『池袋村』出身の女を雇っていますでしょうか? 池袋の氏神というのは、自らの氏子が他へと遣られるのを嫌うので、怪奇を起こすと言います。若し『池袋村』の女を雇っていたら、暇を出すべきです」


「おいおい、その手の話は聞いたことがあるが、『池尻村』だぞ。先代殿。『池尻村』の女に暇を出すのです」


 ご隠居が自身の屋敷の使用人の女たちの出身を調べると、池袋も池尻も共に数名居た。

 彼女たちはこの噂を信じたご隠居に、強制的に屋敷から追い出された。



 不思議なもので、「池」の付く村の女たちを追い出すと、夜は静かになった。


 処が数日後。またも池に蛙が大量発生。

 夜になると鳴き声だけでなく、部屋は勿論、蚊帳の上にも何十匹と飛びつき大騒ぎ。

 

 怒り心頭のご隠居、庭の池自体を埋めて、蛙が現れない様にしろ、と使用人たちに命じた。


 翌日、池は埋められた。

 以降、蛙は現れなくなる。

 暑い夜は続く。ご隠居は漸く安眠出来る様になった。


 流石に暑い日々が過ぎ去り、秋の気配がする時期。


 ご隠居も蚊帳を片付けさせ、寝る時には障子や襖を閉じる様になった。


 とある日。

 何時まで経ってもご隠居が寝所から出て来ない。

 無礼、と思いながらも、ある使用人が主人の部屋の襖を開ける。


「あっ……!?」


 何と布団の中にはご隠居は居ない。

 既に起きて、広い屋敷の何処かに居るのか?

 屋敷中を探し回るも何処にも居ない。


 そして、屋敷外に出て、方々を探すも、ご隠居の姿は見つからなかった。



 この西国の藩主が、父が行方不明と聞き、屋敷に現れた。

 藩主が中心となって、江戸中を探し回るが、結局ご隠居は見つからない。


 頻繁にではないが、たまにこの中屋敷へ来る藩主。

 庭の池が埋められているのに気付く。


「何故、池が埋められている?」


 中屋敷の使用人は真夏の蛙騒動を話す。


「もう蛙は出ないのだろう。池を元に戻せ」


 藩主の命で、埋められた池が掘り返される。


「……!」


 一同は仰天。

 中には既に事切れた寝巻姿のご隠居が見つかった。


 世の人々は、「池袋村の女を粗末に扱ったからだ」とか、「いや、池尻村の女をだ」と噂し合ったが、ある者はこう述べた。


「殺生をし、池自体を粗略に扱ったからだよ」


 後にこの事件は「池の怪」と呼ばれるようになる。


池 了

次の投稿作品は、多分秋の歴史になると思います。

現在作成中ですが、すご~く混乱しています。


混乱の理由は現代史をテーマにしたからです。

現代史をテーマにした理由は、去年の秋の歴史で現代史(平成時代を扱ったもの)に印象に残った作品が多かったからです。


自分もやってみよう、と挑戦したら、見事にドツボにはまって、なかなか進みません……。



【読んで下さった方へ】

・レビュー、ブクマされると大変うれしいです。お星さまは一つでも、ないよりかはうれしいです(もちろん「いいね」も)。

・感想もどしどしお願いします(なるべく返信するよう努力はします)。

・誤字脱字や表現のおかしなところの指摘も歓迎です。

・下のリンクには今まで書いたものをシリーズとしてまとめていますので、お時間がある方はご一読よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
■これらは発表済みの作品のリンクになります。お時間がありましたら、よろしくお願いいたします!

【短編、その他】

【春夏秋冬の公式企画集】

【大海の騎兵隊(本編と外伝)】

【江戸怪奇譚集】
― 新着の感想 ―
[一言] 9月に入って、時間の余裕がちょっとできてきたので遅ればせながら、私が書いたならこの話のオチがどうなるかなぁって考えつつ、夏ホラー、読ませてもらいました。もう秋ですけど。 その1 ご隠居が…
[良い点] カエルの声、一匹でも気になったらうるさいのにたくさんとは。 始まりはどうして?何故そんな事に?ですよね。 御隠居は他で何かしたのかも? 秋まで待てば静かになったかもなのに。 [一言] 面…
[一言] 導入の語りかけ口調に引き込まれますね 【池】に始まって【池】に終わる、夏にふさわしい怪談でした 個人的には蛙大量発生はご勘弁願いたいです 素敵なお話を有難う御座いました
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ