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第八十九話:入れ替わり

「どういうこと?」


 ヴァンが尋ね、店長である女性が口を開く。


「ブードラのボトルキープなんてないよ。あいつは注文した酒はその日中に全て飲んじまうんだから」


「なら、なんであるって嘘ついたの?」


 サキの問いに店長が口を開く。


「暗号なんだよ。酒場 夜風でブードラのボトルキープを要求するっていうのはさ、あたいに対するブードラのメッセージ"こいつらに全てを話せ"っていうね」


 そんな店長の発言にサキが首を傾げる。


「全て話せって?」


「まずあたいはさ、元々この国の王に仕えてたメイドだった、ペロムって言うんだ」


「え? てことはあのいけ好かないドレラナーガっていう国王の?」


 ぺロムと名乗った大柄な女性は顔をしかめた。


「うーん、まあそうっちゃそうだけど、違うっちゃ違うんだ」


「どういうこと?」


 サキが首を傾げる。薄暗い部屋のろうそくの灯りが揺れた。


「これを口にするのもこの国ではかなりやべぇから、外で言うんじゃねぇぞ? この国の王であるドレラナーガは先代から代替わりした後に一度、入れ替わってるんだ。そして入れ替わる前の国王にあたいは仕えてたんだ」


 ヴァンとサキにはぺロムの言葉の意味が分からなかった。


「数十年前、この国は壊滅の危機に陥っていた。財政難でどうしようないタイミングがあったんだ。その時の国王はその責をとって引退を決め、その息子に次の国王を託そうとしていた。


 その息子は元々別の国で勉強し、覇王学やらの様々な学問を学んだ後にこの国の王になる計画だった。その計画の通りに他国で勉強をしていた国王の息子がこの国に連れ戻されることが確定した直後、国王の下で働く男が言ったんだ。


"息子様に国王の座を明け渡したとしても、この国の壊滅は回避できません"


 その言葉に国王は怒った。しかし、その失礼な言葉を口にしたのが国王の右腕と称されるとても優秀な男だったから、一応は国王もそ奴の言葉に耳を貸したんだ」


 ぺロムの言葉をヴァンとサキとアリシアはしかと聞く。ぺロムは当時のことを回想しながら、言葉を発していた。



 ここからはペロムの説明の中にあった、国王の息子がこの国に連れ戻されることが確定した直後付近のシーンに移る。


 国王の右腕である腰の曲がった老人の大臣が国王に告げた。


「次の国王に必要なのは圧倒的なカリスマです。息子様には残念ながらそのカリスマはありません。ぼさぼさの髪、やる気のなさそうな目、だるそうに曲がった口、気の抜けた名前、そのどれもが国王として威厳のあるものではありません」


 国王は怒りの表情をその大臣に向ける。


「だが、代わりがいないぞ」


「いえ、代わりなど用意しなくてもいいのです。とても素敵なアイテムがあります」


 大臣は一つの仮面(赤い長髪を有すイケメンの顔を模ったもの)を国王に渡し、それを国王は手に取った。


「これは?」


「私が秘密裏に手に入れたアイテムです。それを顔につけてみてください」


 国王がそれを言われた通りに顔につけた。元々かなりの高齢だった国王は、大きな目、伸びる鼻、真っ赤な唇、さらにすらりとした長身の、赤髪の若者に変化した。


 圧倒的にイケメンなその顔は、ヴァン達が出会った現国王であるドレラナーガのそれと全く一緒だった。


 大臣は国王に鏡を渡し、国王はその姿に愕然とした。


「分かってもらえるでしょうか、その仮面をかぶると、今の国王様の姿になれるのです。その仮面を国王様の息子である"ブードラ様"に渡し、その仮面をかぶった状態で政治を行わせるのです。そうすることで、カリスマのあるその容姿により、国民からの支持を得られるでしょう」


 そうしてブードラという名の国王の息子はその仮面をかぶった状態で国王になり、名乗るのも大臣から気の抜けたと馬鹿にされたブードラという本名ではなく、偽名であるドレラナーガというものだった。物心ついた頃より他国で勉強をしていたブードラが王になった際に、違う名かつ違う容姿であることに気づく者もいなかった。


 ブードラはとても懸命に国王としての責務を行った。仮面をかぶらされて自らではない別の者の姿で政治をさせられるのはひどく不愉快だったが、それでも国を良くしたいという思いにより懸命に頑張った。


 つけているとかなり体力を消耗するその仮面をブードラは寝る時以外はほとんど着用していた。すなわち、国王として認識されているのはブードラではなく、仮面をかぶった姿であるドレラナーガであった。極論、その仮面であった。それは実は、とてもまずいことであった。


 

 元々国王であったブードラの父が年で亡くなった直後、ブードラの持つその仮面が奪われた。


 誰が奪ったのかは分からない。だが、その仮面を奪った何者かにブードラは国王の座をとって代わられ、国民も国王が代わったことに全くとして気づく余地もなかった。


 当然ブードラは対抗しようとするが、国王の姿を模ったそいつと、天性でやる気のなさそうな見てくれをしているブードラとでは全くとして信用に差があり、ブードラは不審者として兵士により城から追放された。




 そこまで聞いたヴァンとサキは口をあんぐり開ける。


「ブードラって、国王様だったの?」


 ヴァンの発言に対して、ぺロムは静かにうなずいた。

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