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第八十八話:キープボトル

「よし、頑張ろう」


 そんな言葉を、ヴァンが告げた朝。ララーシャとバランと遊んだ翌日のヴァン達は、昨日の朝の絶望感など全く感じさせない凛々しい顔で、朝飯を食す。


「どうやってブードラさんを救うかを、考えなきゃね」


 サキがスープをすすりながら、そう告げる。


「うーん」


 ヴァンが悩む横で、もぐもぐとパンを食べるアリシア。


 "このパン、美味しいわね"


 そんな、アリシアの感想であった。


「ヒントがないかなぁ」


 ヴァンはそう口にした後、少し考えてから、再度言葉を発した。


「酒場 夜風に行こう」


 ヴァンの発言に、サキも同意した。


「確かブードラさんが、奇妙なことを言ってたんだよね」


 サキの言葉の通り、ブードラは国王に連れていかれる際に、"行きつけの酒場にキープしてるボトルがある。それをやる"といった内容の言葉を、発していた。キープしてるボトルということは、お酒だろう。お酒が飲める年齢ではないヴァン達にそれをやるというのは、筋が通っていないように感じる。


「そこに、ヒントがあるかも」


 あくまで、ヒントがある可能性があるだけだ。だが、ちょっとでも可能性があるなら試さなければ、この状況を打破できない。だからこそ、酒場 夜風に向かう。



 朝でもやってる酒場 夜風では、複数の人が、朝から酒を飲んでいた。


「朝から、繁盛してるんだね」


 酒場 夜風に入ったヴァンは、そう口にした。


「この人達は、夜勤業の方々よ。夜働いて、朝の今が仕事終わりなの。そんな頑張り屋さんを受け入れるために、このお店は朝も開いてるんです」


 店員がまだ席にもついていないヴァン達に対して、仕事のさぼりがてら、そう説明した。


「へぇ~」


 ヴァン達は席に案内され、そして店員が、メニュー表を持ってきた。


 だがヴァンはそのメニュー表を見もせずに、店員に尋ねる。


「あの、ブードラがキープしてたボトルって、あったりする? 俺達、それをもらっていいって言われてるんだ」


「あれ? ブードラさんは、ボトルをキープしてたかな?」


 店員が首をかしげながら、奥に引っ込んだ。そして奥から、


「店長~、ブードラさんって、ボトルキープありましたっけ」


という大きな声が響いた後にヴァン達の前に現れたのは、先程の店員ではなかった。


「おう、ブードラのボトルね、あるよ」


 ヴァン達の前に先ほどの店員と入れ替わりで現れた背の高い女性は、ボトルを持っていなかった。


「なら、ください」


 先程店長と呼ばれたその大柄の女性は、四十代くらいに見える。ぼさぼさのちぢれた長髪にくわえたばこ、そして骨ばったいかつい顔のその女性は、飲食店の店長とは到底思えない様相だった。


 その女性はかなり筋肉がついている身体に、この店の制服であろうコックコート及び腰巻のようなエプロンを着て、そのエプロンの下に獣の皮製のズボンを纏うという、服装だった。


「ここにはないよ」


「どういうこと?」


 ヴァンが、尋ねる。


「うちの系列店にある。その系列店は十時に開くから、その時間に、このメモの場所に来な」


 店長はそう言って、とある場所の住所を記したメモ用紙を、ヴァンに渡した。


「ありがとう」


 ヴァンがお礼を言って、酒場 夜風から出ようとした。そのヴァンを、店長が仲良さげに肩を組むことで、止めた。


「もしかして飲食店に入って、何も注文せずに出ようってわけじゃ、ないわよねぇ?」


 店長はヴァンに笑いかけ、ヴァンが、口にする。


「ジンジャエール三つ」


「ジンジャエール一つをやめて、カフェオレにして。砂糖は、たっぷり入れてちょうだい」


「なら、もう一つもやめてコーラにして」

 

 そうして運ばれてきたジンジャエールにカフェオレ(砂糖多め)にコーラ。それを飲んでからヴァン達は、酒場 夜風から出た。


「十時か。まだちょっと、時間があるね」


 ヴァン達は少しだけ時間をつぶそうと、この国を歩く。娯楽溢れる楽しみの国では時間などすぐに経過し、店長が告げていた、お店が開く時間になった。


 店長からもらったメモに書かれていた場所にたどり着いたヴァン達は、不思議に感じた。


「ここ?」


 そのメモの住所に存在していたのは、レンガでできているが所々そのレンガが欠けているという、ボロ屋敷であった。


「きゃはははは、ここはどう考えても、居酒屋じゃないわよね」


 アリシアが、笑う。


「うん、そうだね。場所を間違えたのかな」


 ヴァンが、首を傾げた。そのおんぼろの家の扉が少しだけ開いて、そこから一人の女性が、ヴァン達を見た。


「入りな」


 その扉からヴァン達を手招きするのは、酒場 夜風の店長である大柄の女性で、その女性に急かされてヴァン達は、家の中に入った。


 カーテンを閉め切って光の入らない家の中、ろうそくの光が、灯っていた。

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