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第八十五話:恥ずかしがり屋の友達

 ララーシャがステージに降りて、自らのスキル"恥ずかしがり屋の友達"を、発動した。


 元々人間一人分程の大きさであったはずのララーシャの影がどんどんと地面に広がっていき、巨体オーガなど目じゃないほどに、大きくなった。


 そのララーシャの影は地面から起き上がり、ステージ上に立ち上がった。かなり広いこのサーカスのテントすら窮屈そうなララーシャの影は真っ黒な実体を持って世界に君臨し、その両手で、巨体オーガの両方を握った。


 そして勝負は、その一瞬でついた。観客及びサーカスの演者は皆逃げ、ララーシャのそのスキルを見たのはヴァン、サキ、バラン、アリシア、巨体オーガ、そして、スキルの使い手であるララーシャのみであった。


「うふふふふ、落ち着きなさい、君達」


 ララーシャが巨体オーガに対して微笑み、巨体オーガは、その動きを止めた。もっとも拘束されている以上、巨体オーガがそれ以上動くことは、そもそもできなかった。


「ラ、ララーシャ様」


 巨体オーガ(実は喋れた)が、ララーシャの姿を見て、理性を取り戻した。


「うふふふふふ、落ち着いたわね」


 ララーシャが、そう告げた。


 巨体オーガを拘束していたその影が手を放し、元の大きさに戻るかのように、ララーシャの足元に収まっていった。


「申し訳ございません、人間達に拘束されたことにより、我を忘れてしまっておりました」


 巨体オーガが、そう告げる。


「うふふふふ、いいのよ、気にしないで」


 巨体オーガが、ヴァンとサキを見る。


「貴様ら、何故人間が、ララーシャ様と一緒にいるのだ?」


「あら、彼らは私のお友達なの。だから心配しないで、彼らは貴方達に、危害を加えないわ」


 ララーシャは、そう言って笑う。


「さて、貴方達は早く逃げなきゃね。もうすぐここに、兵士達が集まってくる。そうなったら魔族である貴方達は捕らえられ、暴れた罪で処刑されてしまうでしょうからね」


 巨体オーガ達は、顔をしかめる。


「そうですね。ですが、人間達が数多はびこるこの国から、巨体の我らが逃げ切るのは、容易ではありません」


「うふふふ、私を誰だと思ってるのかしら? スキル"恥ずかしがり屋の友達”」


 ララーシャが再度、そのスキルを発動した。小さなコウモリのような形状になった影が地面から飛び出て、ララーシャの周りを飛んだ。そのコウモリのような影が、二体の巨体オーガに触れた瞬間、巨体オーガの体はその影に吸い込まれるように、消えていった。


「この国の外の森に移動させてあげるから、そこからは、自力でお逃げなさい」


 ララーシャの言葉に従うかのようにコウモリのような影が、その場から飛んでいった。


「きゃはははははは、終わったわねぇ」


 アリシアとバランがいつの間にか、ステージに降りてきていた。


「ヴァン師匠もサキおねぇちゃんもララーシャおねぇさんも、みんなすごいねぇ」


 バランはそう喜ぶが、ヴァンが悔しそうな顔をしていた。


「いや、俺達は何もできなかった。ララーシャさんがいなかったら俺達は、負けていた」


 ララーシャが微笑む。


「あら、何もできなかったは、卑下しすぎじゃないかしら? 貴方達が割って入らなきゃ、あの猛獣使い達は死んでた。だから、貴方達が飛び出したのは勇者として、決して悪くない行いだったわよ。それに、ヴァン君は前回私と戦った時よりも、はるかに成長してた。それは、とっても素敵なことよ?」


 アリシアが、ララーシャに対して告げる。


「あんまり、甘やかしすぎないの」


 そんな、アリシアの発言だった。


「さて、私達も逃げましょう。さすがに兵士に私の姿をまじまじと見せるのは、避けたいからね」


 ララーシャがそう口にし、ヴァン達は本来良いことをしたはずなのに、そのサーカスのテントから、逃げるように移動した。


「バラン君、さっき見た大きな影のことは、内緒にしてね。ここにいるメンバーだけの秘密よ」


 サーカスのテントから離れた場所で、ララーシャがバランに対して微笑みながら、そう告げる。


「ここにいるメンバーだけの秘密……」


 バランがゴクリと、唾をのんだ。


「分かった、僕さっきのことを、絶対に秘密にする」


 バランは元気よく、そう宣言した。


「うふふふ、なら、指切りげんまん」


 ララーシャが小指をバランの前に出し、バランがその小指に、自らの小指をからませた。


「指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲~ます」


 そう言って笑った、二人だった。そしてヴァン達は、サーカスのテントから離れた場所を、歩く。ララーシャの元にコウモリ状の影が戻ってきて、その足元に収まった。


「うふふ、お腹がすいたわねぇ」


 ララーシャが、そう口にした。


 夕日が世界を照らしており、確かに晩御飯の時間に近づいてきているようだった。


「みんなで、晩御飯を食べましょうか」


 アリシアの提案に対して、ララーシャが微笑む。


「ええ、是非」

 

 夕日に照らされるその笑顔は、あまりにも美しかった。

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