第七十三話:大きな金庫
「なっ!!!!」
ブードラに肩に手を置かれたその男は、驚きの表情を作った。
「人の金でギャンブルかよ。良いご身分だなぁ、キミュ」
ブードラがその男の頬につく、ガーゼをはがした。そこには、すでに治っている傷の跡が見えた。
「なんで俺が、ここにいるのが分かったんだよ」
キミュと呼ばれた男は、焦る。
「そんなことは、どうでもいいんだよ。さっさと金を、返しやがれ」
ブードラは顔を真っ赤にして、キミュに怒鳴る。
「あの、他のお客様の迷惑になりますので」
店員がどこかからやってきて、ブードラをなだめる。
「そうそう、ちょっと落ち着けよ」
キミュがそう言って、笑う。そしてキミュは、ブードラのいない方向に向かって、いきなり走り出した。
「待て!!!!」
ブードラがそう告げる。キミュにとって残念なことに、キミュが逃げることも想定し、あらかじめ待ち構えていたヴァンが、キミュを通せんぼした。
キミュがその拳を振りかざし、ヴァンを殴ろうとした。
「スキル"速度4倍"」
勇者であるヴァンと一般人であるキミュの戦いは、一瞬で決着がついた。ヴァンがキミュの腕を掴んで、その背に回した。
「逃げられないよ」
ヴァンの発言に対してキミュは、舌打ちした。そして観念したように、謝罪の言葉を吐いた。
「すまん、本当にすまん。金なら、すぐに返す」
そのキミュの言葉に返答したのは、ブードラではなかった。
「あなた方、暴れるんなら出ていってください」
そんな店員の叱責でヴァン達は、キミュと共に、スロット屋の外に出た。
そしてスロット屋の外で、改めてキミュを詰めるブードラ。
「てめぇ、分かってるよな? 借金の返済期限は、今日の15時なんだ。今すぐ俺から奪った金を、耳を揃えて返しやがれ」
「分かった分かった。返す、返すよぉ。だから、金を保管してる俺の家に、来てくれ」
キミュはそう言って、家まで歩いて行く。そのキミュの腕を、ブードラが掴んでいた。手首を握っているような状態になっているその二人は、とても仲良しそうに見えた。
「まだか?」
それから三十分ほども歩いていたが、キミュの家には到着しなかった。
「待ってくれよ、もうすぐだ」
さらに十五分ほど歩き、やっとキミュの家に到着した。時刻はすでに、昼の12時だった。
そしてキミュの二階建ての家に入り、その二階に向かう階段を上がる一行。
二階にあるその部屋は、数多の本が並べられている本棚と、本を読むために使用するであろう机と椅子、さらにカーテンのかかった大きな窓のみという、さっぱりしたレイアウトだった。
「お前、チンピラみたいな見た目なのに、かなり読書家なんだな」
その部屋を見たブードラは、意外そうな表情を作った。
「そんなわけねぇだろ。これは、フェイクだよ」
キミュがその本棚を、横に動かした。本来は壁が現れるはずのその奥には凹みがついており、ダイヤル式かつ人すらも入れるほどの大きさの金庫が、存在していた。
「ここに、金が入ってるんだ」
「おう、ならさっさと開け」
ブードラの命令に対して、キミュがほざく。
「うるせぇ、ちょっと待ってろ。めちゃくちゃ大金が入ってるから、かなり長い暗証番号にしてるんだよ」
キミュがそのダイヤルをカチカチと回し、そして一分後、「あれ?」という、ふざけた言葉を発した。
「どうしたんだ?」
ブードラが、そう問う。
「暗証番号間違ったかな? なら、これか?」
キミュはそう言葉を発し、何度も何度もダイヤルをカチカチしていたが、金庫は開かなった。
「時間かかりそうだから、弁当買ってくるよ。みんなは何が良い?」
サキがそう言い、「焼き肉弁当〜」と返答するヴァン。「ならあたしも、それでいいわよ」と、アリシアが口にし、「すまん、俺もそれで」と、ブードラも言葉を発した。
「俺は、おにぎり弁当がいい。家から出たすぐそばにある店に売ってるのが、美味いんだ」
最後の言葉はキミュのセリフで、ブードラが「調子に乗るな、この詐欺師野郎が」と言いながら、薄い本でキミュの頭を、はたいた。
そしてサキが、お弁当を買って戻ってきた。
「まだ開いてないんだね」
サキが金庫のダイヤルをカチカチするキミュを見て、残念そうな顔をした。
キミュを監視しながらヴァン達は各々の弁当を食べ、弁当を食べ終わってもその金庫は、開いていなかった。時刻はすでに14時で、ブードラが金を返す期限である15時が、迫っていた。
しびれを切らしたヴァンが、キミュに告げる。
「どいて。もう暗証番号は思い出せないんでしょ?」
そしてヴァンが、金庫の前に立つ。
「スキル"焔の心"」
ヴァンがそう告げ、鉄製の金庫すら燃やせる黒炎をまとった。そしてその黒炎で、金庫の一部である錠の箇所を溶かし、その金庫は開いた。
「なんだと?」
ブードラが、驚きの声を上げた。
そこにお金は、ほとんど入っていなかった。




