第七十一話:忙しいサキ
18時になり、夕日が落ちてきて、夜が始まろうとしていた。
「よし、今日はそろそろ終わろう」
ヴァンの言葉にバランが、
「押忍!!!!」
と、返答した。
「この本借りてもいい~?」
「もちろんだ」
ヴァンから渡されたそれをバランは、とてつもない宝物のように抱いた。
「きゃははははは、終わったのね」
遊びに行っていたアリシアが戻ってきて、そう口にした。
「うん、続きは明日だ」
ヴァンの言葉に対してバランが、頷く。
「うん、明日も今日と同じ場所に、同じ時間で集まろうね」
「おう、明日も頑張ろう」
「押忍!!!!」
バランが元気よく、そう返事した。
「あんた、もしかしてこれで、終わりじゃないわよね?」
アリシアが、ヴァンを見つめる。ヴァンはアリシアの言葉の真意が、分からなった。
「あんたさ、せっかくかわいい弟子ができたんだから、修行終わりにアイスでもおごってあげなさいよ」
"闇の化身"の言葉とは到底思えないその発言にバランが、喜んだ。
「わーーい、アイスアイス~~~~」
「おう、勇者の俺はたくさんお金を持ってるから、好きなアイスを買ってやろう。何なら、二段アイスでもいいぜ?」
ヴァンはとてつもないどや顔で、バランにそう告げる。
「わーーい、二段アイスだ~~~~」
喜ぶバランにアイスを買ってやり、家まで送り届けた、アリシアとヴァンだった。
「さて、サキを回収しに行きましょう。晩御飯を食べなきゃ」
ちゃっかり三段アイスをヴァンに買ってもらったアリシアは、バニラ、いちご、オレンジのアイスを舐めながら、ヴァンの隣を歩く。
ヴァンは思う。
"そんなにアイスを食べたら、晩御飯が入らなくなっちゃいそう"
そしてヴァンとアリシアは、神と闇の化身の銅像の横に、戻ってきた。夜だというのにそこには、かなりの人ごみができていた。
「ははははははい、ちょっと待ってください!! 順番、順番ですよ~」
人ごみの中、サキがほとんど叫ぶかのように、そう口にしていた。
たくさんの人でにぎわう、サキの周り。サキが、目を回していた。
サキはこの場所に病気や怪我の人を集め、その治療をすることを、自らの修行としていた。だが、サキの想定よりも人が来ており、その場所はごった返していた。
「あーーーー、これはあの娘、まだまだ解放されないわね」
アリシアがサキの横に行ってから、言葉を発す。
「あたし達、サキより先に、ご飯食べてるわね。きゃはははははは」
アリシアが目を回すサキに対して、不意なダジャレをかました。
「分かったぁぁぁぁぁ」
サキが忙しそうにしながら、そう返答する。
そしてヴァンとアリシアは、晩御飯を食べた。
「これ、サキに買っていってあげよう」
ヴァンがそう言って、おにぎりを二つ買った。
中に肉やら魚やらが入っている具だくさんのそのおにぎりを、サキはとても喜んだ。
「ありがとう。うち、もうしばらく帰れそうにないから、二人で宿屋に帰ってて」
そう告げた、サキだった。だがヴァンは、宿屋に向かうつもりは毛頭なかった。
「俺も、修行してから帰るよ」
「きゃはははははは、よろしいよろしい」
ヴァンのやる気に対して、アリシアが満足そうに笑った。
そしてヴァンは先程バランに対して修行をした広場に、今度はアリシアと一緒に、到着した。そして今度は、ヴァン自身の修行を始める。
「スキル"焔の心"」
ヴァンの手に、黒炎が現れた。その様をアリシアが、見る。
「スキルは使えば使うほど使いこなせるようになってきて、強くなる。それを、熟練度というの。でも、熟練度とは別に、スキルを強くする要素がある。それは、"魔力"って呼ばれる概念。あんたの心に、エネルギーが溜まってる。そのエネルギーを、魔力っていうの。その魔力を心から供給するイメージをしながら、スキルを使ってみなさい」
アリシアの言葉にヴァンは頷き、そのイメージを持ちながら、焔の心を使用する。
「おお!!!!」
ヴァンの焔の心は元々、手の平に黒色の炎が灯る程度のものだったが、その黒炎が、大きくなった。そして黒色の火の玉となって、浮かび上がった。初めて手から離れ、操ることができたその黒炎にヴァンは、嬉しくなった。
「きゃはははははは、熟練度と魔力を意識して、スキルの練習をしなさいよ」
そんな、適切な指導を行う、アリシアだった。




