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第六十二話:人に教えるということ

 アリシアがヴァンの目を見て、言葉を発する。


「人に教えるってのは、自らが学ぶことの、さらに先の次元にある行為なの。自らが学ぶのは、話を聞いてりゃできる。でも教えるのって、自分が学んだ内容を相手に分かるように整理した上で、伝える行為なの」


 アリシアが、バランに視線を移した。


「人に教えるためには、自分が完全に理解してなきゃ駄目。だから、自らの知識の整理も兼ねて、そのクソガキに教えてあげなさい。もしも教えられないことがあったなら、それはあんた自身がその内容を完全に理解してないってことだから、教えられるように学びなさい。ただ、そのクソガキの指導にプラスして、あんた自身の訓練も継続させなさいよ?」


 あまりに正論のように聞こえるアリシアの発言に対して、ヴァンは元気よく、


「押忍!!」


と口にし、横にいたバランも


「押忍押忍!!!!」


と真似した。


 そんな、ヴァンに弟子ができた昼頃だった。


「よし、なら俺達はミッションに行くからさ、夕方の16時頃にそうだな、どこかで集まろう」


 ヴァンはバランにそう告げるが、この国に来た歴の浅いヴァンは良い集合場所を知らず、少し迷う。


「神様の像の前で、集合にしようよ!!!!」


 バランがそう口にし、その場所に向かって歩く。人ごみの中を歩くヴァンの目が、キョロキョロしていた。


"あっ、ラーメン屋があるぞ?"


 ヴァンはそのラーメン屋を、目で追った。


「食べないわよ!!!!」


 ヴァンは思考をアリシアに読まれたが、それはアリシアのスキルでもなんでもなく、ただヴァンが昼ご飯を食べた直後にも関わらず、ラーメンを食べたそうにその店を見ていただけだった。


 サキはまだ口に出してすらいないヴァンが嗜められたその様を見たうえで、思う。


"あそこに薬剤ショップがある。行ってみたいかも"


 だが、ヴァンとは違って賢いサキは、その思いを微塵も振る舞いに出さず、バランの後に続く。


 実は、アリシアですら思っていた。


"あ、あそこスイーツ屋さんがある。美味しそう。あら、あそこには可愛いぬいぐるみが売ってるじゃない。あとで見てみようっと。でも、ヴァンにきつく言ってしまった手前、行きたいって言えなくなっちゃったわね"


 ただ歩くだけで、楽しみの国のあまりに多くの誘惑に、心躍ってしまうアリシア達だった。そんな様を見たバランは、思う。


"ヴァン師匠とそのお友達さん、どうしたんだろう? さっきからずっと、きょろきょろしてさ"


 バランはそこまで考えてから、ハッとした。


"もしかしてヴァン師匠達、大人だから我慢してるけど、本当はこの楽しみの国で遊びたいのかも"


 バランは、背丈が似通っているアリシアの肩を叩く。そして、満面の笑みで告げる。


「ここからまっすぐ行って、右に曲がったところに、遊園地があるよ」


 とても優しくそう告げたバラン。脈絡のない話にアリシアはクエスチョンマークだったが、少なくともイラっとした。


 そんなこんなでアリシア達は、バランが提案した場所にたどり着いた。


 そこには、とある銅像が存在している。コートをまとった長髪の女性が、地面に倒れている服を着ていないと思われる女性の頬に右手で触れている様を形作った銅像。銅像という特性上、全体が銅で形成されており、実際の色自体は表現されていない。


 かなり手入れされているようで、綺麗な状態の銅像だったが、長い年月による老朽化は手入れではどうにもならないようで、モチーフになった女性達がどのような顔だったかを読み取ることは、できなかった。


"神ジャバラが、闇の化身を滅ぼした瞬間"


 それが銅像のタイトルで、ヴァンとサキはその像を眺めた。


「がるるるるるるるるるる」


 アリシアは、その銅像を睨んでいる。


「これ、この国の象徴の像なの~、ヴァン師匠、ここを集合場所にしよう」


「おう、分かった。これから毎日16時頃にここに集合して、勇者になるための修行をしよう」


「押忍!!!!」


 バランは嬉しそうに、そう叫ぶ。


「ここで、闇の化身が倒されたんだよね」


 サキが、その銅像をまじまじと見ていた。


「ああ、そうだな」

 

 ヴァンもその銅像を見る。


「この戦いでジャバラ様が負けていたら、世界は闇に覆われてしまっていたのかな?」


 そんなヴァンの問いに、サキが頷く。


「きっとそうなんだろうね。闇の化身が負けたからこそ、今の光溢れる世界があるのかもね」


 のんきにそう口にする二人の後ろで、アリシアは思う。


"ええ、そうね。その戦いであたしが負けたから、世界は闇に覆われていない。でも、あたしは復活して、あんたらの後ろに立っているんだからね!!!!"


 決して言葉には出さないが、アリシアはヴァン達の背後で、そう思っていた。

 

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