第五十九話:狼の仮面
「くっそぉぉぉぉぉ」
ビラファがヴァンにその剣で斬りかかる。ヴァンは手に持つ正義の剣で、ビラファの剣を受けた。ビラファの折れないというのが売りのその剣はヴァンの正義の剣と対峙し、ものの見事に真っ二つに折れた。
ビラファは折れた剣を見て、呆気に取られる。
「きゃはははは、あれで本当に、もうすぐEランクになる勇者なの?」
アリシアが二階からその戦いを見て、嘲笑う。
「くそぅ、くそぅ」
ビラファは悔しそうに叫び、そしてその背から何かを取り出した。それは狼の顔を形どった、毛むくじゃらの仮面だった。
「これは使いたくねぇんだよな、めっちゃ疲れるからよぉ」
ビラファはその狼の仮面をかぶった。それはビラファのスキルに関わるアイテムではないが、ビラファがその仮面をかぶった瞬間、その体に変化が現れた。
「何それ?」
ヴァンの後ろでその様を見るサキが、顔をしかめる。
ビラファは狼男のように毛むくじゃらになり、そして元々はやや背が高い程度のほぼ標準成人男性同等だったはずのその体は、三メートルもありそうなほどの巨体に変化した。
「わははははは、これで貴様に遅れを取らねぇ」
まるで、魔族のような禍々しさをまとったビラファだった。
「これが、俺の力だぁぁぁぁぁぁ」
そう叫ぶビラファを、アリシアは凝視する。
「へーーーーーーーーー」
何に対してかは分からないが、アリシアはただただそう口にした。
ビラファはその巨体で空に跳ねた。そして、ヴァンの方に飛び掛かる。
天でその両の拳を重ね合わせ、ヴァンに到達する直前で思い切り振り下ろす。跳躍のエネルギー+拳を振り下ろすエネルギーは、狼男の巨体と相まって、地面にかなり大きな衝撃を与えた。
ヴァンはそれを速度4倍でよけたが、圧倒的な力が地面に伝わり、まるで地震かのような振動が生じた。
二階にいる奴らが、「きゃぁ」と叫ぶ。
かろうじて避けたヴァンの方に、ビラファはその口を向かわせた。本物の狼のような牙を持つ口を、ヴァンに噛みつかさんと動かしたのだ。その顔はもはや仮面ではなく、本物の狼のそれだった。
だが、その噛みつきを正義の盾で受け止めたヴァン。ビラファの鋭利な牙による噛みつきは、正義の盾を貫通しなかった。そして、正義の盾に攻撃を防がれたことにより隙だらけになっているビラファの胴体を、ヴァンが斬りつけた。
「ぐはっ」
ビラファはその場に、片足をついてうずくまった。だが、まだビラファの闘志は消えておらず、ヴァンに再度噛みつかんと立ち上がりかけた刹那、別の方向から声が聞こえた。
「ごめんだけどさ、君の顔を一発、ぶん殴りたいと思ってたんだ」
サキがビラファに笑いかける。
「スキル"雷の拳ぃぃぃぃぃ"」
雷をまとったサキの拳が、ビラファの顔にクリーンヒットした。そして、顔から狼の仮面が飛んで行って、仰向けに倒れたビラファの体は、人間の状態に戻った。
狼の仮面は真っ二つに割れて、もはやかぶることはできなくなっていた。
そんな戦闘の横で、まだミンドはゴーランの回復を行っていた。ミハエルは炎の球を相変わらず飛ばすが、ヴァンの正義の盾に弾かれた。
「くそ、くそくそくそくそ!!!!」
ビラファはもはや動かなくなった体で、騒ぐ。ヴァンは斬りつけに手心を加えており、ビラファは倒れてこそいるが、その口は動く。
サキが、言葉を発する。
「スキル"オールヒール"」
サキがそう口にした後、ビラファの体の傷は、数十秒で完治した。
「なんだと?」
ビラファが、驚きの声を上げた。サキが回復をミンドよりもはるかに速くできるだなんて、ビラファの想定外である。
「どいて」
サキはミンドにそう告げ、ゴーランに対しても回復を行い、ゴーランの傷も完治した。
観客から、感嘆と怒りの声が上がる。
「あいつらすげぇ、格上のビラファを、簡単にぶっ倒しちまった」
「おいビラファ、何やってんだ!!!! 格下かつ少人数の勇者に負けやがって!!!! 俺の金返しやがれ!!!!」
そんな声に支配される闘技場。
ビラファはうなだれる。
「さて、土下座するって約束だったよね」
サキがビラファの前で、そう口にする。
ビラファは顔をちぎれそうなほどに歪めながら、体勢を変えようとしていたが、サキが続けざまに、言葉を発した。
「もういいよ、そんなの。うちさ、どうでもよくなっちゃった」
過去色々あったが、今は自らの認めるヴァンのパーティに入れていることで、過去のわだかまりが消え去っているのだと、サキは感じた。
だけどサキには一つ、不可思議な点があった。最後にビラファが使ったその仮面は、サキがビラファのパーティだった頃には、持っていなかったアイテムだった。




