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第五十五話:楽しみの国の誕生秘話

 数百年前、世界は闇に覆われそうになっておりました。真っ黒な影が成人女性を模したような姿である魔族、通称"闇の化身"と呼ばれるその恐ろしい存在は、配下の数多の魔族と共に、世界を闇で包もうとしました。


 そのあまりにおぞましき魔族の侵略に、人間達は逃げ惑います。しかし、この世界の神であるジャバラと勇者であるローラが、闇の化身の前に立ちふさがりました。


 闇の化身及び配下の魔族 vs 神ジャバラ及び勇者ローラの戦いは三日三晩続き、そしてその勝者は、ジャバラとローラでした。新緑だった大地を荒れ地に変えたその壮絶なる戦いの終幕にて、ジャバラは倒れた闇の化身に、笑いかけました。


 そして闇の化身の頬に右手をあて、その手から世界全てを照らすかの如く輝く、光を発しました。その光に照らされた闇の化身は、その場からまるで分解されていくかのように、消え去りました。


 そして、全て終わってジャバラ及びローラも去った後、荒れ果てたその場所に楽しみの国の初代国王であるドレライトが立ち、こう言いました。


「壮絶な戦いにより荒地となったこの場所に、国をつくろう。闇の化身がいたという悲劇を二度と忘れぬように、そして、神と勇者の勝利の証を、未来永劫刻めるように」


 それが、この"楽しみの国"の誕生秘話でした。




 


 そんな内容が書かれている"楽しみの国の観光ガイド"の本を読んだアリシアは、歯をきしませる。"グルルルルルルルルルルル"と声が漏れるアリシアは、その本を睨む。


「どうしたの? アリシア」


 そんなヴァンの問いに対し、アリシアは鼻息荒くその本を、本棚にたたきつけた。アリシアはむしゃくしゃし、ヴァンに向かって八つ当たりのように、荒い言葉を発する。


「知らない!!!!」


 アリシアはそう声を上げて、そっぽを向いた。そんな、楽しみの国に到着した一行だった。



 

 勇者の街から楽しみの国にヴァン達は、馬車に乗って移動した。馬車を引くのは豪快馬(ごうかいば)と呼ばれる、とても気性の荒く、目の前に現れた魔族すらも蹴り飛ばすような、真っ黒な馬。だから、その豪快馬のひく馬車は、魔族に襲われない。


 だが、その代償として気性の荒い豪快馬の引く馬車は、とてつもなく荒れる。


「うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」


 ヴァンが馬車の中で、目を回す。


「ヴァン君、次からは馬車じゃなくて、歩いて移動しようねぇぇぇぇぇ」


 サキすらも困惑するその馬車の中で、アリシアは笑っていた。


「きゃははははははははははは、もっと速く走れ~~~~」

 

 アリシアは豪快馬にそうけしかけ、速度が増すその馬車を楽しむ。


 そんなヴァン達の、勇者の街から楽しみの国への移動だった。



 そして、楽しみの国に到着したヴァン一行は今、"勇者協会 楽しみの国支部" とやらに入っている。


 木材で建てられた一軒家の中にはカウンターがあり、そこに一人の受付嬢が立っていた。その受付嬢は背が小さく丸眼鏡をかけ、小奇麗だがあまり華やかではない、緑色のドレスを身に着けていた。


「ああああああああ、あの、その、よよよよよよよようこそ、楽しみみの国のの、勇者きょ、協会支部へ」


 明らかに緊張が見て取れるその女性は、そう告げる。


「君、落ち着くんだ。俺達は、恐い者じゃないよ」


 ヴァンが、そう口にする。


「わわわ、私、しししし侵入社員なんですぅぅぅぅ。配属二日目ででで、初めて来られたゆゆゆ勇者様があなたがただからぁぁぁぁぁ」


 そんな受付嬢に、アリシアはイライラを募らせる。


「はいはい、新入社員なのは分かったから、落ち着いて、深呼吸、深呼吸」


 サキはそう告げ、言われた通り深呼吸したその女性は、少しだけ落ち着いたようだった。


「取り乱してしまい、すみません」


「いいよいいよ、最初はみんなそんなもんだよ。慣れてないんだし、ゆっくりと手続きしてね」


 サキの言葉の通り、勇者達はミッションを行う街及び国を巻物経由で決めた後、実際にその場所に行き、勇者協会の支部でその場所に到着したことの報告もかねて、手続きを行ってもらう。今は、その手続きの最中。


「はい、頑張りますぅ」


 受付嬢がそう言った瞬間、鳩時計が十時を指し、"クルッポー"という音を鳴らした。そんなこと関係なく、サキが言葉を告げる。


「うん、頑張ってね。この書類を書けばいいの?」


 サキがそう言った瞬間、受付嬢は衝撃の言葉を発す。


「ごめんなさい、十時になったから休憩なんです。十五分ほど、待って下さい」


 その受付嬢の言葉を聞いたサキは、もにょもにょした表情を作る。"確かに休憩は大事だけど、一応客であるうちらのいる今に、休憩を取らなくても"


 ヴァンはイライラがピークに達して今にも暴れそうなアリシアを、後ろから押さえていた。そして十五分後、受付嬢が言葉を発する。


「ははははははい、そそそれでは、うううう受付をはじめますうううううぅぅぅ」


 休憩をはさんで緊張がリセットされた受付嬢に、サキは困ってしまった。

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