第五十三話:Fランク勇者認定式
「なぜSランク勇者であるあなたが、この場所に?」
シュガルデが、尋ねる。
「わしはこの街にとある魔族が向かっているという情報を入手したから、来ていたんだ。魔帝八中将の一角である、ギロレロナという名の魔族だ。しかし、この街に向かったらしいギロレロナが暴れている痕跡は、なかった」
ドドラガが、考える素振りを見せた。
「ギロレロナがこの街に向かったという情報自体が偽りだったか、誰かがこの街に向かったギロレロナを倒したかのどちらかだな。まあ、普通に考えて前者だろうな。魔帝八中将がそう易々と、倒されるはずがない」
そんなドドラガの発言は実は、誤りであった。
サキは、ヴァンの目がキラキラと輝いているのを、目撃した。ヴァンは初めて見るSランク勇者とやらに、とてもとても興奮していた。
「あの、サイン……」
サキが、ヴァンの手に持たれているペンとメモ帳を、払い落とした。
「アリシアちゃんに、ヴァン君を抑止しなさいって指示されてるの!!」
サキはヴァンに対してそう告げ、ヴァンが、しゅんとした。
「さて、Fランク勇者の認定式のために諸君らを呼んだが、認定式の執り行いは本来、協会長であるわしがやるべき業務でもない。だが、リンライを倒してくれた諸君らに会いたいという理由もあり、わしが名乗りを上げた」
ドドラガが杖にしている鞘入りの剣を少し上げ、再度床についた。"ゴンッ"という威圧感のある音が、響いた。
「ただいまをもって諸君らは、Fランク勇者になった。Fランクになった諸君らは、活動エリアを広げられる。Gランク勇者は勇者の街のミッションしか受けられなかったが、Fランクになった諸君らはさらに、二十の街及び国で、ミッションを受けることができるようになる」
ドドラガはそう告げて、再度言葉を発する。
「諸君らの、巻物を出してくれ」
ヴァン達は言われた通り巻物を取り出し、そしてその巻物を見る。そこには、複数の街及び国の名が、記されていた。
「次の目的地を、その巻物で選んでくれ。そして、その巻物で選択した街及び国のミッションを受けることが、できるようになる。その場所は変えることもできるが、移動するロスが当然発生する。早く勇者ランクを上げたいのなら、次に行く場所を、慎重に選ぶことだな」
そんなドドラガの発言で、勇者達は迷う。
「がはははははは、後で決めていいぞ」
その言葉を聞いた勇者達は、巻物を納めた。
「諸君、わしはSランク勇者かつ、勇者協会のトップだ。そのわしが最も、勇者という職業の面白さを知っている。そして、面白さの裏に当然存在している、圧倒的なまでの辛さもな」
ドドラガが、ヴァン達の目を見る。
「諸君らの目を見れば、分かる。諸君らは困難にぶち当たっても、進んでいける勇者になれる。だからこそ、その足を止めるな。一人でも多くの人間を、救うんだ!!!!」
ドドラガの鼓舞に対し、ヴァン達は頷く。
「もちろん!!!! 俺達は、ガラムハザールを倒す勇者になるんだ!!!!」
ドドラガは、再びステンドグラスの方を向いた。その大きな背中が、ヴァン達の目に映る。
「そうだな、勇者協会もガラムハザールを討伐できる勇者の育成を、目指している。だが、みな軽々しくガラムハザールを討伐すると口にするが、それを実現できた勇者は、一人もいない。それに、最近の調査で、奴には第三形態まで存在していることが、判明した」
ドドラガの発言を聞いた勇者達は、戦慄した。
「てことは、歴代最強の勇者と呼ばれているミヨルラが、ガラムハザールの体力を半分削ったのって……」
「ああ、"第一形態の"半分ということになる」
ドドラガは、ヴァン達に向きなおる。
「すなわち、ガラムハザールの実力の底は、全く見えておらん、それでも諸君らは……」
「ガラムハザールを倒す!!!!」
ドドラガが言葉を言い切る前に、そう断言したヴァン。周りの勇者達も当然ですと言わんばかりに、頷いた。
「がははははははははは、心強い。諸君らは、とても素晴らしい勇者だ。勇者協会は諸君らの歩みを、応援している。だからこそ勇者協会は、自信を持ってこれを、諸君らに渡そう」
ドドラガが、"勇者ヴァン シュレラをFランクとして認定する"という文言が書かれた認定証を、ヴァン達に渡した。そして、それで終わりとなった、Fランク勇者の認定式であった。




