第四十七話:開花
ヴァンの右手に剣、左手に盾が握られている。
「開花したか」
アリシアが、そう口にする。ヴァンのスキル"圧倒的正義感"は元々、能力を有さないスキルだった。だが今それは能力を有し、剣と盾がヴァンの手に現れている。
「通称"正義の剣"と"正義の盾"ね」
アリシアがそう呼ぶその剣と盾。本来剣と盾は鉄製だが、ヴァンの手に現れたそれはまるで、光の集合体であるかのように、輝いていた。
この世には、"圧倒的な正義感"のように、なんの能力も持たないスキルがたくさん存在している。そして、なんの能力も持たないはずのそのスキルが何かしらの条件により開花し、能力を有すことがある。まさに、今のヴァンのような状態。
だが、"圧倒的な正義感"が開花したというのは、アリシアもほとんど聞いたことがなかった。
"圧倒的な正義感"のスキルを持つ者はたくさんいる。だがそれは、スキル所有者が大人になるにつれ、すなわち世界の闇を知るにつれて、消え去ってしまうのだ。
「羨ましいなぁ」
リンライが輝く剣と盾を見て、笑う。ヴァンの右手に握られている細長い剣は、刃渡り300cm程である。ヴァンの左手に握られている盾は、胴体を隠せそうなほどの大きさ。そしてヴァンはそれらの重さを、全く感じていなかった。
通常の人間なら心折れてしまうであろう過去を経験してもなお、心折れることなく進み続けた、ヴァンの正義の歩み。スキル"馬鹿"を持っているヴァンは、馬鹿正直に進んできた。数多の苦難に対峙してもヴァンが決して放さなかったその"圧倒的な正義感"が今日、開花したのだ。
「ふふふ、ヴァン君、君に会えてよかった」
リンライが笑う。そして、リンライの二つの剣が、ヴァンに向かう。一つの剣が光の集合体のような盾に、もう一つの剣が光の集合体のような剣に触れた。
正義の盾に触れた剣は、はじかれた。その盾はヴァンの正義感の如く全くとして揺るがず、リンライの剣を受け付けなかった。
正義の剣と相対したリンライの剣は、まるで豆腐のように真っ二つに斬れた。ヴァンの正義感のように鋭い、その正義の剣だった。
そしてヴァンの手に握られる"正義の剣"と"正義の盾"は、消え去った。ヴァンは、その拳を握る。
「馬鹿野郎がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ヴァンはそう口にし、リンライの頬を殴った。その拳は、とてもとても綺麗にリンライの顔に入り、リンライは吹っ飛んだ。
そしてリンライは、大の字で地面に倒れた。アリシアが、リンライのそばに立った。
「きゃははははははは、良かったわね、願いが叶って」
アリシアはリンライを見下ろしながら、そう告げた。リンライは倒れた状態で、アリシアの顔を見る。
「ああ、僕はずっと、この時を待ち望んでいたんだろうね。僕の認める勇者に、悪になってしまった僕を倒してもらう、この時をさ」
すでにリンライがサキとミミに対して使用していた"通信不可"のスキルは解除されており、サキがシュガルデとレメロナの回復作業を始める。
シュガルデとレメロナの回復完了後、サキはリンライの顔に手を当てた。
「スキル"オールヒール"」
「なっ!!!!」
リンライが、驚きの声を上げた。
「何を?」
「こうしてあげたいんでしょ? ヴァン君」
ヴァンが頷いた。
「あなたは悪の道に落ちた。でもきっとあなたは、心からの悪人ではないからさ」
リンライは完全に回復し、その体も動くようになった。
「ありがとう……」
リンライはしみじみとそう口にした。そして自らの勇者の巻物を取り出す。そして、"討伐完了"の連絡を勇者協会にした。
勇者協会の使者は、すぐに来た。そしてリンライは、全てを自白した。
「勇者狩りは僕だ。そしてその僕を、彼らが倒してくれた。だから彼らに、勇者狩り討伐の報酬をあげてほしい」
リンライはそう告げる。そして、勇者協会の使者に、手に縄をつけられた状態で歩かされるリンライは、ヴァン達を見た。
「ありがとう、勇者諸君。君達のおかげで僕は、勇者の心を持って、牢獄に行けるよ」
リンライはそう言い残し、つきものの落ちたような顔で、去って行った。
「終わったな」
シュガルデが、そう告げる。
「きゃははははははは、ザコの割にはよく頑張ったわね」
アリシアが嘲笑する。




