第二話:鬱憤の溜まる受付嬢
「ちょっとどうするか考えなきゃね」
アリシアは右手の親指と人差し指で輪っかを作り、付近にいる人間をその輪っかを通して眺めた。
"スキル:体力2倍"
"スキル:氷系呪文抵抗、小"
"スキル:大飯ぐらい"
そんな文言が人間の付近に浮かび上がる。アリシアは数多持つスキルの一つ、"スキルチェック"により、他者の持つスキルを見ることができる。
先ほどの大柄の勇者が元々持っていたスキルは、"攻撃力1.5倍"というものに対して、アリシアが与えたスキルは"攻撃力1000倍"。圧倒的なまでに魅力的なそのスキルに、大柄の勇者の心はついていけなかった。
「うーん、どうしよう」
アリシアは悩む。
"ならどうしよう"
答えの出ないアリシアは腕を組みながらその瞳を閉じ、首を45°くらいかしげて、考え込んだ。そんなアリシアだった。
そしてアリシアと離れた場所に、一人の青年が立っていた。
「緊張してきた~。俺のような弱虫が勇者になんてなれるのか……、いや、そんな弱気じゃだめだ。俺は勇者になるんだ」
その青年は顔を両手で叩き、"ベチン"といういい音が響いた。青年はダボダボの黒いズボン、同じく黒色でヨレヨレの長袖の上着、さらに色あせた元赤色だったと思われる薄ピンクのマントを身につけている。そしてその全ての至る所に穴が開いてるという、とてもみすぼらしい格好だ。
「勇者認定試験の申し込みでよろしいでしょうか?」
受付の女性はそんな青年の様相を一瞥してから、書類に目を通した。
名 :ヴァン シュレラ
性別:男
年齢:18歳
出身:終わった街 オレスレア
長所:頑張り屋
短所:貧乏
特技:腐ったものでも食べれる
スキル:不明
勇者になりたい動機:みんなが笑って暮らせる世界を作りたいから
その青年の提出した書類を綺麗なドレスをまとった女性はジッと見た。
"大丈夫かな、変なこと書いてないかな。うーー、緊張する!!!!"
受付嬢は数秒でそれを読み終わり、"ふんっ"と鼻で笑った。ヴァンという名の青年はその様に少なからず動揺した。
「あの、変なこと書いてましたでしょうか?」
「いえ、いいですいいです。別にこれが選考に影響することはありませんので」
"それって、内容が変だって言ってるようなもんじゃん"
ヴァンは泣きそうになった。
「それでは認定試験料として、1000ゼニーいただきます」
「はい!! ちゃんと持ってきてます」
この世界で一食豪華な料理を食べるとだいたい1000ゼニー程度。べらぼうに高いというわけではないその値段。
ヴァンはボロボロの布の財布を開き、それをひっくり返した。その中に入っていた全ての小銭100枚ほどが受付嬢の前で山盛りになる。
「ちょうど1000ゼニーあります!!」
「はぁーーーーーーーーー」
受付嬢は大きくため息をつき、めんどくさそうに金額を数え始めた。
10分間以上受付嬢は数え、
「はい、ちょうど1000ゼニーありますねっと」
と嫌味ったらしく口にした。
「よし!! 俺、ちゃんと稼いだんですよ」
ヴァンはとても誇らしそうにそう告げる。
「ああ、とても頑張りましたね」
受付嬢の渾身の皮肉に、
「はい!! ありがとうございます!!」
と、渾身の感謝で答えたヴァンに対して、受付嬢は頭が痛くなってきた。
「あの……、後ろに列ができてるんで、そろそろ帰ってもらっていいですか? 受付は終わりですので。明日、13時から認定試験開始ですので、それまでにこの場所に来てください」
「はい!! 分かりました!!」
ヴァンがルンルンで去った後、受付嬢はかなり大きくため息をつき、
「何? あの馬鹿」
という言葉をぼそりと告げた。次の順番だった別の勇者候補生が、
「大変ですね、受付嬢も」
と、ねぎらいの言葉をかけた。
「転職しようかしら。給料めっちゃ安いし、週休1日制なのよね。あと残業代も出ないし、ボーナス寸志、セクハラしてくる上司もいる、あと職場の空気激悪、あと飲み会めっちゃ多い。それも割り勘、あと……」
その勇者候補生は思いがけず、10分ほど愚痴を聞かされる羽目になった。そして認定試験を受けたい勇者候補生の列は、一層長くなった。
ヴァンはそんな事いざ知らず歩く。
"俺は、絶対勇者になるんだ"
そんな希望を持って、歩く。