第三十七話:勇者狩り討伐のルール
「よく来てくれたね」
大理石の机とセットの椅子に座る、スーツでシルクハット、右目だけに丸メガネをつけた男性がそう告げた。彼はリンライという名の、勇者認定試験の司会者だったBランク勇者である。
そして、そのリンライと向かい合って立つのは、勇者認定試験の際にヴァンと戦った"氷の貴公子"シュガルデと、そのパーティメンバーであるミミという魔法使いの少女。
「あ、氷の貴公子シュガルデと、そのパーティメンバーのミミもいるじゃないか、やぁ」
ヴァンが悪意なく、そう口にする。
「きゃはははは、"氷の貴公子"さん、こんにちは」
「おい、少女」
「アリシアよ」
「おいアリシア、俺の二つ名を馬鹿にしたか?」
アリシアは首を横に振る。
「んーん、そんなかっこいい二つ名を馬鹿にするわけないじゃーーーん、きゃははははははははは」
とてもとても楽しそうなアリシアに対して、シュガルデはイラっとする。
「諸君、楽しそうなところ申し訳ないが、話をしていいかな」
リンライが会話に割って入った。
「来てくれて感謝するよ。腰抜けの他の勇者どもは、"勇者狩り"の文字を見るだけで逃げちまうからな」
リンライは椅子に深く腰掛けている。
「勇者狩りって何ですか?」
ヴァンがそう尋ねる。
「ふふ、まぁ、新米勇者なら知らなくてもおかしくないか。奴は、その姿だけ知られる人間だ。顔に包帯を巻いた異様な姿で剣を持つらしいそいつは、勇者達を無差別に殺害している」
「許せない」
ヴァンがその拳に力をこめる。
「勇者狩りの行動パターンはいつも一緒。まず勇者協会宛に犯行予告を送る。だいたいが"どこどこの地で勇者の粛清を始める"っていう内容のものだね。だから僕はこの地に来てたんだ。勇者狩りを倒すためにね」
「てことは、この地の名前が犯行予告に記されてたってことだよね」
サキの言葉に対して、リンライが頷いた。
「すでに被害者が出ている。昨夜だけで八人の勇者が、その毒牙にかかってしまった」
リンライは口惜しそうな顔をする。
「だから、早く勇者狩りを食い止めたいんだ。僕は、勇者狩りを討伐するためにその犯行予告にあった場所を転々としているんだが、まだ奴を食い止められていない。だからこそこの街で、奴を食い止めたいんだ。申し訳ないが、協力を頼む」
リンライは頭を下げ、そこにいる勇者とそのパーティメンバー(アリシア以外)は皆、当然と言わんばかりに頷いた。
「もちろん協力するよ」
ヴァンが先陣切って、そう口にした。
「ありがとう。なら君達に、昨夜殺された被害者達の情報を提示しよう」
リンライが八人の勇者の情報が顔写真付きで記された紙を、机の上に並べた。
"こいつら……"
アリシアは考える。アリシアは殺害された勇者の中の、複数名の顔を見たことがあった。ヴァンと会う前に四名の勇者に対して、アリシアは自らのスキルを与えていた。だがそいつらはみな圧倒的な力に溺れてしまったため、アリシアは見限った。その勇者達が皆、勇者狩りに殺されているらしい。
"変なの"
アリシアはそう思ったが、そのことを口にしなかった。
顔写真の他に、氏名、性別、年齢、スキル、クリアしたミッション、倒した討伐対象等の情報が書かれているその資料。
ヴァン達は、その資料をひたすら眺める。
「勇者狩りの行動パターンは読めているのか?」
シュガルデがそう問うた。
「夜に活動することしか分かってない。だから君達には今夜より、この街を見回って欲しいんだ」
リンライは机の上にペンと地図を用意した状態で、喋る。
「ヴァン君一行はこのあたり、シュガルデ君、ミミちゃん、レメロナちゃんは三人一つのチームでここ、そして僕がここを、それぞれ見回りしよう。抜けがないように、シュガルデ君達はこのルート、ヴァン君達はこのルート、僕はこのルートだ」
リンライは地図上に、かなり緻密なルートを記入する。
「もしも勇者狩りを見つけた場合、無理に戦わないこと。過去勇者狩りの姿を目撃し、勇者協会に報告したのは勇者ではなく一般人だ。勇者狩りに出会った勇者は、みんな殺されてるからね」
リンライが残念そうな顔をした。
「Gランク勇者の君達では勇者狩りは倒せないだろう。だからこそ無理に戦わず、メンバーの二人が勇者狩りを足止している間に、残りの一人が僕に助けを求めに走る。それが、勇者狩り討伐のルールだ」
"なんかあたしも、数に含まれてるっぽいじゃない"
アリシアは不服かつ、リンライの言葉に従うつもりもなかった。だが他のメンバーは、リンライの案に異を唱えず、その場は解散することになった。
「私があなたより先に、勇者狩りを見つけてやるんだから!!!!」
レメロナがヴァンを睨みながら、シュガルデ達と共に去っていった。




