第三百五十八話:男性客が増えた理由
ヴァンは、考える。だが、結論は出なかった。
アリシアが、思う。
"ま、あたしらのおかげでしょうね"
アリシアが、自らとララーシャ、さらに今は宿屋で眠っているレイラとサキの姿を、脳裏に浮かべた。
霊の湯の作業着は、動きやすさを最優先にしており、太ももがかなりあらわになっている。さらに、全員美貌であるアリシア、ララーシャ、サキ、レイラが、その服でうろちょろしているという霊の湯。
だからこそ、男性客が増えたのだ。だからこそ、、、男性客が、、、増えたのだ。
だからもはやヴァンは、男湯を掃除しなくてもよくなっていた。
数多の男性客がお風呂でのんびりしており、悪しき存在が霊岩のエリアに向かおうとしても、気づいてもらえるだろう。
「きゃははははは、良かったわね。別の仕事ができるようになって」
「何の仕事をしようか?」
ヴァンは、考える。
「よし、今日は俺が、お客様からこの霊の湯の問題点を聞き出そう!!」
ヴァンが元気よくそう告げ、ララーシャが少し、困ったような表情をした。
「ヴァン君、やめておいた方が……」
「いや、大丈夫だよ!!」
ヴァンがとてもいい笑顔を見せ、アリシアが面白がる。
「きゃはははは、やらせてあげましょ」
ララーシャが少し考えた後に、諦めた顔をした。
「ヴァン君、心を強く持ってね」
ララーシャの忠告に対してヴァンが、とてもいい笑顔で、頷いた。
「うん、分かった!!」
"きゃははははは、絶対分かってないわね"
アリシアは心の中で、そう思った。
アリシアとララーシャは、まだ入る人の少ない女湯の清掃をする。
ヴァンが、お風呂から出た客に問う。
「ねぇ、この霊の湯の問題点があったら、教えてくれない?」
「え? 特にないよ」
男の客からそっけなく返されたヴァンは、少なからず動揺した。
"サキやララーシャさんは、ちゃんとこの霊の湯の問題点を聞き出せてるのに……”
ヴァンの、そんな感想。
ヴァンは、それからしばらく聞き取りしたが、何の成果も得られなかった。
「くぅぅぅぅぅぅぅ」
ヴァンが、悔しそうな表情をしていた。
「きゃははははは、まぁ、そうなるでしょうね」
不意に現れたアリシアがヴァンをあざ笑いながら、そう告げる。
「どうして?」
ヴァンが何も分かっておらず、首を傾げる。
「まずあんたは、プリズマではなくララーシャと仲良くしてる、この国の人間からしたら、裏切り者である勇者でしょ?」
アリシアの言葉にヴァンが、頬を膨らませる。
「でもサキや、なんなら魔族側のトップであるララーシャさんだって、この霊の湯の客から情報を引き出してるじゃん」
「きゃはははは、ララーシャとサキは、かわいい乙女でしょ。あんたは、かわいくない勇者でしょ。そのかわいくない勇者が、ヘイトの溜まってる客から情報を引き出そうとしたって、そりゃあ、失敗してしまうでしょうよ」
アリシアの断言に対してヴァンは、顔をしかめる。
「くぅぅぅぅ」
悔しそうな顔をしているが、アリシアの言葉が真理である以上ヴァンは、何も言えなくなっていた。
「なら俺はまた、浴室の清掃をするよ」
ヴァンがとぼとぼと、歩き始めた。その瞬間、銭湯の入口の扉が勢いよく開かれ、そこからとある存在が、ヴァンに向かって叫ぶ。
「ヴァン君、諦めるのはまだ早いよ!!」
宿屋から戻ってきたサキが、ヴァンに対して堂々と、そう告げる。
"なんで、かっこよく登場したのかしら?"
アリシアはいまいち、分からなかった。
「うちが、協力するよ!!」
サキが凛々しく、そう告げる。
「ありがとう!!!!」
ヴァンが嬉しそうに、笑みを見せた。
「きゃはははは、レイラは?」
アリシアが問う。
「レイラちゃんは、お弁当を買ってからきてくれるよ」
サキがそう告げ、そして、この霊の湯から去っていこうとする男性客に、問うた。
「ねぇ、この霊の湯の問題点があれば、教えてくれませんか?」
「そうだねぇ、今日入浴したら、前よりもだいぶ良くなってた。水風呂の温度も適正になったし、浴槽も綺麗になってるね。でも女将さんが慌ただしくしてるのが、気になるなぁ。ああも銭湯で、せかせかされちゃうとね〜〜」
「そうなんだよねぇ〜〜〜」
サキが顔をしかめながらも、同意する。そして客は笑顔でサキに手を振り、その霊の湯から、去っていった。
ヴァンが、とても凛々しい顔をしていた。
「サキ、俺、メモとったよ!!」
「ありがとう、ヴァン君!!」
サキがヴァンに対して、笑顔を向けた。ヴァンはメモを取っただけだが、先ほどまでよりは仕事ができており、嬉しくなった。
だがヴァンは、一つのことが気になった。




