第三百四十一話:白装束の兄弟
激しい雨に、降られる一同。
アリシアは忌々しそうに、空を見た。
ヴァン達は付近の木々で雨宿りをし、しばらくしてからやんだのを確認し、先に向かった。
ヴァン達は、上を上を目指す。
そしてその日の昼頃、ヴァン達は頂に到達した。
「ついたぁぁぁぁぁぁ」
ヴァンが喜ぶ。
その付近には、葉が実体を持たず、エネルギーが揺らめいて葉を形作っているという霊草が、存在していた。
「……これが、霊草か……」
レイラがその葉を、じっと見た。
「これは採取してから三日程で、その葉を形作っているエネルギーが消えてしまうの。だから、一般には流通せず、必要に応じて採りにくるしかないの」
ララーシャがそう説明し、ヴァン達はその草を、採取した。
「兄者、客人だな」
「弟よ、そのようだな」
ヴァン達の背後、二人の存在が立っている。
真っ白な装束をまとい、そのボサボサの長髪も真っ白な、二人の男性。その皮膚も、かなりの色白である。
その目は三白眼で、ヴァン達は凝視されているかのような印象を受ける。
さらに、白装束の上から羽衣をまとい、高貴な印象も受ける。
きっと兄弟であるその二人は、エネルギーが剣を形作ったそれを、握っている。
「行くぞ」
その二人が、ヴァン達にその剣で、斬りかかる。
「スキル"圧倒的な正義感"!!!!」
ヴァンが手に正義の剣を出し、兄であるらしい存在の攻撃を受けた。
"重い攻撃だ"
ヴァンは自らの手にかかる衝撃により、そう思った。
さらに弟の攻撃が、ヴァンに向かう。その攻撃の前に、レイラが立ちふさがった。
「……スキル"魔力水晶"……」
レイラがその剣を身体で受け、エネルギーの剣は、レイラに吸収された。
「やるじゃない、レイラちゃん」
タンクとして一流であるレイラを見て、ララーシャが、そう告げた
剣がなくなった弟は、自らの手を見る。
「兄者、こいつら、凡骨ではないな」
「そうだな、弟よ。ララーシャ殿もいるしなぁ」
そいつらは、ヴァン達のパーティーに魔帝八中将がいることを理解しても、挑んできたのだ。
「スキル"霊源"」
そう告げた兄の身体が、輝く。
その"霊源"というのは、エネルギーを身体に溜めるというスキル。そのスキルにより、兄の身体にエネルギーが溢れ、輝きを纏ったのだ。
そして兄は高エネルギーをまとった右手を、ヴァンの方に向けた。
その手からエネルギーが、ヴァン達に向かって放出される。だがそれはただのエネルギーで、それ自体には、威力がない。
そのエネルギーの進行方向に、弟が立った。
「スキル"業火球"」
兄の放ったエネルギーが、弟の口から吐かれた炎に触れた。圧倒的なエネルギーを吸収したその炎は猛火となり、ヴァンの方に向かった。
「スキル"闇の化身"」
ヴァンが身体に、真っ黒なオーラをまとった。そのオーラでヴァンは、猛火を受けた。
猛火と闇の化身のオーラの衝突により、天に近いこの場所で、果てしない衝撃が広がった。どんよりとした雲がその衝撃で、一気に蹴散らされた。
「わはははははは、やりよる」
"闇の化身"のオーラと互角の威力を出せる、そいつら兄弟は笑う。
「スキル"恥ずかしがり屋の友達"」
ララーシャがそう告げ、そのスキルにより、ララーシャの影が実体を持った。そしてその影が地面から鎖のように伸び、兄弟に巻き付いた。
「うふふふふふふふ、あまり暴れないの」
ララーシャが、そう告げる。
「ここは霊祖体の亡骸から離れてるから魔力を使えると言っても、あまりにも高次元の魔力を使いすぎると、霊祖体の亡骸が暴れちゃうでしょ」
そんなララーシャの正論に、兄弟はいったん落ち着いた。
「君達は?」
ヴァンが問うた。
「我らはここで霊剣を守っている、霊体兄弟のゴルドとシルバだ。そして、わしが兄のゴルド」
「わしが弟のシルバ。我ら兄弟は、貴様らのような霊剣を奪いにくる存在を、退治してやっていたのだ」
ゴルドとシルバはそう告げ、ヴァンが頷く。
「なるほど」
だがそれ以上、ヴァン達は言葉を続けなかった。無言の間が、現れる。
「それじゃ、さようなら」
ヴァンが、そう告げた。
「むむむ?」
ゴルドが、不思議そうな顔をする。
「さようならとな? このゴルドとシルバの威圧感に、気圧されたか?」
サキが、気まずそうに、言葉を発す。
「うちらはもう、ここでの用を達成したから」
サキが手に持つ、霊草を見せる。
「むむむむむむむむ」
ゴルドとシルバがしかめっ面のまま、再度、無言の間が現れた。




