第三百二十八話:人間界のトップ
ヴァン達は、湖の国の城の中に入り、最奥の部屋に到達した。
国王が玉座から立ち上がり、ヴァン達に笑いかける。
「おお、勇者殿、よく来てくれました」
国王がぴょんぴょんと跳ねながら、ヴァン達の側に来た。
「皆様のおかげでこの国は、ニーズランドに臆さず戦った国として、他の国々から讃えられています」
国王は、とても嬉しそう。
「それはこの国が、魔族と戦うという決断をしてくれたからだよ。その決断がなかったら、ニーズランドも倒せてなかった」
ヴァンが、笑いかける。勝利の後の会話というのは、とても気持ちのいいものだった。
「皆様に、この国からお礼をしたいんですが、何か欲しいものはないですか?」
「あははは、別にいいよ、そんなの」
ヴァンがそう告げる。
「いえ、それではこの私の湖のように広い心が、納得しません。湖のように財源の多いこの国だから、皆様にお礼をしたいのです」
アリシアは思う。
"こいつ、急に湖の国の国王感を出してきたわね"
「ならさ、夜に祝勝会をしてくれない?」
お酒が飲める年ではないが、そういうにぎやかな場が好きなサキが、そう提案した。
「分かりました!!!!」
国王が、敬礼のポーズを取った。
そんなヴァン達の元に、"カツンカツン"という足音が響いてきた。
「おほほほほほほほほほ、ならわっちも、その祝勝会とやらに参加させてもらおうかしらの」
金魚のイラストが描かれている、白を基調とした浴衣を着た少女が歩く。その足には真っ黒な下駄を履いており、それが、カツンカツンと音を鳴らす。
アリシアと同じくらいの年齢に見えるその子は、金髪ツインテールのアリシアと対になりそうな黒髪ツインテールを、腰あたりまで伸ばしていた。
麗しく可愛いその顔の目の周りに薄ピンクの化粧をしており、その唇は口紅により、真っ赤だった。
「君は誰? 迷子?」
ヴァンが、そう問うた。
「ヴァン君!!!!」
サキが出会い頭早々失礼なことを言ったヴァンを、制止する。
「むむ?」
ヴァンはなぜ制止されたのか、分からなかった。
「この子はもしかして……」
ヴァンがその少女を見る。サキに制止されたことをふまえて、その少女のことを考察してからヴァンは、言葉を発する。
「プライドの高い、迷子の子?」
「あんた、もう黙ってなさい」
アリシアが、そう告げた。
「おほほほほほほ、面白い勇者殿じゃ。それに、もう一人面白いお方もおる」
その少女が、アリシアを見た。
「きゃははははははははは」
アリシアは自らを見たその少女に対して、笑顔で応じた。
「ねぇ、本当に誰なの?」
ヴァンが問うた。
「人間界のトップである、オトギ様よ」
サキがヴァンに対して、そう説明した。
オトギと呼ばれたその少女は、ヴァンに微笑む。
「おほほほほほ、よもやわっちを知らぬ存在がいるとはのぉ」
「ああああ、あの、どうしてオトギ様がここに?」
湖の国の国王が緊張しながら、そう告げる。
「おほほほほほほ、人間界に仇なすニーズランドを倒してくれた勇者達に、わっちが直々に会っておきたくての」
オトギは扇で自らの口を隠して、笑う。
そのオトギの背後、二人のスーツ姿の男性が立っている。
その二人はシャキッとしており、目にグラサンをつけている。
「……君達は、オトギの護衛……?」
レイラが、そう問うた。
「オトギ"様"だ」
護衛の一人が、そう口にした。
オトギは先程からの話にある通り、人間界のトップ。アリシアのようなイレギュラーな存在を除けば、天界、人間界、魔界のトップはそれぞれ、ジャバラ、オトギ、ガラムハザールである。つまりオトギは、ガラムハザールやジャバラクラスの存在ということになる。
「おほほほほほほ、よいよい、わっちは別に、敬ってもらいたいとも思っておらぬのでな」
オトギは笑う。
アリシアはオトギの実力の高さを理解している。オトギは神クラスではないが、神クラスに片足を突っ込んでいるほどの実力者である。オトギが本気でアリシアを倒そうとした場合、アリシアですら手こずる。
そんなオトギが、微笑む。
オトギは当然、アリシアが裏ボスであることを知っている。だがオトギは特段、アリシアに対して言葉を発さなかった。
オトギはその浴衣姿で、ひらひらと回る。
「この湖の国と、勇者君達が頑張ってくれたから、人間界の敵であるニーズランドを倒せた。それはとても、素晴らしいことじゃ」
そう告げたオトギの身体が、刹那的に消えた。代わりにその部屋の中を飛ぶ、カラフルで美しい蝶々達が現れた。




