第三百二十三話:魔力暴走
懐かしい声が届いてきたことで、ヴァンの気持ちは、明るくなる。
"ヴァン君が、世界のみんなを笑顔にするっていう私の夢を引き継いでくれているのが分かる。ありがとうね"
霊体のようなその存在がヴァンの肩に手を置き、微笑む。
ヴァンの目から、涙が溢れた。
「俺、頑張ったんだよ、エメリー」
ヴァンがその存在の名を、呼んだ。子供の頃のヴァンをニーズランドから守ってくれた勇者であるエメリーが、ヴァンの横に並ぶようにして立っていた。
"君の歩む道が平坦じゃなかったことくらい、分かってる。だからこそ君は、本当に素晴らしい"
エメリーがヴァンの頭の上に手を移動させ、ポンと置いた。
"一緒にさ、奴を倒そう"
エメリーが、ヴァンに笑いかけた。
「うん!!!!」
ヴァンが、元気よく頷いた。
そして、ニーズランドを見るヴァン達。ニーズランドが爆発するまで、あと五分程だ。
ニーズランドの目にも、エメリーの姿は映っている。そのエメリーを見て、ニーズランドは思った。
"あの時僕が殺した、勇者の魂か"
ニーズランドは、笑いたくなった。
「君は死ぬ前もめんどくさい存在だったけど、死んでからも、めんどくさいんだね」
ニーズランドが、エメリーにそう告げる。
"あはははははは、勇者にとって魔族からめんどくさいと思われることは、光栄なことだね"
エメリーは余裕綽々な様子で、ニーズランドを見る。
"さて、ヴァン君、私の魔力をあげるよ。ともに、ニーズランドを倒そう”
ヴァンは泣きながら、頷いた。
「うん!!!!」
そして、ヴァンが叫ぶ。
「スキル"闇の化身"!!!!」
ヴァンの身体に、真っ黒なオーラがまとわれる。さらにヴァンは、口を開く。
「スキル"圧倒的な正義感"!!!!」
ヴァンの手に、正義の剣が握られる。その剣は、所有者の正義感に比例して、強くなる。今のその剣には、ヴァンとエメリーの正義感が付与され、通常時よりも、圧倒的な輝きを放っていた。
"スキル"魔力暴走""
エメリーが、そう口にした。それはエメリーのスキルで、それを受けた対象は、その力が何倍にもされる。その魔力暴走が、ヴァンの正義の剣に付与された。
ヴァンの正義の剣は、刀身数十メートルほどに伸びた。だが、重さはなく、ヴァンはそれを、両手でしっかり構える。
「行くぞ!!!!」
ヴァンが、ニーズランドを見る。
「来い、勇者達!!!!!!」
ニーズランドが、そう叫んだ。
ニーズランドの巨大化した拳が、ヴァンに向かう。ヴァンはその拳を、真正面から受けた。その拳と正義の剣が、対峙する。"闇の化身"のオーラをまとったことで、身体能力が向上しているヴァンの攻撃が、ニーズランドの拳を斬った。
そしてニーズランドの拳が、地面に落ちた。
その勢いのまま、ヴァンはニーズランドの胴体に斬りかかる。
「今までお前が殺してきた命に、あの世で謝れ!!!!」
「あはははははははは、嫌だね」
ニーズランドの胴体を斬る最中、ヴァンの剣が止まった。
"圧倒的な悪意"の効果で、ニーズランドの身体が、硬化したのだ。
「このままでは、斬れない」
ヴァンが悔しそうに、そう口にした。
そこで剣が止まってしまうと、ニーズランドの息の根を止めることができない。すなわち、もうすぐ起こってしまう、その爆発を止めることができない。
"大丈夫だよ"
エメリーがそう告げ、剣を持つヴァンの手に自らの手を添える。その瞬間、ニーズランドの胴体は、横一文字に真っ二つになった。
ニーズランドを斬ったヴァンの剣の衝撃が天に届き、どんよりとした曇り空が、一瞬で快晴になった。
「あははははははははは」
ニーズランドはその上半身が宙に舞うにも関わらず、笑う。
「僕は、最後まで悪だ。最後の最後までね。それこそが、僕の誇りだ」
残念ながら、かろうじてニーズランドに息がある中で、爆発する時間になった。
「あはははははは、弱ってしまったから全力の爆発ではないが、それでもこの国くらいは、吹っ飛ばせるよ」
ニーズランドが、ニヤニヤしている。
最後の最後まで、ニーズランドは絶望をばら撒いてくる。




