第三百十九話:推し
「スキル"具現化するキャラクター"!!!!!!」
レメロナがとある本を手に持ち、二人の男性が召喚された。イケメンな勇者とダンディな剣士であるその二人。
「くっ」
レメロナが、鼻から血を流す。
イケメン勇者の方が、殺戮の人形を上から押さえるように動き、その足を斬った。
人形であるそいつには痛覚がない。さらに死もないが、殺戮の人形は動けなくなり、無力化された。
「きゃきゃきゃきゃきゃきゃ」
殺戮の人形は歪な顔で、レメロナの方を見た。
さらに、ダンディ剣士が有翼ガーゴイルに斬りかかり、有翼ガーゴイルのその身体が、真っ二つに斬れた。
明らかに他のキャラクター達とは実力の違う、そいつらだった。
"この二人の召喚は、制約により長時間行えない。早めにけりをつけないと"
レメロナはドクドクと鼻血を流しながら、そう思う。その制約とは、鼻血を流すことにより、徐々にダメージを負ってしまうというものだ。
「私はこの二人と共に、みんなを守るんです!!!!」
そう叫んだレメロナは手に持つ、"イケメン勇者とダンディ剣士の秘密の密会"というタイトルのその本を、愛読していた。
そして、その二人の推しキャラが召喚されたことで、レメロナはメロメロになり、鼻血を出す。
そしてその鼻血により、勝手に追い詰められるレメロナであった。
だが、その二人の実力はすさまじく、付近にいた魔族達をボコボコにした。
"ああ、尊い……♡"
レメロナはイケメン勇者とダンディ剣士のその様を見て、喜ぶ。
レメロナ付近の魔族は、そいつらに倒された。
さらにその二人が、敵の方に向かい始めた。
「いっけーーー!!!!」
レメロナがそう叫ぶ。レメロナがそのBLカップルに対して溢れんばかりの愛着を持っているからこそ、鼻血を出してしまうほどに推しているからこそ、そいつらの実力は、かなりのものなのだ。
「私は誇りを持って、この二人を推しています!!!!」
レメロナは誰に告げるでもなく、そう口にした。レメロナの脳裏に、レメロナにそのスキルを渡した際のアリシアのニヤニヤ顔が、思い浮かんでいた。
だが、レメロナの愛情は本物で、その二人がかなり戦線を強化してくれている。
そのイケメン勇者とダンディ剣士が、地面から突如現れた茨により、がんじがらめにされた。
「トムとブラウン!!!!」
レメロナが、そう叫んだ。
"そんな名前だったんですね、その二人"
ニャロは、そのことを理解した。
「結構やるじゃない」
そんな声が、レメロナ達に届いた。
その声と共に、地面からうねうねと茨が現れ始めた。
その無数の茨の中心に、他よりも一層太い、まるで大木の峰かのような茨が存在し、はるか上空に見えるその先端に、薔薇が一輪咲いていた。
その薔薇が開き、上半身裸かつ緑色の皮膚を持つ女性が、そこから一同を見下ろしていた。
薔薇に似合う綺麗な女性だが、冷酷そうな無表情かつその下半身が薔薇と同化し、存在していなかった。
「あなたが、この魔族達に指示を出していた方ですか?」
レメロナが問い、その魔族が頷いた。
「わたくしは、上級魔族である薔薇女。ニーズランド様が率いるこの軍隊の、No.2です」
薔薇女はその薔薇の中で、笑う。
「てことは、あいつを倒せば、魔族達の統率が取れなくなるってことだな」
兵士達がそう告げてから、その茨に対して、剣を振りかざす。
「うふふふふふふふふふ」
薔薇女が笑い、本体ではない茨を、その兵士達に向かわせた。そして兵士達は、弾き飛ばされた。
ユーリが倒れた兵士達から回収した刃を持ち、空から薔薇女の本体であろう、人間状の部分に向かった。
しかしユーリも兵士達と同じく、茨によりはじかれた。
「強い……」
みな、そう理解した。
「うふふふふふふふふふふ」
薔薇女は、優雅に笑う。
茨に邪魔され、上空に存在している薔薇に近づくことすらできない。さらに付近に、魔族達が数多存在しているという、絶望的な状況だった。
「あなたが、このキャラクター達を召喚しているのよね」
そのことを理解している薔薇女が、レメロナを見た。
そして、レメロナの足元付近の地面から、茨が生えた。その茨により、身体を拘束されてしまったレメロナ。
「くっ」
レメロナが、顔をしかめる。
「うふふふふふふふ」
薔薇女が茨を締める。その攻撃により、レメロナの口から、血が出た。
そんな、どうしようもない状況のレメロナ達であった。




