第三百十話:栄光の館
ヴァン達は、その栄光の館とやらに向かった。
「な、なんだここは?」
ヴァンが驚いた顔をする。まるでお城かのように、豪華な館。厳かな扉を、メイド服を着た天界人が開いてくれた。
その館の中に入った瞬間、ふかふかのカーペットがヴァン達の足裏に触れる。
「……すごすぎる……」
レイラが、うっとりした表情を作った。
「綺麗だねぇ」
サキがその館の内装を見て、そう告げた。
「こ、ここはもしかして、ジャバラ様が住んでいるお屋敷なのですか?」
あまりに豪華なその館に対してレメロナがそんな推測をしたが、ユーリは首を横に振った。
「違いますよ。むしろジャバラ様は、こことは全く違う、藁でできたおんぼろ屋敷で暮らしています」
「なんで神様が、そんなところに住んでるんだ?」
シュガルデには理解ができなかった。
「ジャバラ様は、贅沢を良しとしません。力を持つ者こそ質素な暮らしをし、力なき者、虐げられている者の気持ち、葛藤、苦しみを理解するべきというのが、ジャバラ様のお考えです。だからこそジャバラ様含む天界人は、質素な暮らしこそ善としているのです」
「改めてだけど、立派な神様だね」
自らの世界の神様があまりに素敵な思想を持っていることに対してサキは、誇らしくなった。
「じゃあここには、どういう人が住んでるの?」
ヴァンのそんな問い。その質素こそ良しとする思想とこの豪華な館は、真逆のもののように感じるのだ。
「ここは、今から頑張る者、もしくは、頑張った者のみが使える館なのです。ジャバラ様は質素こそ良しとしておりますが、頑張りに対しては、その努力に報いえるべきというお考えです。だからこそここは、今から頑張る皆様のような方々が使うべき館なのです」
ヴァン達は納得し、その館を堪能させてもらった。
メイドがお世話をしてくれるその館でヴァン達は、のんびりと休む。ふかふかのベッド、豪華なお風呂に料理、そんな素晴らしい館を満喫したヴァン達だった。
深夜、ヴァン達とは離れた場所に、ジャバラが座っていた。
雲の上から、戦いの場となる"湖の国"を眺めるジャバラ。
「くふふふふふ、来ると思ってたよ、アリシアちゃん」
ジャバラが笑う。
「きゃははははは、無防備な神だこと。あたしが背後から攻撃すれば、簡単にその命を奪えちゃいそうなほどにね」
アリシアは物騒なことを言いながら、ジャバラの横に座った。
「ヴァン達は、勝てるかしらね」
「くふふふふふふふ、どうだろうね。運命的にはまぁ、負けてしまうんだけど」
自らが修行をつけたヴァン達に対してジャバラは、慈悲なくそう告げた。
「あんたとルゥが持つ運命を見る力ってさ、どういう感じで運命が見えるの?」
「その能力を使いながら目閉じると、未来が見えるようなイメージだね。そして、確定している未来ほど、鮮明に見えるんだ」
ジャバラが説明をする。
「例えば、ガラムハザールが世界を闇で覆うという未来は、とても鮮明に見える。つまりそれは、確定している運命ということになる」
ジャバラが残念そうな顔をした。
「逆に確定していない未来は、ノイズがかかって見える。明日のお昼ご飯何を食べるかってことが決まっていない場合、見える未来は不鮮明なものになる。そして何らかの影響で食べる料理が変わってしまった場合、見える未来も別のものとなる」
アリシアはジャバラの言葉を聞きながら、頷いた。
「そして、運命は逆算的に見ることもできる。例えば私がヴァン君達の代わりにニーズランドと戦った場合、ニーズランドを倒せるように運命が変わるといった風に、どういう行動をすればどういう未来になるかってことを見ることもできる。だが……」
ジャバラが首を横に振った。
「私が戦いに関わってしまうと、どう頑張っても、ガラムハザールが世界を闇で覆うその運命が、不鮮明になってくれないんだ」
「きゃははははは、なるほどね。だからあんたは、戦わないのね」
アリシアは納得した。
「くふふふふふふふ」
ジャバラは頷く。
「悲しいものだよ。運命を見る能力があるからこそ、自らはお役御免だって烙印を押されているのが、分かってしまっているのさ」
ジャバラは笑った。
「でも逆にさ、ヴァン達が戦う場合は運命的にも、ガラムハザールを倒せる可能性があるってことよね?」
アリシアの発言に対し、ジャバラは頷いた。




