第三百六話:視る
「ふぁーーーーー」
数日間がむしゃらに一角ウサギを追い続けるヴァン達を見て、アリシアが欠伸した。
「ヒント、教えてあげないの?」
アリシアがジャバラに問うた。
「くふふふふふ、すぐにヒントを与えたんじゃ、身につかないだろう。しっかり自分で考えさせた上で与えるヒントにこそ、価値がある」
ジャバラがテーブルを創造した。そして、アリシアに告げる。
「チェスでもしようよ」
「きゃはははは、負けないわよ」
ヴァン達が頑張る横で、裏ボスであるアリシアと神であるジャバラが、仲良さ気にチェスをさしていた。
一角ウサギと向き合うヴァン達は、ただただ一角ウサギを捕まえようとする。追うだけではなく挟み撃ちにしようとしたり、落とし穴を掘ってみたりと捕まえる方法を模索していたが、今だに捕まえることはできていない。
そんなこんなでさらに三日ほど過ぎた日、相も変わらず成果の出ないヴァン達。
アリシアは、ジャバラとトランプしていた。
「くふふふふふ、まだかかるかな」
ジャバラが悪戦苦闘するヴァン達を見て、そう告げた。そしてアリシアが、立ち上がった。
「そろそろ、手本を見せてやろうかしら」
「くふふふ、いい頃合いかもね」
アリシアはヴァン達に背を向けつつ、一角ウサギの前に立った。
「説明はしないから、見てなさい」
アリシアはそう口にした。何のスキルも使用していない状態で、アリシアは一角ウサギをただただ視る。
アリシアが追っていないから、一角ウサギは逃げる動作をとっていない。
一角ウサギはぴょんぴょんと跳ねまわる。一体の一角ウサギが、アリシアの視界から消えた。
そしてアリシアの背後から、アリシアに向かって突進した。
アリシアはその手を後ろに回し、一角ウサギの角を掴んだ。
「はい」
アリシアはただただそう口にし、角を掴まれた一角ウサギが足をバタバタしている。
「どうやったの?」
「きゃはははは、考えなさい。あたしが何をやったのかをね。あたしはジャバラと遊びながら、あんたらの様を視てた。それだけであんた達と同じ条件で、一角ウサギを捕まえることができたの」
アリシアは笑った。
そして、ジャバラとのトランプを再開した。
ヴァン達は、アリシアが何をしたのかを考える。アリシアは一角ウサギを追っていなかった。追わずに待っていれば、捕まえられるのか?
しかし、追うのではなく相手の攻撃を待つというのも正解ではなく、ヴァン達はその真なる答えにたどり着けていない。
「ぐぁ」
まだ一角ウサギの攻撃を受けるヴァン達。
みな、どうすればアリシアのように捕まえられるのかを、考える。
ヴァン達は、完全に動きを止めた。
そして、ただただ一角ウサギを視る。
「くふふふふふ、彼ら、雰囲気が変わったね」
ジャバラがトランプを中断した。
一角ウサギは、ぴょんぴょんと跳ねまわる。そしてヴァンの視界から消え、死角からヴァンを攻撃する。その攻撃を受けるヴァン。いや、何度も何度もその攻撃を喰らってきたヴァン。
奴らはいったん視界から消えた後、死角からヴァン達に突進している。だがヴァン達は、その行動パターンに気づいていなかった。
ヴァン達はひたすらに一角ウサギを追っていたからだ。追われる一角ウサギは、逃げることに専念する。そして追われていない一角ウサギがヴァン達の視界から消え、ヴァン達に攻撃する。
それが、一角ウサギの行動パターン。
追うことに夢中になっていたヴァン達は、それに気づかなかった。
「あいつらをしっかり視よう」
ヴァンはそう告げ、周りの者達も頷く。
そして、一匹の一角ウサギが視界から消えたことに、ヴァンは気づいた。
その一角ウサギは死角から、ヴァンの方に向かう。
ヴァンはその一角ウサギの方に顔を向けた。
その一角ウサギはヴァンと目があって"やばい"的な感情を抱いたが、突進していた手前、その勢いを弱められなかった。
ヴァンはその一角ウサギを、抱きかかえるように捕らえた。
その一角ウサギは、ヴァンの腕の中でじたばたしている。
「やった!!!!」
ヴァンは喜ぶ。
シュガルデやらレメロナといった他の者達も一角ウサギの行動パターンに気づき、皆捕まえられた。
「きゃははははは」
アリシアが笑いながら、ヴァン達の前に立った。
「どうやったら捕まえられたのかを、教えてもらいましょうか」
ヴァンは堂々とその答えを口にする。
「奴らをしっかり視たから、捕まえることができた」
ヴァンが、ピースサインを作った。
「きゃはははは、そうね」
ヴァンの答えは一応正解だった。元々ヴァン達は一角ウサギを追うことしかしていなかったが、追うのではなくしっかり敵を視ることで、行動パターンを把握し、捕まえることができたのだ。




