表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/405

第一話:勇者の街

 勇者の街 ユウリオットには、"一部の勇者達が突如暴れ出す"という、不穏な噂が流れていた。そしてそれは噂にとどまらず、暴れる勇者を他の勇者達が拘束するという事象が、多発していた。




 この勇者の街で申請し、試験に合格すると勇者になれる。だからこの街は勇者になりたい者達、また、勇者になった者達で、溢れている。


「こんなに勇者っているのね。魔王城に、2000人も来るわけだわ」


 アリシアはその街で、闊歩する。レンガの家が立ち並ぶ市街地の中に数多の屋台が存在し、美味しそうな料理やら不思議なお面やらを、売っている。


"ずっと魔界にひきこもってたあたしにとって、人間界は刺激がたくさんね"


 そんなことを思いながらきょろきょろしていたせいで、アリシアは、ひげ、スキンヘッド、大柄の三点セットの男性と、ぶつかった。大柄の男は何かの獣の皮で作られた、安そうな服を、身につけていた。


「ちっ、いてぇなぁ!! 気をつけろ、俺は勇者様だぞ?」


 羽と尻尾を収め、ただの10歳程度に見えるアリシアに対して勇者らしいそいつは悪態をついた後、先に進み始めた。そんな大柄の勇者の耳に、不愉快なフレーズが届く。


「あら、ゴミみたいに弱っちいのに、いっちょ前に勇者を名乗るのね」


 大柄の勇者は即座に振り返り、少女を視界にとらえる。少女は、路地裏に逃げこんだ。それを、大柄の勇者は追った。


 路地裏に入った大柄の勇者は自らを馬鹿にした存在をぶちのめすために、辺りを見回す。そして、ゴミ箱に腰かけた、アリシアを見つけた。


「あんた、良いわね。とても良い」


 アリシアは妖艶な様相で、そう告げる。その少女をまじまじと見た大柄の勇者は、目の前の少女がおぞましく強いことを、直感で理解した。全身に鳥肌が立ち、寒気がするのに汗がとまらない。そんな異様な状況の大柄の勇者に、アリシアはゆっくりと話しかける。


「あんた、勇者なのに本当にザコね。でも、人一倍力に対する執着心が見える。ねぇ、圧倒的なまでの力が欲しくない?」


 アリシアは尋ね、大柄の勇者はその質問に対する答えに、嘘偽りが通用しないことを理解する。


「ああ、俺は力が欲しい。他者を思い通りにできる、力が欲しい」


 アリシアは宙に浮かんだ。そしてふわふわと飛び、大柄の勇者のスキンヘッドの上に、腰掛ける。大柄の勇者はそんな状況だが、何も反応しなかった。いや、反応できなかった。


「きゃはははは。正直でよろしい。ならあんたに、あたしの力の一部を、貸してあげる」


 アリシアの手から黒色の雫が現れて、大柄の勇者の肩に落ちたその瞬間、大柄の勇者の身体から真っ黒なオーラが溢れた。それは、薄暗い路地裏を一層暗くするかのように、天に向かって溢れていた。


「きゃははははははは、それが力よ。あんたの今までのちんけなそれとは比べ物にならない、本当の力。その力を使いこなせればあんたは、世界の支配者にすらなれる。その力で、最強の勇者になりなさいな」


「ああ、これが俺の求めていた力だ。そうだ、これが力なんだ」


 大柄の勇者は、とても満足そうだ。アリシアも同じく、満足そう。


"よしよし、こいつに、ガラムハザールを倒してもらおう"


 そんな、アリシアの思惑。大柄の勇者は、路地裏から大通りに出た。アリシアは、大柄の勇者の動向を、陰から見守る。


「わははははははは、俺は最強の勇者だ。俺が、俺こそが、ガラムハザールを倒すんだ!!!!」


 勇ましいその大柄の勇者だが、様子の変化はすぐに現れた。


「ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ、最強だ!! 俺が最強だ!! 俺が、最強なんだぁぁぁぁ!!」


 壊れたラジオみたいになった大柄の勇者は、近くに存在していた屋台を、思い切り蹴った。その屋台はまるで、朽ち木だったかの如く壊れた。


「あちゃ~、またこうなっちゃったか~」

 

 アリシアは頭をかかえる。力を求める勇者を見つけて、力を与える。そして、その勇者に、ガラムハザールを倒してもらうという計画だった。しかし、今の勇者のようにみんな力に溺れ、壊れてしまう。


"あたしの力の一部でも、ただの人間には刺激が強すぎるのかしらね"


 アリシアは大柄の勇者に向けて、遠くから右手をかざす。


「使いこなせないのなら返してもらうね、あたしの力」


 アリシアがそう告げた瞬間、大柄の勇者の真っ黒なオーラが、収まった。だが、そんなことは関係ないと言わんばかりに暴れ続けるそいつをほっとき、アリシアは、路地裏に溶けていく。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ