表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

280/405

第二百七十七話:導かれる魂

「さて、時間ですね」


 マガナはそう言ってからヴァン達の後ろに無数に存在している椅子を見た。


「時間?」


 ヴァンは首を傾げた。


 後ろの椅子には相も変わらず誰も座っていない。


「この天界の大聖堂は、とある方々を導く役目があるのです」


 マガナが聖書と呼ばれる本を手に持った。


「きゃはははは、めちゃくちゃたくさん座ってるわね」


 アリシアはそう口にするが、ヴァン達はなんのこっちゃ分からなかった。


「誰も座ってないよ?」


 ヴァンが首をかしげるが、アリシアには見えた。たくさんの透明な人間達、もったいぶらずに言うと霊体が、そこに無数に座っていることが。


 がらんとしていた大聖堂は実は、死者の魂で溢れていたのだ。


「さて、迷える魂を導いてあげましょう」


 マガナはその優しそうな表情を真剣なまなざしに変えた。


「崇高な人生を歩まれた皆さまの魂が、安らかに眠りにつけますように」


 マガナは祈りを捧げる。


「きゃははははは、人間がいない天界に大聖堂があるのは、死者のためだったのね」


 先ほどまでアリシアは死者達の声を五月蠅いと思っていた。嘆きの声、生に未練を持つ声、そんな数多の声であふれるその場所だったが、マガナの祈りにより一瞬で静かになり、安らかな表情で消えていく死者達をアリシアは目の当たりにしたのだ。


「ふーん」


 アリシアは霊魂が消えて、誰もいなくなった椅子をながめた。


「さて、今日のお祈りは終わりです」


 マガナがほほ笑んだ。マガナがしたのは簡単祈りだったが、それでもたくさんの魂が救われたという事実がある。


「他の聖堂でも同じようなことが行われているのかしら?」


 アリシアの質問。


「はい、この大聖堂は生前善行をつまれた良い魂を導く場所です。その他の聖堂も魂を導くという役割は一緒ですが、生前の行いで、導かれる聖堂と導きにより到達する場所が違うのです」


 ユーリがそう説明した。


「きゃははははは、なるほどねぇ」


 アリシアは頷いた。


 死者の導きも、神官達の役目の一つなのだろう。


「さて、ユーリ、貴方はジャバラ様のご指示の通り、ヴァン様達と共に行動しなさい。そして明日はヴァン様達も連れて、神官見習いとしてお仕事をしなさい」


「俺達もユーリと共に仕事するのか?」


「ええ、それがジャバラ様の導きです」


 そう言われては了承するしかないヴァン達。


「ジャバラ様はいつここに帰ってくるの?」


 サキがマガナに問うた。


「最適な時にあのお方は現れます。あのお方がこの場所に現れていないのは、今が最適なタイミングではないからです。時が来れば、あのお方は皆さまの前に顔を出すでしょう」


 そんなマガナの回答。


"最適なタイミングで、あたしは神と対峙するってことね"


 アリシアは身震いした。


「さて、今日は長旅でお疲れでしょう。皆様の泊まる場所に案内しましょう」


 ユーリがそう口にし、ヴァン達を連れて歩く。


 大聖堂から離れ、聖堂がたくさん存在している場所からも離れ、ヴァン達は市街地と呼べる場所にたどり着いた。綺麗かつ小さな、きっと一部屋程しかないであろう煙突付きの洋風の建屋が並んでいる。


「ここです」


 その中の一つ、他の建屋よりも大きく三部屋くらいはありそうな大きさの建屋の前に、ユーリは立った。


「……この家、使っていいの?……」


「はい、ジャバラ様がこれを創ってくれたんです。ヴァン様達がくるからって」


「へーーー、流石神様だね」


 サキがその建屋を見上げてから、そう口にした。


「中に入りましょう」


 中には寝室、リビング、トイレ、お風呂が設けられていた。


 寝室にはベッドが五つ存在している。


「あれ? 神様でも間違えちゃうことがあるんだね。俺達は4人だよ?」


 ユーリがゆっくり首を横に振った。


「いえ、私も皆さんと一緒に行動しなさいというジャバラ様のご指示ですので、私もここで眠らせていただきます」


「へーーー、よろしくね」


 サキが笑顔を作る。


「はい、よろしくお願いします」


 レイラがジーーーーっとユーリを見ていた。


「……お腹が、減ったのだけれども?……」


「きゃははは、"減ったのだけれども?"じゃないわよ」


 アリシアが笑った。


「なら、ご飯を食べに行きましょう」


 ユーリはその家に入ったばかりだというのに外に出た。


 そして、ご飯を食べられるエリアに向かった。



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ