第二百七十一話:戦いの終わり
「ああ、口惜しい。だが、貴方を必ずや魔界に連れ戻します。どんな手を使ってでもその勇者を殺して」
ガラムハザールが不敵な笑みを作った。
「きゃははははは、帰らないって言ってるでしょ」
アリシアはそう告げ、かざしたその手から真っ黒な波動がガラムハザールの方に向かう。
ガラムハザールは動けない状態でアリシアの渾身の一撃を受け、インヨウの身体ごと消え去った。
「ばいばい……、ミラ」
アリシアは誰にも聞こえない程の声量で、そう告げた。
"うん、ばいばい"
アリシアの耳に届いたそんな言葉。
"ヴァン君達に伝えて、ありがとうってさ"
アリシアは頷いた。
「ええ、必ず伝えるわ」
アリシアはそう口にした。そしてアリシアは付近に、ミラの気配を感じなくなった。
「行っちゃったのね」
アリシアはただただそう告げた。その目が少し、うるっとしていた。
アリシアは階段に戻り、そこにヴァンを置き、自らも腰を下ろした。
「さすがにあいつの相手はきついわね」
アリシアは息を吐いた。
「おーーーーーい」
そんなアリシアの耳にとある者の声が聞こえてきた。サキ、レイラ、ナーレシア、革命隊、鏡の兵士達が走って現れたのだ。
「きゃははははは、遅いわよ」
アリシアはサキ達に笑いかけた。
「………さっきまでの邪悪な魔力が、消えてる………」
レイラが付近を観察する。
「ああ、悪は倒されたの。ミラとそこで寝てる馬鹿勇者によってね」
アリシアがヴァンを顎で指す。
「そうか、こっちも終わったよ」
サキがアリシアに向けてピースサインした。
「きゃはははは、弱っちぃなりには頑張ったじゃない」
「これで、全部終わったのね」
ナーレシアが清々しい顔の半面、悲しい顔をする。
「悪は滅びました。ですが、悪だけではなく、友もこの戦いで失ってしまった……」
「戦いの犠牲というには、惜しい存在だったわね……」
アリシアが悲しがるが、表情を変えた。
「でもだからって、勝利したにも関わらず葬式みたいな顔するんじゃないわよ。そんなの、ミラだって望んでない。ミラを含めてあんた達は、立派にこの国に攻めこむ悪を倒したんだから、胸をはりなさい。まだまだやらないといけないこともあるんだしね」
アリシアの言葉に対して、その場にいる全員は頷いた。
そして革命隊達が気絶しているヴァンとナナラナーラを担いで、全員でその鏡の中の世界から外に出た。
「ふぅ、戻ってこれた」
宿屋に到着したサキがそう告げながら、ベッドにダイブした。
「………私、疲れた……」
レイラもサキに続く。
ヴァンも革命隊にベッドに置かれ、気絶したまま眠る。
「きゃはははは、あたしもちょっくら横になるわ」
そして、一同は眠る。眠る前、ナーレシアがアリシア達に笑いかける。
「皆さま、この国のために本当にありがとうございました。あとのことは私がやりますので、皆様はごゆっくりお休みください」
ナーレシアが去って静かになったこの場所で、一同はまだ夕方ではあるが、ご飯も取らず風呂も入らず、眠りについた。
「あーーー、よくねたぁぁぁぁ」
「うるっさいわねぇ」
ヴァンがパチクリ目覚め、朝は機嫌の悪いアリシアに文句を言われた。
「あはははは、おはようヴァン君」
サキが目をこすりながら笑う。
レイラはというと、その五月蠅い喧噪のなかでも眠りこけていた。
「レイラちゃん、朝だよ~」
サキがレイラの肩をゆさゆさと揺らし、起こす。
「うーーーーー」
レイラが嫌々目を覚ました。
快眠し、元気になったヴァンは状況が理解できていない。
「あの後、どうなったの?」
ヴァンがパチクリした目でそう問うた。
「勝ったの、ヴァン君。インヨウもナナラナーラも、倒したの」
サキがとても満足げにそう告げる。
「そうか、良かった」
ヴァンが息を吐いた。そしてベッドの上で胡坐をかいている姿勢のまま、うつむいた。
「でも、ミラはもう……」
「ええ、行ったわ」
アリシアが朝日を窓から見ながら、そう口にした。
「あんたらに"ありがとう"って伝えてくれって言ってたわ」
アリシアがミラの伝言をそのまま伝える。
「ああ、こちらこそ、ありがとう」
下を向いていたヴァンが凛々しい表情で、顔を前に向けた。
「めそめそしてたら、ミラに怒られちゃうな。だから、前を向いて頑張ろう」
ヴァンがそう宣言した。
「うん、そっちの方がミラ君も喜ぶよ」
サキが笑う。
「……がんばろ~~……」
レイラが手を上に突きあげて、エイエイオーのポーズをとった。
「きゃはははは」
そんな様を見たアリシアが笑った。




