第二十五話:パーティーメンバー
「では、面接を始めます」
椅子に深く腰掛けたアリシアが、対面に座る相手に対してそう告げる。そんなシーンの、少し前のことだった。
ヴァンとアリシアは歩いていた。オフの次の日は普通にミッションを行う心づもり。ヴァンとアリシアはどんなミッションを行うか、巻物を見ながら考えていた。
「ヴァンか」
不意に聞こえてきたその声の主は、勇者認定試験でヴァンと一騎打ちし、両名とも勇者になれた相手である"氷の貴公子"ことシュガルデだった。シュガルデもヴァンと同じく、勇者の服を身に着けていた。
「やぁシュガルデ、元気?」
シュガルデはクールに頷く。
「ああ、悪くない体調だ」
"良いって言いなさいよ"
アリシアはモヤモヤした。
シュガルデの横に、15歳くらいの少女が立っていた。ピンクのショートカットの上に黒色のとんがり帽子をかぶり、同じく黒色のローブを身につけているその少女。
「その子は?」
ヴァンが尋ねる。
「この子は、ミミっていう魔法使いだ」
ミミと紹介された少女はお辞儀する。
ヴァンも真正面からお辞儀を返す。
「ヴァンって言います。こっちはアリシアです」
そんな丁寧なヴァンは、ミミを見て羨ましそう。ヴァンがアリシアに向けて、小声で話す。
「シュガルデはもう、パーティーメンバーを見つけたんだね」
「そりゃあ、あんな有能そうな勇者なら、すぐに見つかるでしょうよ。馬鹿っぽさが滲み出てるあんたとは違って」
アリシアの暴言。
「ヴァンも、パーティーメンバーを見つけたんだな」
シュガルデがアリシアを見る。
「あたしはパーティーメンバーではなくて、師匠なの」
「師匠?」
シュガルデが訝し気な表情を作った。
「ええそうよ」
アリシアは手をひらひらと振る。シュガルデは不思議そうな顔をするが、それ以上つっこむこともなかった。
「そ、そうか。ならヴァンも、いいパーティーメンバーを見つけられるといいな」
そう言い残してシュガルデとミミが去っていったあと、ヴァンが口を開いた。
「俺も、パーティーメンバーが欲しい」
「なら探してみる? 確かに仲間がいたほうが、冒険は進みやすいでしょうし」
ヴァンは頷いた。先ほどからの会話の通り、勇者は勇者をリーダーとしてパーティーを組める。勇者及びそのパーティーメンバーになりたい存在の両方が合意し、ミッション等を記す巻物経由で勇者協会に申請すれば、パーティメンバーとして認定されるというシステム。
"なんの職業の人を、パーティーに入れたらいいのかな?"
そんなことを、ヴァンは考える。
勇者以外にも様々な職業がある。魔法使いやら召喚術師といったメジャーなものから、噓吐きというマイナーな職業までたくさん。もっとも職業は、勇者協会に申請すればテスト等なく、容易になることができる。
なることはできるが、給料が支払われることもない。勇者パーティーのメンバーは、ミッションクリアの報酬を勇者から分けてもらうことで、生計を立てる。
言ってしまえば誰でも簡単に好きな職業になれるが、勇者にパーティーメンバーとして認められなければ、お金はもらえないシステムだ。
「そもそもパーティーメンバーって、どこに行けば探せるのかな?」
「あそこ」
アリシアは指をさす。そこには看板を持つ青年が立っていた。
"勇者様、仲間に入れてください"と書かれている看板を持って、目を輝かせる青年。
"剣士です。きっと勇者様の冒険の助けになります"と書かれている看板を胸に掲げた少女。
勇者の街には所々、そんな者達が存在していた。
「お、結構いるんだな。なら手当たり次第仲間にして……」
アリシアがヴァンのみぞおちを軽く殴った。ヴァンは「くっ」という声を漏らした。
「烏合の衆を集めればいいってわけじゃないの」
アリシアはパーティーメンバーになりたそうな奴らに対して"スキルチェック"を使用し、その実力を確認していく。
とある青年剣士のスキル"元気3倍"を見たアリシアは「元気だけじゃ戦えないの」と独り言を口にした。そしてそれから、他の者達のスキルも確認し始めた。
"中速ステップ"のスキルを持つ舞踏家。
"霊感2倍"のスキルを持つ霊媒師。
"宇宙人大好き"のスキルを持つレスラー。
「どいつもこいつも、カススキルばっかりね、きゃはははははははは」
アリシアの罵倒に対して、ヴァンは思う。
"仲間がいっぱいいたほうが、楽しいのに"
アリシアも思う。
"ところで、宇宙人大好きってスキルなの?"




