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第二百五十九話:狂った女

「おほほほほほ」


 ナナラナーラが不敵に笑う。


 魔帝八中将のその実力の高さは言うに及ばず、ナーレシアの配下である兵士達は何一つできることもなく、敗北した。


「くっ」


 ナーレシアが顔をしかめる。


 インヨウの刃がナーレシアの喉元に突き当てられる。あと一押しすれば、ナーレシアはその喉を刺され、死亡する。


「インヨウ様、お待ちください」


 ナナラナーラが笑いながらインヨウに頭を下げる。


「なんだい?」


 インヨウは刃を持つ手を止めて、ナナラナーラの方を見る。


「黒のインヨウ様の力により、ナーレシアに呪いをかけてほしいのです。わたくし達に仇なすことを決して話せなくなる呪いを」


「なぜそんな無駄なことを? 殺せばいいだろう?」


 ナナラナーラが満面の笑みでインヨウに告げる。


「わたくしはこいつが嫌いでした。いつもいつもわたくしの目の上のたんこぶであるこいつが、とてもとても嫌いでした。だから、こいつには死よりも辛い苦痛を与えたいのです。この国が滅ぶさまをその目に焼き付けながらも何もできない無力さを、感じさせたいのです」


 心のないインヨウはそのナナラナーラの言葉の意図が分からなかった。


「不思議なことがしたいんだね」


「おほほほほ、わたくしの心が望むのです」


 インヨウがその刃を納めた。そして、ナーレシアの頭に黒色の皮膚である方の手の平を当てた。


「スキル"失う、大事な、心の言葉"」


 魔帝八中将であるインヨウのその呪いを受けたナーレシア。


「おほほほほほ、分かるでしょう? あなたはもはや、わたくし達に不利益となることを話せないの」


 ナナラナーラはナーレシアの胸ぐらをつかみ、その眼前に自らの顔を突き出す。


「面白いことを教えてあげる。今からちょうど十年後、この国と魔界をつなげるの。そうすることで、この国は魔族の国になる」


「何を言ってるの? この国に住んでいる人がいるでしょう。その人達はどうなるっていうの?」


「おほほほほほ、わたくしがどうしてそんなことまで考えないといけないのかしら? 魔物の餌になるなり何なりとすればよいでしょう」


「どこまで狂ってるの……」


「おほほほほほ、誉め言葉として受け取っておきましょう」


 ナナラナーラはとても上品な様子ながら、あまりに異常なことを宣う。


「ですが、あなたにわたくしたちの野望を止める力はない。さらに、それを他者に伝えることもできない。滅びゆくこの国を、眺めておきなさい」


 ナナラナーラの高笑いが響く。ナーレシアはあまりの絶望に、心が砕けそうであった。


「おほほほほ、あなたが調べてるミラっていう少年のことについても教えてあげましょう」


 ナナラナーラがとてもいやらしい表情でナーレシアの眼を見る。


「きっといい情報ではないのでしょうね」


「ミラは、インヨウ様なのです」


 ナーレシアはどういう意味か分からなかった。


「インヨウ様は黒のインヨウ様と白のインヨウ様に分かれるの。その白のインヨウ様の一部が、あの少年なのです」


「どういうことかしら」


「おほほほほほほ、心の無いインヨウ様ですが、インヨウ様のメインスキル"心の刃"は心の強さを元に強化されるもの。残念ながら心を持たれないインヨウ様では、全ての力を使いこなせない。


 だからこそ、インヨウ様はあの少年を作ったのです。彼は、インヨウ様の一部。その彼に人間界で生活させ、そして、人間達との関わり合いの中で心を見出してもらう。そして、心を有したミラをインヨウ様が吸収することで、インヨウ様は遥かなる力を手に入れることができる」


 ナーレシアは全て理解できたが、それはとある残酷な事実を示していた。


「ミラ君はいずれ、あなたに吸収されてしまうってことかしら」


 インヨウが頷く。


「ああ、そうだね」


「そんな……」


 ナーレシアはその事実を理解し、そして、苦しくなった。


「なんて残酷な……」


 ナーレシアはその言葉を口にすることだけしかできなかった。


「おほほほほほほ、怒りますか? 怒ってもあなたにできることなんて何もないのだけどもね、おほほほほほほほほほほ」


 ナナラナーラの高笑いを聞きながら、ナーレシアの視界は真っ暗になった。


 そして、生かされたナーレシアは子供の頃に暮らしていた館で生活をする。しかし、ナナラナーラに女王を奪われたということを含む何もかもを口にできない。厳密には口にはできるが、それには命を賭すほどの苦痛を味わう。むやみやたらに誰に彼にも話すことはできないナーレシアだった。


 自らを王に任命してくれた祖父も既に亡くなっており、ナーレシアはどうしようもできない現状で、気が狂いそうな日々を送っていた。 

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