第二十三話:無料のそれ
時はララーシャとアリシアの対話からヴァンが目を覚ました後へと進み、ヴァンはアリシアの目を見る。
「強くなるには、どうすればいい?」
「なら、ミッションを記す巻物を貸して」
ヴァンは言われた通りに、アリシアにそれを渡す。
「きゃはははははははははは、これは今日、あたしが没収します」
その巻物は、煙のように消え去った。それはアリシアのスキル"封印"による効果で、そのスキルを使われた対象はアリシアが指定した期間、今回だったら丸一日世界から姿を消す。
「よし、なら今日はあたしが、ザコのあんたに今必要なことを伝授してあげましょう」
ヴァンは頭を下げた。
「頼む」
「よーし、ならついてきて」
それから30分後、アリシアとヴァンは向かい合って座る。
「美味し~♡」
アリシアとヴァンの間にあるテーブルには、パフェが二つ置かれていた。アリシアの前には桃のパフェ、ヴァンの前にはチョコのパフェが置かれている。
ヴァンの顔は、険しかった。
「食べないの? せっかくあんたの分も注文してあげたのに。食べないんなら、一口食べさせてよね」
アリシアはスプーンでヴァンの前に置かれているパフェをごっそりとすくい、自らの口に運んだ。
「ん~~、こっちも美味し~~♡」
ヴァンはアリシアを、相変わらず険しく見る。
「アリシア、俺は強くならないといけないんだ。遊んでる暇なんて……」
「あるわよ」
アリシアはそう断言する。
「むしろあんた、頑張りすぎ。頑張るのは良いんだけどさ、根詰めすぎ。ララーシャにやられて、やる気メラメラなのも分かる。でも、頭を冷やしなさい。頑張ることだけが修行じゃないの」
アリシアは自らのパフェを口に入れて、微笑んだ。
「あんたの鍛錬は今日明日だけなの? もしそうなら、今日明日だけ頑張りなさい。でも、あんたは魔王を倒す立派な勇者になるんでしょ? ならあんたの鍛錬は、ずっと続く。ずっと鍛錬を続ける気なら、たまには体と心を休ませることで、トータルで見て質の良い鍛錬になるの」
アリシアのその発言に対してヴァンは、一言も反論できなかった。
「だから、今日はもうオフの日。あたしが巻物を封印してるんだから、ミッションをしようとしてもできないしね」
アリシアは、ヴァンの前のパフェを見る。
「それでも鍛錬したいって言うんなら、いいわよ? そのパフェ、あたしが食べちゃうから。きゃはははははは」
「いや、食べる食べる」
ヴァンはアリシアのスプーンが迫るそのパフェを、手に取った。そしてそれを食べたヴァンの顔が、ほころんだ。
「よし、今日はオフ。お金もまぁまぁあるでしょ? あんたミッション頑張ってるんだしね」
アリシアがヴァンの財布の中にあるお札を数え、2,000ゼニーを財布に戻し、それ以外のお金、だいたい3,000ゼニーほどを握りしめた。
「2,000ゼニーあれば今晩宿で泊まれるでしょ。残りの3,000ゼニーで、いっぱい遊ぶわよ」
アリシアは、とても楽しそうだった。
「あんた、遊んだことなんてほとんどないんでしょ? なら今日は、楽しみなさい」
「俺、あんまり遊び方を知らないよ」
「馬鹿ね、遊び方なんて深く考えなくていいのよ。自分がしたいことを、ただすればいいの」
アリシアはルンルン気分でそう告げる。
そしてアリシアとヴァンは、この街の一部である屋台エリアにたどり着く。そして射的の屋台にて、おもちゃの拳銃で狙った景品を撃ち落とす遊びをまずした。
しばらくして、怒りの声が響く。
「もう一回!!!!」
「もう諦めようよ~」
まったく取れないアリシアに熱が入り、財布を気にするヴァンがなだめる。
「次行くよ」
五回ほどやって景品なしのアリシアは、射的の店主を"がるるる"という音が聞こえそうな顔で睨んでいた。
それをヴァンが引っ張っていく。ちなみにヴァンも二回やったが、何も取れず諦めた。そんな、射的の屋台であった。
それから二人は射的の屋台のすぐそばにある別の屋台で、お昼を食べる。
アリシアとヴァンは、海羊という海を高速で泳ぐ羊の肉で作る、ステーキ串の屋台の前に立った。
「これ、二つください」
ヴァンがそう言い、店主のおっちゃんは笑う。
「嬢ちゃん達、見てたぞ。射的でだいぶご立腹だったな。よし、一本サービスしてやろう!!」
おっちゃんは三本の串を、二本分の値段で売ってくれた。
「ありがとうございます」
ヴァンがお礼を言い、アリシアは当然のようにその串を二本食べる。この街に来てすぐアリシアは、別の屋台の店主を脅すことで、同じような串を半ば強奪して食した。今回は、一本サービスでもらえた。つまり、一本の串をそれぞれのタイミングにて二回、無料で手に入れられたことになる。なるのではあるが、アリシアは思った。
"おんなじ無料だけど、怯える顔より笑顔でもらったほうが、気持ちがいいわね"
それは、闇の化身であるアリシアの抱いた、不思議な感想だった。




