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第二百十二話:守る義務

「ふふ、ヴァン君、君の実力を疑うような失礼な真似はしたくないんだが、少し俺と遊んでくれ」


 サザンがそう告げる。


「遊ぶって?」


「腕相撲だよ」


 サザンが誰もいないテーブルの席に座った。


「ヴァン君、座りな」


 ヴァンがその対面に座る。


 そしてテーブルに肘をつき、ヴァンとサザンが手の平を合わせた。


「レディー」


 サザンはそう言うが、本来その直後に続くはずの、「ゴー」という言葉はなかった。


「ん?」


 ヴァンが首を傾げた。


「スキル"見える、貴方の人生が"」


 サザンがそう口にした。


 そしてサザンの視界に、とある光景が見えた。それは、ヴァンという人間の今までの歩みを映し出した光景。今までどんな人生を歩んできて、何を喜び何を悲しみ、何に対して怒るのか。そんな光景がサザンの脳裏に、ドラマのように高速で流れ込んできた。


 終わった街が終わる前の商業の街で幼少時代を過ごしたヴァン。終わった街でひたすら耐え忍んだヴァン。勇者になったヴァン。ジジジジを倒したヴァン。バグを討伐したヴァン。ラーメンをひたすら食べるヴァン。そんなヴァンという存在の人となりが、サザンの頭の中に流れてきた。


 そしてサザンは、ヴァンの目を見た。


「ふふ、疑うような真似をして悪かったね」


 サザンはどや顔でそう告げる。


「俺のスキル"見える、貴方の人生が"は触れた存在が何者なのかを知ることができるっていうスキルでね、そのスキルを通して君の人となりを知ることができた。君は、優秀な勇者だね」


 サザンがそう告げる。


「さっき握手した時に使えばよかったのに」


 アリシアの素朴な感想。


「兄貴はこのポーズが好きなんだよ。この真剣勝負のピリピリ感の中、相手の人となりをスキルで調査するのが好きみたい」


「変な奴」


 アリシアがボソッとつぶやいた。


「でも兄貴、昔から言ってたよね。相手を騙すようなそのやり方は失礼だって」


 サキが腕相撲開始前の状態で止まっていたヴァンと兄の拳の上にその手のひらを置いた。


「レディー、ゴー」


 サキがそう告げた。


「あれ、もう腕相撲をする価値はないだろ?」


 だが、何も分かってないヴァンが思い切り拳に力を入れ、サザンの拳をテーブルに打ち付ける。


「ぐはっ」


 サザンが拳を思い切りテーブルに打ち付けられ、悲鳴を上げた。


「そうか」


 サザンはヴァンの人生をのぞいた際に、一つ懸念事項があったことを思い出した。


(この勇者、馬鹿だった)


 サザンは思い切り打ち付けられた手をこする。


「勝ったぁぁ」


 ヴァンが喜びの歓声を上げた。


 ヴァンがレイラ達の方に向けてドヤ顔でピースサインし、レイラがジーーっとした目でヴァンを見る。


「………良かったね………」


 レイラがそう口にした。


「あんた、めちゃくちゃ残酷ね」


 アリシアがレイラに対してそう告げた。


 サザンが腕を抑えながらヴァンに向く。


「すまないすまない、君を試すようなことをした罰が当たってしまったな。君の人生を見せてもらったが、君は悪い人間ではないようだ」


 そして、サザンがレイラに問う。


「次は君の人生を見せていただいても?」


「……いいけど……」


 レイラとサザンが握手した。


 そしてレイラの人生を見終わったサザンが、静かに声を発した。


「君は、数奇な人生を送っているんだね」


 サザンはレイラの人生を見て、そう口にした。


 そしてその後、サザンはサキに手を触れた。


「ふふ、たくさんの経験をしたんだね」


「まぁね」


 そんなサキとサザンの兄弟としてのやり取りだった。


「最後に、君もいいかな?」


 サザンがアリシアに手を触れようとするが、アリシアが不敵な笑みを作った。


「きゃはははは、断りま~~~~す」


 アリシアのそんな宣言。


「むむ?」


 サザンは顔をしかめた。


「乙女の人生を覗こうだなんてあんた、おこがましいわよ」


 アリシアの至極もっともな意見に、サザンは頷く。


「それはその通りだ。だが、俺は革命隊の隊長。革命隊のこの本拠地を守り通す義務があるんだ。もしも君が悪しき存在でこの場所のことを大っぴらにしてしまったら、俺達の活動は終わってしまう」


 アリシアはどうしようと考えていた。


 本気を出せば力づくで切り抜けられるが、それはヴァン達にめんどくさい疑惑を生むだろう。"知られたくない過去があるのだろう"と思われるのもめんどくさい。


"どうしようかしらねぇ"


 アリシアは考える。サザンがアリシアの前、言葉を発した。


「ふふ、まぁ大丈夫だろう。サキやヴァン君の人生の中に現れていた君は、決して悪い存在ではないようだったから」


 サザンはそう言って笑った。アリシアはめんどくさいあれこれを考えずにすんで、ほっとした。

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