第二百十一話:革命隊隊長
「あーし、嬉しいのですぅぅぅぅぅぅぅ」
受付嬢が泣く。
「……何が嬉しいの?……」
レイラが問うた。
「うぅぅぅぅぅぅぅ、この国に勇者なんて、めったに来ませんから、本当に久しぶりに仕事ができて、嬉しいのですぅぅぅぅぅぅぅ」
「あんた、嬉しいのならさっさと仕事をしなさい」
アリシアがぴしゃりと告げた。
「うううううううう」
受付嬢は泣きながら仕事を開始した。そんな、相変わらず騒がしい勇者協会支部。レイラが勇者協会支部に常備されているその国の誕生秘話、今回で言えば鏡の国の誕生秘話を読んでみた。
"鏡の国の誕生秘話"
鏡の国は元々、日雇い浮浪者達が工場で働く、浮浪者のたまり場であった。その浮浪者達は見てくれを気にせず、傍から見てみすぼらしい国であった。だからこそ、よその国からこの国にくる人間はほとんどおらず、退廃的な雰囲気が漂っていた。
その状態のこの国の至る所に、王様が鏡を置いた。その鏡の効果でこの国の浮浪者達の見てくれは徐々に徐々に小綺麗に変わっていった。常に鏡がある環境だからこそ見てくれを気にしだしたのだ。鏡を有効的に活用することで退廃的な雰囲気を脱したからこそこの国は、鏡の国と呼ばれ始めた。
そんな内容の本をレイラは読み、
「ふーん」
と口にした。
そして一行はこの国での手続きを終えた。
「うぅぅぅぅぅぅぅ、また来てください。そうでないとあたし、給料泥棒みたいでとてもとても気兼ねしてしまいますからぁぁぁぁ」
やかましい受付嬢を無視して、一行はその建屋から出た。
そして外、徐々に徐々に時刻は夕暮れになる。
「行こうか」
ヴァンが神妙な顔つきでそう口にした。
そして一行は進む。
薄暗くなった鏡の国ではいたるところに街灯が立ち、鏡がその街灯の光を反射させ、とても幻想的だ。
ヴァン達はそんな幻想的な国を足早に進む。
ヴァン達は路地裏に溶けるように消えた。
そしてヴァン達は、その路地裏を進む。ここにも鏡が数多存在しているが、大通り程多くはなく、自らの身体が鏡に映らないように、時に身体をひるがえし、時にゴミ箱を台として使い、そして何とかかんとかこそこそこそこそと、ヴァン達は進んだ。
そして路地裏の奥、とある板が壁に立てかけられていた。その板をどかすと、下、すなわち地下に向かう階段が現れた。
ヴァン達はその階段をゆっくり降りる。ヴァン達はその階段を少し降りた際、ちょこちょことその板を元に戻し、階段を隠すような動きを取った。
そしてその階段を降りきった場所にある扉を開けた。
暖かな光がヴァン達を包む。
「ただいま帰ったよ」
サキがそう口にした。
そんな言葉が響くその屋内は、まるで酒場のようになっていて、カウンターと複数のテーブルが存在している。そのテーブルにたくさんの人々がついていた。薄汚れた作業着を着ている人々が、木製のコップになみなみとつがれている酒を、その口に運んでいた。
荒くれ者のような様相でガタイが良く、筋骨隆々の存在達がサキ達を見る。
「うおおおおおお」
サキを見たその荒くれ者達は歓声を上げた。
「サキ、良く帰ったな‼‼‼‼」
明らかにサキに対する歓迎ムードのこの場にいる者達。
その荒くれ者のような見てくれの者達の中、場違いな一人の男、シャキッとしたスーツに身を包んだ長身の男性がサキの前に立った。その者はシュッとした美形で、ヴァン達は不思議とその者からサキの面影を見た。
「ふふ、久しぶりだな」
「兄貴‼‼‼‼」
サキがその男性に向かってそう口にした。
サキの言葉の通り、その男性はサキの兄である。そのシュッとした男性は、サキからやんちゃさを奪ったような見てくれ、つまりイケメンかつ長身で、さらにクールな、欠点のなさそうな存在。
そんな存在にサキが笑いかける。
「帰ったよ、勇者と一緒に」
サキがヴァンを兄に向けて紹介する。
「初めまして、勇者のヴァンだ。こっちはタンクのレイラと、師匠のアリシア、サキには回復師として頑張ってもらっている」
サキの兄がヴァンに向けて手を突き出した。握手を求めるポーズ。サキの兄は"師匠のアリシア"という箇所に少しひっかかったが、ひとまずその言葉は無視した。
「君達の活躍は新聞で見てる。魔帝八中将であるジジジジを倒したんだろ、すごいね。俺は革命隊隊長のサザン。よろしくね」
ヴァンは鏡の無いこの部屋で、サザンと握手した。
「よろしく」
ヴァンは元気よくそう口にした。付近をランタンの灯が明るく照らしていた。




