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第二百八話:第四章開始:君はだぁれ?

 鏡がたくさん置かれているその国。いたって普通の繁華街に、いたって普通ではない鏡がいたるところに置かれている。姿鏡のようなものはもちろん、壁一面が鏡という建物も散見される。


 この国の方針である。鏡をいたるところに置くと、いやでも自らの姿を見ることとなる。つまりみな、見てくれを気にし、みすぼらしい格好の者達はいなくなる。


 さらに、他でもない自らの目が光っている。鏡越しに自らに見つめられるということで、悪しきこと、自らの心に反することをしづらくなるという効果も見込まれているらしい。そんな、鏡の国。




 その鏡の国の明るい道を、とある青年が歩いていた。真っ黒なTシャツにはLAVE&PEACEと書かれているが別に愛と平和が好きなんてことはなく、ただただお洒落で買ったものに、そう書かれていただけだ。さらにGパンという出で立ち。


 真っ黒なサラサラの髪をショートカットにしているくせに、目にかかるほどに前髪を伸ばし、その目がどうなっているのか分からない。実は真っ赤なのかも知れないし、眼帯をしているのかも知れない。真相は本人とその本人の素顔を見たことがある人のみぞ知るというやつだ。


 身長175cmくらい。まるで特徴のないのが特徴のようなその青年は歩く。


 青年の名はミラ。そのミラは歩く。今日は、ハンバーガーを食べたく、仕事で稼いだお金を握りしめて、ハンバーガー屋に向かった。


 ミラはとある男性と肩がぶつかった。ミラの握っていたお金が財布ごと地面に落ちた。


 そんなこと関係ないと言わんばかりに、強面の男性ががなる。


「おい、どこ見て歩いてるんだ。気をつけろ‼‼‼‼」


 前方を見ていなかったのは実はミラではなく、その強面の男性である。


 その強面の男性は付近を歩くグラマラスな女性に見とれ、前を見ないまま歩いていたのだ。


 だが、ミラは頭を下げる。深く深く。


「ごめんなさい」


 謙虚さではない。ただただお人好しなのだ。


 鏡の街にはいたるところに鏡がある。


 強面の男性が去った後、鏡がミラの姿を映す。道ゆく人にはミラの姿はまさにその特徴のない青年のそれにしか見えない。


 だが、その青年が鏡越しに見た自らの姿は、まるで違うものであった。


 異形の何か。四足歩行の怪物を子供が真っ赤な粘土でへたくそにペタペタと創ったかのような歪な形をしたそいつが、その鏡の中、蠢いている。


「君はだぁれ? あ、僕もか」


 ミラはそう口にした。


 空が青く、ミラは嬉しくなった。


 不思議なそのミラという名の青年は、ただただその鏡の国を歩く。


 ミラは自らの記憶がない。自らが何者なのかすら分からない。


 分かっていることとして、自らは今、工場の作業員として働いているということだ。


 ミラは学校も出ており、多少の学はある。だがミラは分からない。自らが何者なのか。身寄りもいない。何故か持っていった、1DKトイレお風呂一緒のぼろ家に住んでいる。


 ミラはずっとずっと、自らが何者なのかが分からなかった。


 分かっていることとして、自らの名前はミラ。鏡を見ると化け物に映るが、他の人々にその化け物は見えていないようだ。そして、どうやら優しい性分らしい。優しいと言えば聞こえは良いが、他人との衝突が恐く、ペコペコしているような感じ。だから、優しいのではなく、臆病なだけなのかも知れないとミラは思う。そんなミラは、鏡の国を歩く。


「君はだぁれ?」


 ミラは鏡に映る怪物に対してそう問うた。その怪物は何も返答しなかった。


「はは」

 

 ミラは笑った。




 

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