第十九話:少女
朝、アリシアは目覚めた。昨晩のイライラは一晩寝たことで、だいぶ収まっていた。
スキルの練習を頑張りすぎたヴァンは、死んだように寝ている。アリシアは朝食として運ばれてきたサンドイッチを食す。
「そろそろ起きなさい」
アリシアはヴァンにそう声をかけ、ヴァンは寝ぼけ眼でサンドイッチを食べる。
「もう怒ってないの?」
ヴァンの問いにアリシアは、「内緒」と口にした。そんな朝を終え、ヴァンとアリシアは勇者ランクを上げるために外に出た。
「今日は有意義なミッションをしないと」
ヴァンはそう口にし、ミッションが記される巻物をスクロールしながら歩く。
「ん?」
ヴァンは振り返った。
「どうしたの?」
「泣いてる子の声がする」
「なによその能力。あたしは聞こえなかったわよ」
ヴァンが来た道を戻るように歩く。確かに路地裏の端で、一人の少女がうずくまって泣いていた。
"本当にいるんだ、泣いてる子"
アリシアはそう思った。
白いワンピースを着て、金髪を腰くらいの長さまで伸ばした少女だ。
「どうしたんだい?」
ヴァンはそう声をかけた。
「お人形がなくなっちゃったの」
アリシアはため息をついた。
「お人形くらい、新しいのお父さんに買ってもらいなさい」
アリシアよりもさらに3〜4歳ほど幼く見える少女に対して、アリシアはそう告げる。だが、ヴァンは首を横に振る。
「泣いてる子を無視できない」
アリシアはため息をついた。
「はいはい、勝手にすれば。でもさっさと終わらせて、ちゃんとしたミッションをしなさいよ」
「分かった!!!!」
ヴァンは元気よく返事する。
「お人形はどこでなくしちゃったの?」
ヴァンの問いかけに少女は首をかしげる。
「んーー、たぶん森の洋館だと思う」
少女のその発言を聞いたアリシアは、口角を少し上げた。
"あら?”
「森の洋館にいる友達と遊んだんだけど、その時に落としちゃったんだと思う」
"あららららららららら"
アリシアは笑う。
"こりゃあ、面白くなりそうね"
「なら俺達と、森の洋館まで探しに行こう」
アリシアは思う。
"ヴァンは気づいていないのね、きゃははははは"
少女の泣いていたらしい目はらんらんと輝き、とても嬉しそうな表情を作っていた。アリシアとヴァンと少女は、森の中を歩く。
「シャララララララ」
魔族トカゲが樹の影から現れて、ヴァンに噛みつこうとした。
「スキル"焔の心"!!!!」
ヴァンが黒炎をまとう拳で魔族トカゲの頬を殴った。そして魔族トカゲは、尻尾をまいて逃げ出した。
「すごいねぇ、お兄ちゃん」
少女は苦々しい顔でそう口にする。
「へへ、そうだろ」
ヴァンは少女の不思議な表情に気づいていないようで、ただただ鼻が高そう。
"こいつ、やっぱり気づかないんだろうなぁ。数多の魔物が生息するこの森の奥にある洋館に遊びに行ったとこの少女が口にする、異様さに"
アリシアはその言葉を口に出さないまま、先に進む。
「君、名前はなんていうの?」
「ルーミー、7歳です」
ルーミーはそう自分の名前を口にする。森の洋館に近付くにつれて木々が空を覆い、木漏れ日すらほとんど入ってこなくなった。
「ルーミーちゃん、魔物がいっぱいいる森の奥の洋館まで遊びに行ったら、危ないよ!!!!」
ヴァンは少しきつめにルーミーに対してそう告げる。
"惜しい。もう少し掘り下げて考えて"
アリシアはそう思うが、ヴァンにはそれ以上の深掘り考察は不可能だった。そして何度も魔族トカゲのような下級の魔物の襲撃をやり過ごし、目的地にたどり着いた。
一層付近は暗くなり、もはや夜になったのかと思うほどの明るさの中、二階建ての厳かな洋館が建っている。窓が一階二階それぞれに十個ずつ存在しているが、そのどれもに光は灯っていなかった。
"きゃはははははははははははは、面白そうね"
アリシアは心の中で笑う。
「あ、雨か?」
ヴァンの頭に雨粒が落ちた。そして徐々にそれが、量を増してきた。木々で遮られて見えない空は、あまり良い天気ではないようだ。
「入ろう」
ヴァンがそう言い、洋館の扉をノックする。
「すいませーん、誰かいませんか〜」
洋館の中から、返答はない。ルーミーが洋館の扉を開き、その中に足を踏み入れた。




