第二百三話:いい判断
数日後、ヴァン達はDランク勇者になった。バグという強敵を倒した以上、当然ではあるが、やはりランクが上がるというのは嬉しいものであった。
ヴァン達は喜んだ。
「これからもせいぜい頑張りなさい」
アリシアがそう告げる。
「押忍‼‼‼‼」
ヴァン達は喜びながらも、気を引き締める。
ヴァン達は道を歩く。
そんなヴァン達を見る多数の視線。それは、羨望のまなざしであった。
「ありがとう、勇者さん達」
その言葉にもヴァン達は喜ぶ。
「Dランク勇者か~」
サキがそう口にする。かなり紆余曲折あったこのエルフの国で、成すべきことを成せた達成感を味わう一同であった。
だが実は、"バグを倒した"というニュースは、この世から消え去っていた。
この国にとある存在が現れたのだ。Sランク勇者である、ドドラガだ。
年齢は四十代くらい。真っ白な髪と髭をまるでライオンのようにその顔にまとう銀色の鎧姿の男。勇者協会のトップであるそいつは、勇者の街でヴァン達にGランクからFランクに上がる際の認定証を渡した存在。
その存在が、王の部屋、元々はヤガラガラがずっと居たその場所で、エリーラとエギラガと対峙する。
Sランク勇者であるドドラガが王になって最初の外交の相手とは、エリーラとエギラガも運がない。2人はとても緊張していた。ドドラガが強面のその顔で、エギラガとエリーラを見る。
「バグを倒してくれてありがとう」
「ヴァン様達が協力してくれたからです」
エリーラは首を横に振る。
「わっはっは、流石だな、リンライを倒した勇者よ」
勇者の街でのことをドドラガがヴァン達に告げる。
「ところで、どうされたのだ? 勇者協会のトップがこんな辺鄙な場所まで」
エギラガがドドラガにそう問うた。
「バグの件について話がしたく、ここに来た。奴が復活していた事実を、この国の中でとどめておけないかと思ってな」
「どういうことでしょう?」
エリーラが首をかしげる。
「わっはっは、バグは恐怖の象徴だ。そのバグが復活していたというニュースは、この世界に住む全ての存在に恐怖を与える。だからこそ、奴が復活していたというニュースを闇に葬りたいのだ」
エギラガが言葉を発する。
「この国的には大丈夫だが、それは、そこの馬鹿そうな勇者次第だろう」
エギラガはヴァンを見た。
「なんで俺? 俺はどっちでもいいけど」
ヴァンはあまり理解できていない。
「バグを倒したなんて、世界的なニュースだよ? つまり、そのニュースが消えなかった場合、ヴァン君は世界的に有名な存在になれるってことだよ」
サキの言葉に対して、ヴァンは笑う。
「俺はどっちでもいいよ。別に有名になりたくて勇者をやってるわけじゃないから」
サキも笑った。
「さすが、うちらのリーダーだ」
「俺は、この世界が良くなる選択肢ならどっちでも大丈夫だよ」
ヴァンは、ドドラガに向けてそう断言した。
「わっはっは、ありがとう。ならば、バグが復活したという事実は隠させてもらおう」
だが、ドドラガのその発言は、少し不思議ではある。
バグは確実に倒したはずだ。奴は眠り、何もなければ数百年は目覚めないというのは、倒したと言って差し支えない。そのバグを倒したという輝かしいニュースを隠そうとする理由が、サキには分からなかった。
「わっはっは、精進してくれたまえ、とてもとても優秀な勇者諸君」
ドドラガはそう言い残して、去っていった。
アリシアがドドラガが去ったのち、ヴァン達の前に現れる。
アリシアは勇者協会のトップであるドドラガの前に、おめおめと姿を現したくなかった。だから、ドドラガが来ていた間、カフェでコーヒーを飲んで時間をつぶしていたのだ。
「きゃはははは、バグが復活したことそのものを隠すのね」
アリシアは不思議なドドラガのその決断を聞き、思う。
"いい判断ね"
それが、アリシアの感想。
アリシア的にはドドラガはその選択を取るのが最適だろうと思っていた。
だから、アリシアは心の中でドドラガを褒める。
"さすがにやるわね、勇者のトップ"
そんな、アリシアだった。
そして時間は進み、夕暮れになる。バグを倒した数日後のことだった。
徐々に徐々にエルフの国はバグという嵐が来た記憶が薄れ、平穏を取り戻し始めていた。王としてあわただしくしていたエリーラとエギラガも、徐々に徐々に落ち着きを取り戻していた。




