第百九十話:バグ vs ヴァン達
大きな巨穴の最下層。バグが数百メートル程も落ちてたどり着いた、太陽の光も届かないその場所で、バグは付近を見る。
ごつごつとした岩の地面を直径数百メートルほどの広さの岩壁が囲うその場所。壁にはいたるところに真っ青に燃えるあまりに明るい松明が灯り、太陽の光が届かなくとも薄暗くはない。
その場所で、バグは空を見る。バグはただただ、アリシアを食べてみたかった。
バグは不思議と満足感があった。この場所も先ほどアリシアと戦っていた時同様、付近に魔力が溢れており、腹は満ち続ける。ヤガラガラが自らの役割である、この"深淵の巨穴"の中に神樹から魔力を供給させるというということをしっかり実施しているからこその現状だ。
だが、バグはアリシアを食べたい。だからこそ、バグは空に向けて跳躍しようとした。
「スキル"圧倒的な正義感"」
「スキル"極・斬撃"」
その言葉がバグの耳に響いた。
そして、二つの斬撃がバグを襲う。
真正面からバグの方に向かうその二つの剣を、バグは自らの身体で受けた。
そのヴァンとエギラガの攻撃を真正面から受けたバグだが、特に斬られた様相もなく、ただただヴァンとエギラガを見ていた。
バグは、エギラガとヴァンを一瞥し、首をぽきぽきと鳴らした後、改めて空を見た。
ヴァン達にとって酷なことではあるが、正直バグはヴァン達に興味がなかった。
バグは、アリシアをただただ食べたく、空を見る。
そのバグの元に、声が響く。
「スキル"焔の心"」
バグの真っ黒な身体に真っ黒な炎が灯った。
正直、バグ的には勘弁してほしかった。
バグはヴァン達に対して興味もないのだ。
バグはただただアリシアを食べたいだけ。
バグの身体に灯ったその黒炎も、しばらくした後、バグに食べられることで消え去った。
「こいつ、やっぱり凄まじく強いな」
ヴァンがそう口にする。
バグは本能的に考える。ヴァン達を食べたいかどうかということを。
結論として大して食べたくもないのだが、目の前に存在しているラズベリーの実を口にいれてもいいかなという気分のバグ。ちなみにアリシアは、バグにとっては超高級ステーキのような存在。
バグはステーキの前にラズベリーを口に入れようと決めた。
「ぎゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」
バグはヴァン達を見る。
バグの純粋なる殺気。ただただヴァン達を食したいというその思いが、ヴァン達の元に届いた。
ヴァン達は不思議なその殺気をしかと察知し、息を飲む。
巨大なライオンを前にしたウサギの気分と言えば、ヴァン達の今の心情を適切に表現できるだろう。
バグは、ただただヴァンの方に向かう。
「使いましょう、お父様から許可を得たあのスキルを」
エリーラの宣言に、ヴァン、レイラ、エギラガ、エリーラ、サキは地面に手を当てた。そして皆、言葉を発する。
「スキル"神樹の導き"‼‼‼‼」
それは、ピエロットが第四の試練で使用していたスキル。ヤガラガラの許可を得た者が使えるようになり、神樹から力を得て自らのスキル等を強化できるというそのスキルを、ヴァン達は使用した。
「ぎゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」
バグは少しだけ喜んだ。目の前の味気ないラズベリーの実が、ヨーグルトにディップされたかのような素敵な感覚。
バグは嬉しい。
「スキル"圧倒的な正義感"」
「スキル"極・斬撃"」
それらの攻撃を先ほどバグは、身体で受けた。身体で受けても、どうってことはなかった。
しかし今、一応バグはその二つの攻撃をかわすように動いた。
バグは生物である。当然痛いのは嫌だ。別に受けてもいいが、不快感があるため、バグはそのヴァン達の攻撃から距離を取ったのだ。
「畳みかけろ‼‼‼‼」
ヴァンは"神樹の導き"を使用したうえで、今までよりもはるかに光をまとったその剣で、バグに向かう。
バグが攻撃を避けたことで、いけると判断したヴァン。
だが、事実として、全くとしていけることはなかった。
バグが真っ赤な口がいたるところに存在している影をヴァンの方向に向かわせた。
その影の前に、レイラがタンクとして立ちふさがる。
「その影にあたらないで‼‼‼‼」
この戦いの中で唯一役割のない存在であるルゥが、レイラに向かって叫んだ。




