第百八十二話:やってくる災厄
ヴァン達は何も理解できていない。
「あんたら、バグって聞いたことある?」
ヴァンとレイラ以外は頷いた。
「はるか昔、ジャバラ様が封印した怪物だよね」
サキの発言にピエロットが頷く。
「ふっふっふ、その通り。そいつが今、復活しております」
ピエロットの発言にヴァンとレイラ以外の者達は深刻な顔をした。
「それって、かなりやばいんじゃ…………」
「ええ、そうですね。過去数百年前に奴が暴れた時、世界はかつてないほどの被害を受け、壊滅状態に陥りました。そんな存在の復活が、やばくないわけないですよね。
さらに、もう一つやばい事実を伝えるとすると、そいつはもうすぐこのエルフの国に到達します」
ピエロットの断言にヴァンが叫ぶ。
「そいつから、この国を守ろう‼‼‼‼」
「ええ、そのつもりです。僕もヤガラガラ様もね」
ピエロットが仰々しくそう告げる。
「てことは、ピエロットさんはこの国を崩壊させようと思って活動されていたわけじゃないってことですよね?」
「はい、そうですね。この国にバグが来ることは、かなり前から決まっておりました。とある筋からの話でね」
ピエロットがそこまで言った折、この場所に新たな足音が響いてきた。
「うふふ、私の能力です」
目隠しした黒服の聖女のような姿をしたルゥが、この場に現れた。
「君は、運命を読むことのできる……」
ヴァンの言葉にルゥは微笑む。
「ええ、私の能力で、バグがこの国に来ることは遥か昔より分かっていたのです。だからヤガラガラ様にそのことを伝え、ヤガラガラ様の指示で、ピエロット様は表向きはこのエルフの国から離れ、影で任務を進めていたのです」
「てことは、君が見た運命の通りにピエロットはこのダンジョンを創り、そこでうちらを試した。そして今までの四つの試練でうちらは"恐怖"にも"己れ"にも"幸せ"にも打ち勝ち、さらに仲間の大切さを理解した。そのうちらがバグと戦えば、あなたが見た運命的に、バグを倒すことができるってことだよね」
ルゥはサキに対して微笑む。
「二つ間違えております。まずここを創られたのは、ヤガラガラ様の"大地創成"のスキルです。"大地創成"のスキルで創られたこの場所を、ピエロット様が管理されているという構図です。
そして、もう一つの間違いですが、私の能力で運命は見ており、この試練をヴァン様達が突破した折、バグ討伐のパーティーに加わってもらうのが最適な選択となっております。ですが、その状態のヴァン様達がバグと戦って、勝てるという確証はないのです」
ルゥが少しだけ間を開けて、再度言葉を発した。
「こんなことは過去になかったのですが、運命が途切れているのです。あと数日後にバグと皆様が戦うというところまで運命に描かれておりますが、その先はまるで道がないかのように、運命が読めないのです」
ルゥは深刻そうな顔でそう告げる。だがヴァンは、凛々しい顔をした。
「運命が読めようが読めなかろうが、やることは変わらないでしょ。俺達はバグと戦い、勝たなければならないんだから」
「ふふ、そうですね」
ルゥは笑う。だがルゥは、一つ嘘をついている。先ほど”運命が途切れている"と告げたがそんなことはなく、ルゥが見た運命では普通にヴァン達は負ける。そしてバグは神樹を喰らう。そんな運命を、ルゥは見ていた。
しかしそのことを決して口にはしない。ルゥはただただ運命の指示を全うする。
「最後のダンジョンである"深淵の巨穴"は、俺達を本気にさせるための飾りだったってことか?」
エギラガの問いにピエロットが首を横に振る。
「違います。あそこは戦闘場です。僕達とバグが戦うね」
「本当に全て、バグを倒すために用意されてたってことなんだな」
「ふっふっふ、そうです。はるか昔から、バグを倒すことをこの国は目指していたんです。陰ながらね」
「なぜ、それを隠す?」
「もしエギラガ様が過去世界を壊滅させかけた怪物が復活すると言われ、どう感じますか? おそらくとても恐ろしく感じるでしょう。大衆がもしもその恐怖を感じた時、きっと大混乱が起こる。だからこそ、奴が復活するという事実は秘密にされていたんです」
「きゃははははは、一応だけど、あたしもバグとやるから」
アリシアの宣言。
「僕も、ヤガラガラ様もですね。ですが、過去バグを封印してくださったジャバラ様は、今回戦いには参加できないのです」
ピエロットのその発言にヴァン達の顔はほころんだ。ジャバラが来れないとしても、ヴァン達にとってアリシアと共闘するというのは、かなり心強かった。




