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第百七十二話:ヴァンVSエギラガ

 翌日、森の中の開けた場所で剣を振る存在がいる。高速で剣を振る凛々しい男。その剣技は美しかった。


「幸せに心惑わされるなんて、王になる者として許されることではありません。もっと強くならねば」


 エギラガの眼光は鋭かった。そんな横でエギラガを見る漢一体。


「なぁ、虫捕りに行かないか?」


 ヴァンは尋ねる。


「行きません」


 エギラガの断言。


「お前、根詰めすぎだよ。たまには息抜きしようぜ」


 エギラガは首を横に振る。


「息抜きなんてする暇はありません。僕は立派な王にならねばならないのですから」


「ならさ、こうしよう。俺と試合して、俺が勝ったら虫捕りに行こう」


「ほう?」


 エギラガは始めて剣を振る手を止めた。


「それは面白そうですね」


 エギラガはその剣をヴァンに向けた。


「受けて立ちましょう。ただし、僕が勝ったら二度と僕を虫捕りに誘わないでいただきましょう」


「OK」


 ヴァンとエギラガの戦いが決定した。



 アリシア達は不在。サキ、レイラ、エリーラにアリシアが神樹の中の修練の間で修行をつけている間のことだったのだ。ヴァンは朝錬をし、朝錬が終わったから今この場所に立っている。


「いきますよ」


 二人しかいないこの場所で、エギラガがそう宣言した。


「おうよ、正々堂々とな。スキル"圧倒的な正義感」


 ヴァンが正義の剣をエギラガに向ける。


「スキル"極・斬撃"‼‼‼‼」


 エギラガが振った剣から斬撃の衝撃波がヴァンに飛ぶ。


 ヴァンはそれを正義の盾で防ぐ。


 ヴァンの手に圧倒的な衝撃波が加わる。


「やっぱり強いな」


 ヴァンはエギラガを見るが、エギラガはそこにいなかった。ヴァンが自らの手に持つ盾に視線をやってしまった瞬間にエギラガはすでに別の場所、すなわちヴァンの後ろにいて、その剣をヴァンに向けて振っていた。


「終わりです」


 エギラガの剣技がヴァンの胴体に届きそうな折、ヴァンが口を開いた。


「スキル"速度6倍"」


 ヴァンはそのスキルで速度を上げ、何とかぎりぎりエギラガの剣技を躱した。


 ヴァンは多少息抜きもしているが、それ以上に修行をしていた。だからこそ、ヴァンの"速度〇倍"のスキルも楽しみの国よりも速くなっていた。


 ヴァンがしゃがむようにエギラガの剣技を避けたことで、エギラガの剣技はヴァンの頭の上を横一文字に通過していった。


 ヴァンの髪が数本エギラガの剣により斬られた。


 ヴァンはしゃがんだ状態でエギラガを見る。


 エギラガはヴァンを見下ろしていた。


 エギラガがヴァンに向けて剣を振り下ろした。


 ヴァンが正義の剣で迎撃する。


 ヴァンの剣とエギラガの剣がぶつかった。


「はは、振り下ろす剣と振り上げる剣は、どっちが強いと思いますか?」


 答えは簡単で、重力のある分、上からの剣の方が強いに決まっている。


「負けねぇ」


 ヴァンの断言。


「負けねぇで勝てるんなら苦労しないんですよ」


 エギラガは笑う。


「スキル"焔の心"」


 ヴァンの手に黒炎がまとわれた。そしてその黒炎は正義の剣にも蔓延し、正義の剣は燃えながら輝く凛々しい剣となった。


 それを確認したエギラガはとっさに後ろに下がった。


「きゃはははは、やるじゃん」


 アリシアが木の上からその戦いを見ていた。


 ヴァンとエギラガの戦闘が始まったことを察知したアリシアは、サキ達には自主練させ、自らはその戦いを見に来ていた。


 エギラガはヴァンの"焔の心"による黒炎を察知し、そして逃げた。それは良い判断だ。ヴァンの"焔の心"は元々アリシアが持っていた上級スキル。その黒炎は全てを燃やし尽くす劫火で、エギラガの剣すら燃やせる代物である。


 だからこそエギラガがその黒炎のやばさを察知して逃げたのを、アリシアが褒めたのだ。


「やはり、魔帝八中将を倒しただけのことはありますね」


 エギラガもヴァンを褒める。


「スキル"極・斬撃"」


 エギラガは遠くからそのスキルで斬撃を飛ばす。ヴァンはそれを正義の盾で先ほどと同じように防御した。斜めに振ったその剣になぞられるように飛ぶその斬撃。


 ヴァンは防ぐが、正義の盾で防御したとしても、圧倒的な衝撃波が伝わる。


 エギラガがヴァンの前に立った。そしてそのまま再度、言葉を発する。


「スキル"極・斬撃"」

 

 エギラガはそう口にし、後ろから前に突き出すようにその剣を向けた。ただでさえ一つ前の斬撃を処理しきれていないヴァンの正義の盾に、さらなる衝撃が加わった。


 エギラガは真正面から、ヴァンの正義の盾を打ち破る心づもりだった。

 


 

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