第十一話:勇者
「それでは、勇者になった君達に勇者のことについて説明しよう」
ヴァンはメモ帳と鉛筆を手に持ち、目をらんらんと光らせる。
「先生、質問です!!!!」
ヴァンが手を上げ、リンライは話の腰を折られた。
「なんだい?」
「魔王を倒すには、どうすればいいんですか?」
リンライは頭をかいた。
「勇者になったばかりの君がそれを考えるのは、時期尚早というものだよ」
ヴァンは大きく頷いた。
「分かりました!!」
「それでは、話の腰を折られてしまったが……」
「先生、質問です!!」
ヴァンが手を上げた。
リンライはイラっとした
「なんだろうか?」
「勇者に最も必要なことって、何ですか?」
「それは後で教えてあげる」
「分かりました!!!!」
ヴァンの目は相変わらずらんらんで、とても楽しそう。
「はい、では……」
「先生、質問です!!!!」
「えーー、諸君。先ほど筆記試験の際に使用した僕のスキル"通信不可"。このスキルを受けた者は他の存在を見ることも言葉を聞くこともできなくなる」
リンライは目を閉じた状態でそう告げる。
「普通は敵に使うこの能力を、初めて自分に使った。今の僕には君達の言葉は届かない。でも、僕の声は聞こえるだろう? だから僕の言葉を聞いてくれ。質問を受けつけられる状態でないことも、理解してくれ」
ヴァンががっかりした表情を作った。
「さて、やっとゆっくり話せる。これ、便利なスキルだね」
リンライがしみじみとそう告げた。
「勇者にとって一番大切なものは、勇気だ。きっと君達は、常人であれば心折れてしまうような困難にぶち当たるだろう。だが、君達は勇気を持って進まねばならない。君達勇者は、困っている人々を救うという使命を持っているのだからね」
ヴァンはその言葉を一言一句メモに取る。アリシアは観客席で思う。"悪い奴ではないんだけど、そのガッツが絶望的なまでに滑稽に見えちゃうタイプなのよね~"
「君達新米勇者は皆、ランクGからスタートする。そして、勇者ポイントというものを獲得することで、勇者ランクは上がっていく。勇者ポイントの獲得方法だが、今から周りの者が配るであろうそれを手に取ってくれ」
リンライの言葉の通り、勇者全員に巻物が手渡された。ヴァンはそれをくるくると開く。
「その巻物、文字が浮かび上がるだろう?」
〈ミッション名〉
荷物を隣町まで運ぶ護衛をしてください。
〈依頼者氏名/場所〉
ミートレット / 勇者の街の端
〈報酬〉
1,000ゼニー / 500勇者ポイント
そんな言葉が書かれている。ヴァンはごくりと唾をのんだ。1,000ゼニーという言葉に反応してしまったのだ。
「その巻物に指をあてて右に動かすと、他のミッションが現れる。左に動かすと元のミッションに戻る。指をあてた状態のまま動かさないと、依頼者のいる場所が地図付きで現れる。そしてミッションを達成すると勇者ポイントが獲得でき、一定まで貯めると次の勇者ランクに上がれる。そして、その巻物に指をあてて下にスライドしてくれ」
ヴァンは言われた通りにする。そしてそこに現れた文言を読んでみる。
〈討伐対象〉
魔族トカゲ ベルナーガ
〈生息場所(推測)〉
薄暗い森
〈報酬〉
3,000ゼニー/1,500勇者ポイント
「そこに記されている討伐対象を倒すことでも、勇者ポイントを獲得できる。さっき説明したミッションと同じ要領でスライドすれば、別の討伐対象を確認できる。だけど、地図はざっくりとした予測地しか表示されない」
「報酬が高額な討伐対象ほど、危険度が高いってことだろうな」
先程ヴァンと戦ったシュガルデが良いことを言ったが、ヴァンのせいでその言葉はリンライに届かない。
「さて、君達は明日付けで正式に勇者になる。明日からその巻物で、存分にミッションやら討伐やらを頑張ってくれ。そして最後に」
ヴァン達の元に服が届けられた。
「それ、大きさはあってると思う。スキルにより君達のサイズを確認して、適するサイズのものを渡してるから」
リンライは自信ありげにそう告げる。
「その服は、勇者の初期装備。かなり軽いけど、とっても頑丈だ。それを絶対着ろってわけじゃないんだけど、着ておくと無難だと思うよ。特に装備の揃っていない勇者になりたての頃はね」
リンライはそう言って、"通信不可"のスキルを解除した。その目に、リンライの方を凛々しく見る勇者達が映った。