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第百二十七話:辛い過去

 アリシアがジジジジの目を見る。


「こいつの言葉、心に響いたでしょ」


 ジジジジは悔しそうな顔をした。


「なんでこんな、ぬくぬくとした人生を歩んできた奴の言葉が心に響いちまうんだよ……」


 ジジジジは極限状態。アリシアに対して敬語を使う余裕すらなかった。


 アリシアは壁に腰かけるように座っているジジジジの、その横に腰かけた。


「こいつはさ、決してぬくぬくの人生なんて歩んでないわよ」


 アリシアが倒れたヴァンを見る。


「こいつの故郷は、こいつが子供だった頃にニーズランドに滅ぼされる。家族もろともね。終わった街って知ってるでしょ?


 ヴァンはその街の唯一の生き残り。誰も助けに来ないその場所で、十数年一人で生きていかざるを得なかった。


 だからヴァンは、決してあんたの言うようなぬくぬくの人生なんて送っていない。あんたと同等クラスに辛い人生を歩んできたはず。だから、ヴァンの言葉はあんたに響くのよ」


 アリシアの言葉にジジジジはうなだれた。


「なんでこいつは、そんな過去を持ってるのに……」


「こいつが異常なのよ」


 アリシアは断言した。


「あんたとかヴァンみたいに辛い過去を味わったら、道を誤ってしまうのも分かる。人間として肯定されるべきことではないんでしょうけど、あんたが道を誤ったのは、決してあんただけの責任でもない。


 でもヴァンは、あんたと同等クラスに辛い過去を持ってしても、道を誤らなかったの。別にヴァンみたいになれって言ってるんじゃない。普通なれないし。


 でもあんたは覚えておきなさい。ヴァンみたいなやつもいるんだってことを。でもさこいつ、めっっっっっっちゃ馬鹿なのよ、きゃははははははははは」


 アリシアがそう笑う。


 ジジジジはヴァンを見る。ジジジジはヴァンが、とてもとても羨ましかった。


「僕も、ヴァンみたいになりたかったな」


「なれるわよ、きっと」


 アリシアは静かにそう告げた。


 そのアリシアとジジジジの前に、サキ、ブードラ、ディージェ、レイラ、ぺロム、バランが立った。


「きゃはははは、復活したのね」


 アリシアがそのみんなを見て笑う。


「すまなかったな」


 ジジジジがブードラを見て、なんとか動く頭を下げた。


「謝る相手がちげぇよ。お前はこの国をめちゃくちゃにしたんだ。俺じゃなくて、民に謝れ」


 ブードラは言葉を続ける。


「だが、俺個人としては一発殴らせろ。それでチャラにしてやる」


 ジジジジが言葉を発す。


「一発と言わず、ぼこぼこにしてくれ。お前ら全員、僕に怒ってるだろ」


 ブードラ、ぺロム、ディージェというこの国の大人勢がその拳を固めた。


 そしてまずブードラからの殴り。


 その拳はとても優しく、ジジジジの頬を撫でた。それはきっと、蟻すら殺せないパンチ。ディージェ、ぺロムも同じように、パンチとも言えない何かでジジジジを殴った。


「これで勘弁してやるよ」


 そんなブードラの断言だった。


「お優しいこって」


 ジジジジはそう口にしてから、再度言葉を続ける。


「お優しいてめぇらに頼みたいことがある。ヴァンや他の奴らを連れて、僕から離れてくれ」


「なんで?」


 サキが問うた。


「僕は魔族に加担することになった際に、ニーズランドっていう魔帝八中将から呪いを受けている。それは"限られた命の輝き"っていうスキルによる呪い。そのスキルはトリガーが切られてから三十分後に僕の体を爆発させるっていうものだ。


 今そのトリガーが作動したのが分かった。僕が役割を全うできなかったことが、ニーズランドに察知されたんだろう。だから僕は、後三十分後に爆発する」


 そのジジジジの発言は、確かなる事実であった。ジジジジは自らが爆発することを隠して、ヴァンもろともその爆炎に巻き込むということもできた。昔のジジジジなら、間違いなくその選択を取っていただろう。だがジジジジは、正直に爆発することを告げ、ヴァン達を巻き込まないことを選択した。


「だから、行ってくれ。本当にすまなかった」


 ジジジジは頭を下げる。不思議とジジジジは清々しい気持ちだった。ジジジジはヴァンを見る。


"最後にてめぇに会えて良かった"


 ジジジジは体力が完全に0になり動かないヴァンを見て、そう思った。


「おい、ふざけんな‼‼‼‼‼‼ てめぇにはこの国の法にのっとり、罪を償ってもらわなきゃならねぇんだ」


 ブードラがジジジジに向かって叫ぶ。


「しょうがねぇだろ? 心からすまなかったと思ってる。僕だって、贅沢な願いだが、やってしまったことの罪をしっかりと償いそして、心から謝罪したいんだ」


 だがジジジジの願いは叶わないらしい。


「あ、あの~~~~」


 サキがジジジジの前に立って、何かを言いたそうな様相でモジモジしていた。

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