第百三話:その日
ヴァンのように反乱してないサキは地下で、日夜作業に従事する。
「熱い」
サキは炉の近くで作業させれられる。鉄を溶かし、その鉄により刃やら鎧やらを作らされるサキ及びその他の捕らえられている人間達。
少しでも休めば鞭が飛んでくる状況。サキは他の捕らえられている人間に聞いて、ここでスキルを使用すると"スキル検知"により検知され、そして懲罰房に連れていかれることを知っていた。だからこそ弱っている人がいても、唇を噛んで、治療しなかった。
"絶対全部終わったら治療してあげるからね”
心の中でそう思うサキは、周りのフラフラの人間達と共に、武器を作らされていた。
「これ、なんのために作ってるんだろう?」
サキが小声で、横で作業している人間に尋ねた。
「なんでも戦争に使用するらしいよ。ここで武器を作って、その武器でよその国を襲う算段らしい」
「なるほど……」
サキが静かにそう告げた。早く国王の姿をした何かを止めなければ、やはりとんでもないことになるのが改めて分かった。
"絶対に国王の姿をした何かを倒そう"
サキは静かにそう決意する。サキもヴァン程ではないがかなり質素な生活を強いられており、水のようなスープ、採られてからかなりの年月が経過して黒ずんだ野菜をいためたもの、パン、という質素を通り越して悲しくなる料理が朝と晩のみ欠けた茶碗で出される。
そんな苦しい生活だが、サキも何とか日々を過ごした。お風呂も週に一回しか入れないらしいその生活は女性のサキには大変しんどかったが、それでも来たる七日後を目標に、日々淡々とその生をつないだ。
そんな苦しい日々。サキにとってもヴァンにとっても本当に本当にしんどい一週間を経て、そしてとうとうその日は訪れた。
国王の姿をした何かと対峙するという、本来恐ろしい日。だが二人は少し、この日が待ち遠しかった。サキは朝からいつも通り作業を開始した。国王の姿をした何かが来るまでに動き出すことはできず、黙って作業を行う。
そんなサキから少し離れた場所で、とある男性が歩いているのがサキの目についた。赤い長髪のイケメンだ。
"来た"
サキはそう思った。その場所に姿を現した国王の姿をした何かの元に、兵士達が集まる。
「よくお越しくださいました、ドレラナーガ様」
兵士達がまるで接待するかのように、国王の姿をした何かの前で媚びへつらう。
"ヴァン君、来たよ"
サキは心の中で静かにそう思った。
そしてヴァンもその瞬間を感じていた。ヴァンは日が入らずもちろん時計もないその牢獄で、毎朝パンと水が届けられるのをカウントし、経過日数を数えていた。そして七日後、ヴァンは感じた。
"兵士が見回りに来なくなった"
その事実によりヴァンは、待ち望んだその時が訪れたことを理解した。
"来たよ"
ヴァンは頭の中からディージェに向かってそう合図を送る。
"OK、ブラザー。こっちも用意できてるぜ。
バランボーイのスキル"テレポート"で俺達は全員、今からそっちに瞬間移動するぜメン。だが、まだバランボーイのスキルにはムラがあって、移動する場所は完全にコントロールできない。しかも移動するのに時間もかかる。
だから頼む。どこに移動してもいいように、その場所をかき回してくれメーーーーーン"
"OK、かき回すのは得意だ"
本来ヴァンとやり取りしているのはディージェだけのはずだが、ディージェの横に立っていたアリシアがつぶやく。
「ええ、かき回すことに関しては天才的だものね」
そんなアリシアの独り言であった。
「よし、やるか」
ヴァンはそう宣言した。
「スキル"焔の心"」
ヴァンがそう口にした瞬間、異様な音が響いた。"ウーーーウーーー"というサイレンのような音。きっと"スキル検知"のスキルによりヴァンがスキルを使用したことが敵側に検知されたのだろう。
そんなこと関係ないと言わんばかりに、ヴァンは自らの牢屋の鉄格子をスキル"焔の心"により溶かした。
そして牢屋の外に出たヴァンは、さらに告げる。
「スキル"速度5倍"」
そのスキルによりヴァンは速度を上げ、たくさん存在している牢屋の鉄格子を片っ端から溶かし始めた。
閉じ込められていた者達がぞろぞろと外に出てきて、そんな者達に向かってヴァンが叫ぶ。
「俺は今から国王であるドレラナーガを倒し、この場所をぶっ壊す。協力できる人は協力してくれ」
そう言って走り出すヴァン。
「ははは、面白れぇじゃねぇか」
ヴァンの様を見たナハランが、そう笑った。




