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第百一話:予定調和

 ヴァンとサキは薄暗い路地裏を歩く。


「きびきび歩け、借金を返さないゴミどもが」


 頭まで鎧を身につけた兵士がヴァンとサキの首に鎖をつけ、歩かせる。


 路地裏の奥に"立ち入り禁止"の看板があり、ヴァンとサキを連れているのとは別の兵士が見張りとして立っていた。"立ち入り禁止"の看板を無視して兵士がヴァンとサキをその先へ歩かせる。その看板の先には地下に続く階段があり、ヴァンとサキは戦々恐々としながらその階段を降りる。


 そしてろうそくで照らされる薄暗い地下に到達したヴァンとサキは、異様な光景を見た。


 鞭を持った兵士が働いている者達をその鞭で打ちながら、作業をさせている。鉄を鍛冶の要領で打ち、剣やら鎧やらを作っている者達がいる。数多の作業者の顔はやせこけ、良い食事を与えられていなさそうだ。作業者の手が少しでも止まるようなら、容赦なく鞭が飛んでいく。


 ヴァンはその様を見て歯をきしませる。


「ヴァン君、我慢だよ」


 サキが小声でヴァンに告げる。ヴァンも分かっている。ここで耐えなければ、全てが水の泡になってしまう。だからヴァンは、唇を噛んで耐える。その唇からは血が出ていた。




 とある成人男性、ドロドロに汚れたタンクトップかつダボダボのズボンを身につけた二十代後半位のガテン系の男性が、ヴァン達がこの場所に来てそうそういきり立った。


「いい加減にしろ‼‼ 俺達は人間なんだ‼‼」


 そして続け様に言葉を発す。


「こんな場所、ぶっ壊してやる。スキル"攻撃力2倍"」


 そう告げた男性の筋肉が肥大化していった。だが、付近にいた兵士がその男性をあざ笑った。


「反乱か、愚かだな」


 兵士は手に一つの仮面を持っていた。そして首から上の鎧を外しその顔を見せた。だいたい三十歳程度、標準男性の顔がそこに存在していた。


 兵士はその顔に手をやった。その瞬間、その三十歳程度の顔が仮面となり、ポロリと剥がれた。


"あれが素顔じゃなかったの?"


 そんなサキの感想。しかしその兵士の素顔を見れることはなく、兵士が手に持っていた別の仮面を即座にその顔につけた。


 ライオンのようなたてがみを持つ獣の顔を模った仮面をそいつが顔につけた瞬間、その兵士はライオンのような様相に姿を変えた。


 サキとヴァンは仮面をつけた瞬間に姿が変化するというその光景を過去にも目撃したことがあった。ヴァンとサキがこの国に来た直後、ビラファ(元サキが属していた勇者パーティの勇者)との戦いで、ビラファが狼の仮面をかぶって狼男に変化したのと全く一緒の光景だった。


 兵士は身体全体に金色の毛を持つライオンのような獣になり、四足歩行で歩く。その元兵士が、反乱した男性に対してその牙を向ける。


"このままだとやばい"

 

 ヴァンは直感でそう感じる。だが、その男性を救うということはこの場で目立ってしまうということだ。


 元兵士である獣が、反乱した男に飛び掛かった。


「スキル"圧倒的な正義感"」


 ヴァンは堪えきれず、首についた鎖を正義の剣で斬った。そしてその勢いのまま元兵士である獣と反乱した男性の間に正義の盾をかざしながら割り込んだ。


 ヴァンの正義の盾により、元兵士である獣の牙は防がれた。


「あーーーあ、やっちゃった」


 サキが苦笑いしたが、ヴァンが動かなければその男性は死んでいた。だから、ヴァンの行為は勇者として決して恥ずべきものではないことを理解していたサキは、やれやれといった表情をして、言葉を発する。


「まぁ、やっちゃったもんは仕方ないね」


 だが、ヴァンの首には数多の槍が突き付けられていた。複数の兵士が現れており、その手に持つ槍をヴァンの喉元付近に突き付けていたのだ。少しでも兵士達がその槍を差し込めばヴァンの喉元に穴が開くという状況。


"焔の心で槍を燃やそうか"


 そう考えるヴァンの脳裏に言葉が響いてきた。


"ブラザー、やるじゃねぇか。それでこそ勇者だぜメーーーーーン。だが、それ以上暴れないほうが賢明だ。その兵士達はまだブラザーを傷つけてない。だから、いったん落ち着け"


 ディージェのスキルにより脳裏に届くその言葉に対してヴァンは頷いた。ディージェの言う通り、兵士達により槍を突き付けられている状況ではあるが、まだ突き付けられているだけでそれ以上は攻撃されていない。獣の姿になっていた兵士も、元の人間の状態に戻っている。


「お前ら、来い‼‼」


 ヴァンとその反乱した男は、ヴァンがこの場所に来て早々兵士に連れていかれ、サキが一人、その場に残された。


「まぁ、はなからヴァン君が大人しくしてくれるとは思ってないよ」


 残されたサキは予定調和と言わんばかりの余裕のある顔で、静かにそう口にした。

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