第九十八話:普通の日々
それからヴァン達は一ヶ月間、普通の日々を過ごした。
日中に勇者の本分であるミッションを行うヴァンとサキ。夕方になるとヴァンはバランに修行をつけてから、自らの修行を行う。サキは自らの修行として、怪我人、病人を治療する日々。
そんな穏やか……でもないけど、波風立たない日々が流れた。ヴァン達は一ヶ月の内で二日ほど休みの日を設け、その日はヴァン、サキ、アリシア、バランで楽しみの国で遊んだ。その遊びにより緊張していたヴァンとサキの気持ちは、適度にほぐれた。
そんな日々の中、良いことが三つ起こった。まず一つ目の良いことは、バランがスキルを使えるようになってきたのだ。バランのスキルは以下の通り。
"正義感"
”まじめ"
"ちょっと馬鹿"
"テレポート"
"応援"
その中の"テレポート"というスキルは、一定の距離内であれば瞬間移動できるというものだが、元々バランは有していただけで使用できないスキルであった。だがバランは、そのスキルを使えるようになった。当然バランは、とてもとても喜んだ。
「やったーーーーー。僕、スキルを使えるようになったよ」
バランがそう喜ぶ。
「バラン、まだ喜ぶな。スキルは何度も使うことでその身に定着していくんだ。早速もう一回そのスキルを使ってみろ」
「押忍‼‼」
バランが再度集中するように目を閉じた。
「スキル"テレポート"‼‼」
バランはそう叫んだ。
そしてそれから時間が流れる。バランがそう叫んでからバランの近くに野良犬が歩いてきて、そして付近にある木にしっこをかけ、あくびをしながら去っていった。
「むむむむむ」
ヴァンがバランをわくわくしながら眺める。
"よくずっとそんなキラキラした目を絶やさずにバランを見れるわね"
その修行を付近のブランコに乗りながら眺めるアリシアは、そんな感想を抱く。
「むむむむむ」
バランが気持ちを高めていた。そして突然、バランは今いる場所から数m先に瞬間移動していた。
「し、師匠、また成功しました。見てくれましたか~」
バランがとても誇らしげにヴァンを見る。ヴァンが涙を流していた。
「見てたとも、愛弟子の雄姿をこの目にしかと焼き付けたさ」
そんな様をただ見るアリシアは、
「バーーーーーカ」
そう言って笑った。そんな夕暮れの広場だった。
さらにもう一つの良いこと。サキの元に治療のために訪れる人間達が少なくなってきた。それはサキの治療を必要としている人が少なくなってきたということで、すなわちサキが毎日のように頑張っていたおかげで、この国で治療を求める人の治療は大概完了したということだ。
そんな日々の中、サキの元に複数の人間が現れた。老若男女様々な年齢、性別の人達が、数えられない程大勢でサキの前に立った。
「な、なに?」
サキは少し身構えたが、その人々はとてもいい笑顔で、サキに花束を渡した。
「貴方のおかげでこの国の病人、怪我人達がたくさん救われました。この国には貧困により治療を受けれない民が、たくさんいます。そんな人々が貴方のおかげで救われました。
本当に、本当にありがとうございます」
そう言われたサキの目は潤んだ。
「い、いやいやいいんだよ。治療はうちのスキルの修行も兼ねてて、お互いにウィンウィンの関係だったんだから」
サキのその発言後も民衆達は感謝の言葉を浴びせた。強がりの言葉を発したサキだったが、その心はとてつもなくほっこりしていた。
"うち、回復師になって本当に良かった"
心からそう感じ、そしてその花束を宿屋に帰ってから花瓶に飾らせてもらったサキだった。
「きゃははははは、部屋に花があるのはいいわね」
アリシアがその花を見て喜んだ。その一連の流れが、二つ目の良いことであった。そして三つ目の良いこと。
「ヴァン、あんた焔の心、だいぶ使いこなせるようになってきたわね」
アリシアがヴァンの修行の最中、珍しくヴァンを褒めた。確かにヴァンはこの日々の修行の中で、その焔の心を自由自在とまではいかないけれど、多少自由に操れるようになった。黒炎がヴァンの両手でめらめらと燃える。元々は掌に灯る程度だったそれが今やもはや、火柱かの如く空に向かって燃え盛っていた。
「うん、アリシアに修行をつけてもらったおかげだね」
ヴァンはアリシアにピースサインをした。
ヴァンの成長、それがこの日々の中で起こった三つ目の良いことであった。
そんな三つの良いことが起こった、普通の日々だった。




