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家族になろう

翌朝、エリーンは運搬車を曳いてお屋敷の門で待っていた。

「えーと、これは何を積んでるんでしょうか?」

「背中に乗ってください。進みながら話します。」

エリーンは運搬車を曳きながらも相当のスピードで北に向かっていく。

「運搬車には毛布や食器や穀物が積んであります。山小屋には干し肉もかなりありましたよね。」

「はい、塩漬けにしてあるので大丈夫だと思います。」

「先週、お嬢様は御父上にお願いをして、それが聞き入れられました。お願いの内容というのはショウさんの山小屋のある盆地を開発して荘園を作りたい、ということです。」

「荘園ですか?」

「雰囲気はショウさんもわかっていると思いますが、お嬢様は、空の民の貴族として、ステータスは高くありません。そのことは家中でも広がっており、今回のレベル上げでも有力な使用人は来てくれませんでした。貴族は迷宮の奥へ進むことが期待されているので、みんなそんなパテには参加したくないのです。一方、お嬢様の兄上が迷宮に入るときはみんな同行したがるのです。」

切ない話だ。あんなに口は悪いが、性格の良いお姫様がそんな扱いを受けて悩んでいたのか。俺も泣きそうになる。

「そんな時に突然現れたのがショウさんです。お嬢様はあなたの破天荒なところに惹かれて、新たな荘園を開くことで公爵家にも貢献して、私たちと静かに暮らしたいと考えられたのです。」

俺はいろんな感情が沸き上がり、涙が止まらない。

「お姫様はそこまで悩んでいたのですね。俺は全く気付かなかった。最低です。」

「いえいえ、お嬢様はショウさんに救われたのかも知れません。これからも末永く宜しくお願いします。」

「はい、あまり役にたちませんが、頑張ります。」

その日はお姫様のかわいい姿を思い出しながら、ゲームだったら俺がヒーローになって彼女を救うはずなのに、どうにもならないのか、と呪った。


翌日、運搬車と共に、エリーンと俺は北の盆地に入った。

「ところで、この荷物はどうすれば良いのですか?」

「私はこれを運んだ後、直ぐにお屋敷に戻ります。そして畑の民を連れて戻ってきます。人数は子供も入っていますが、20人ほどになります。畑の民の荷物もあるので後2往復することになるでしょう。ショウさんにはその間に山小屋の内部を整理して全員が泊まれるようにしてほしいのです。」

え、20人それは大変だ。

「20人ですか。」

「畑の民は山の民ほどの背丈ですし、子供も多いのでなんとか詰め込んで下さい。お嬢様と私もそこに住みますので。」

「わかりました。できる限りやってみます。」

色々ネットで買わんといかんな。

「一つ聞いてもいいですか?」

「何でしょう?」

「家族になるというのはどういうことでしょうか?」

「家族ですか?法的な意味では婚姻届けを出すことですね。異種族でも貴族の間では政略結婚があるので、結婚は可能ですね。でも異種族間では子供はできないので、財産の行き先など詳しく決めなければいけません。」

「法的な意味ではなく、スキルの関係で家族の定義とかあるんですか?」

「スキルですか、聞いた話ですが、一部の上位エンチャントではあまりに威力が強いので、対象を限定するために、家族限定とかがあるようですね。」

「その時の家族の定義はどうなるんでしょうか?」

「私にはよくわかりませんが、さっき言ったような形式的な結婚では駄目なような気がします。」

「というと?」

「実態として結婚してる、ということでしょうか?愛し合って子を為すとか。」

エリーンの表情は見えないが、すこし顔が赤くなってる。

「仮定の話ですが、俺とエリーンさんが愛し合って子を為すことはできないんですよね。」

「何を言ってるんですか、異種族では子はできません!」

エリーンが怒って振り向いたが顔が真っ赤だ。俺はセクハラ野郎なのか。

「すいません。もうひとつだけ良いですか?同期というスキルを知ってますか?」

「同期ですか。聞いたことないですね。それがどうかしたんですか。」

「わかりました。それなら結構です。」

やはり手がかり無しか。


その夜、山小屋についた。荷物を下ろして、翌朝早くエリーンは4日後には10人くらい連れてきます、と言い、運搬車を曳いて帰って行った。エリーンが見えなくなると解説書を取り出した。


{同期 ユニークスキル 家族となる手助けをする 未成年使用不可 }

これはなんだ?


大部屋に20人雑魚寝という訳にはいかないので、ここは三段ベットだと思った。もちろん三段ベットはリュックに入らないのでDIYしかないな。どうして俺は迷宮に潜らずにDIYをやらねばならないのか。ワープゲートで清里に戻り、ネットでDIYとか色々調べ、注文した。こっちの貯金がまた減った。ネット注文が届くまで一日かかるので、俺は寒い清里でストーブに当たりながら考えを整理した。エリーンの言う通り家族の定義が厳密なら同期を使わないとダメなんだろう。しかし同期をつかうと俺がケンタウロスになってしまうとか、考えたくないな。それにあいつら強いから同期をかけた瞬間に怒って、蹴り殺されたり、丸焼けにされたりするかもしれない。それは避けたい。しかしやはり何とか覚醒は使ってみたい。ゲーマーとして。そしてお姫様の笑っている顔を見るために。


翌日、届いた金づちや折り畳みの鋸をリュックに詰め込んで異世界に戻った。向こうでは数分しかたっていないので、それから三段ベットを作ろうとしたが、挫折した。なにしろ鋸が小さい、木が切れない。これはあかん。取りあえず第一陣は10人だから雑魚寝でなんとかなるだろう。注文もあるから明日にはもう一度清里に戻らないといけないが、とりあえず今日はこっちでできることをしよう。


結局あまり進まないうちにエリーンが帰ってきた。運搬車から畑の民が下りてきた。うーん、これはいわゆるオークだな。


HP 71 MP 71 知力 72 体力 73 腕力 71 素早さ 72

幸運 72 畑の民  レベル 2  スキル なし


すべてのステータスが俺の七割か。この世界だときびしいんだろうな。これでは。

「ショウさん、彼女がこれからここで生活する、畑の民のリーダー、シュレンジュです。そして後ろに控えているのは彼女の子供たちです。」

シュレンジュの後ろに7人の子供がいる。一番下は恐らく長女にだっこされてる。子だくさんだな。一体何歳なんだ。

「シュウと言います。人間です。よろしくお願いします。」

「シュレンジュです。よろしくお願いします。」

オークはか細い声で挨拶した。

「シュレンジュの一家は南の荘園で働いていましたが、家長が病で亡くなりました。南の荘園は全員が畑の民なのですが、そこでは家長の雄が指揮をして協力して働きます。家長がいなくなると、他の家から色々言われるので困っていたのです。そこでお嬢様が一家で北の盆地の開拓を手伝わないかと声をかけたのです。」

「あと十人以上くるのも、シュレンジュさんの子供たちなんですか?」

「畑の民は一夫多妻です。亡くなった家長には三人の妻がいたのです。シュレンジュが第一夫人なので、いまは一家のリーダーですね。」

「畑の民は子だくさんなんですね。」

「私たちはステータスは低いのですが、繁殖力は優れています。ほとんどの健康な雌は毎年出産します。だいたい7歳から20歳くらいまでですね。」

「え、7歳から出産。」

「ええ、寿命が短くて平均は40歳くらいです。公爵様のところでは待遇が良いので子供は多くが生き残りますが、故郷の島では7歳まで生き延びる子供は少ないのです。」

それを聞くと、結構過酷な社会なんだな。まあ、ゲームではやられ役だからかな。

「今はこの小屋しかないので、これからみんなで力を合わせて開拓することになります。また4日後に残りの人を連れてきますから、それまでショウさんの指示に従って準備をしてください。」

「はい、わかりました。ショウさん色々教えてくださいませ。」

顔は豚だが、なかなか人柄は良さそうで安心した。


運搬車の荷物を下ろすと、エリーンは急いで帰っていった。

食事の準備や大部屋の模様替えについて、シュレンジュに指示をすると子供もつかいながらこなしていった。知力が72とは思えない。

その夜、俺は重大な決断をした。お姫様に役立ちたい一心だ。それ以外の雑念はない。ないはずだ。それにシュレンジュだったら、逆上され襲われても返り討ちにできそうだし。

子供たちに夕食を食べさせた後、俺はシュレンジュに魅了をかけた。子供たちを大部屋に寝かせた後、奥の小部屋に招き入れた。部屋にはMP回復ポーションをあるだけ準備した。決して精力剤ではない。なにせ新たにつかうスキルの消費MPが分からんから。その後のことはここでは省略する。朝になって空のMPポーションが散らばってる奥の部屋で、シュレンジュに覚醒を使った。


HP 144 MP 143 知力 139 体力 141 腕力 140 

素早さ 138 幸運 130 レベル 2 畑の民 スキル なし 特技 経営


俺のレベル20の時より高い!その上 特技まである。経営ってなに?

シュレンジュをつついて起こした。

「起きてステータス見てごらん。」

シュレンジュは恥ずかしそうに俺を見上げ、言われたとおりに自分のステータスを確認した。

「ご主人様、これはどういうことでしょう?全部倍になっています。それに特技まで!」

ご主人様なんて呼ばれてるのエリーンに知られたら、その場で串刺しだな。これは困った。

「シュレンジュ、落ち着いて聞いてくれ。俺には凄いスキルがあって、家族のステータスを上げる力がある。これは恐ろしい力だから、他人に知られたら大変なことになる。お姫様にも俺から説明するから、それまでは全て内密にな。」

俺は全て内密というところに力を入れたつもりだったが、シュレンジュは家族という言葉を聞いて、目がハートになってる。これはあかん。


オークは畑の民といっても草食ではないようだ。子供たちも干し肉をうまそうに食べている。干し肉は腐るほどあるからどんどん食べて。子供は7歳から1歳らしい。上の4人は十分仕事の役にたっている。雄がふたりで雌が五人だが、オークの雄雌出生比率は1対2くらいらしい。その上雄の方が育ちにくいので、平均すると夫1に妻3くらいの割合になる。

奥の小部屋をお姫様の部屋に、真ん中の大部屋をオークの部屋に、ダイニングをエリーンの部屋にして、おれはダイニング上の中二階に寝るという感じで段取りを進める。奥の部屋はしっかり片付けなとな。色々差し障りがある。トイレは外に穴を掘って板を渡して作る。雨が少ないから、外にテーブルを置いて食卓にする。六人で作業すると進みが早い。オークの荷物に斧や鋸もあったので、三段ベットつくりも進んでいる。


四日が過ぎ、お姫様、エリーン、残りのオークが到着した。俺は笑顔で迎えたが、なんか顔が引きつってる。エリーンから後二人のオークを紹介された。二番目の妻はファロンビス、がっしりしている。三番目の妻はメイガリアン、こちらは華奢だ。それぞれ6人の子を連れている。昼をみんなで食べた。早速シュレンジュがオークを集めて作業の指示をしている。なんかご主人様とか聞こえてきてる。あぶない。俺は作業をオークたちに任せてお姫様とエリーンを外のテーブルに誘った。

「お姫様、エリーンから事情は聴きました。俺は全力でお姫様にお仕えしますのでなんでも言って下さい。」

テーブルの上に座っているお姫様は、少し寂しそうな顔をしたが、笑顔を作って答えてくれた。

「おまえはよくわからないやつじゃが、頼りにしてるぞ。」

「そこでですが、おふたりにお話ししたいことがあるんですが。」

俺は涼しいのに汗をかいていた。


「なんじゃ、改まって。これからは我らは家族のようなものじゃ。なんでも言うが良いぞ。」

俺はエリーンをちらっとみた。テーブルに槍が立てかけてある。痛そうだな。

「実は俺にはユニークスキルがありまして。」

「なに、ユニークスキル。どうして迷宮で使わんのじゃ!」

「いや、それが戦闘スキルではなくてですね。覚醒というスキルです。」

「覚醒?聞いたことないな。エリーンはどうじゃ。」

「いえ、私も初耳です。どんなスキルなのでしょう。」

「まだ確かなことはわからないのですが、全ステータスを長時間にわたって上げるバフスキルのようです。」

「それは凄いスキルだな。ステータスが10くらい上がるのか?」

「それが、実は倍くらいになるようです。」

「そんな無茶苦茶なエンチャント、ありえんだろ。もしあるとしても、どうして迷宮で使わなかったのだ。隠していたのか。」

「いえ、それが、使用には大きな制約がありまして。家族にしか使えないようなのです。」

「わらわはシュウを家族なようなものだと思っておるが、それではダメなのか?」

「それが、、、」

俺はエリーンの方をみた。

「お姫様、強力なエンチャントは制限が厳しいのです。その家族とは恐らく、愛し合って子を為すような関係ではないかと思います。」

「そうなのか、それではシュウのそのスキルは宝の持ち腐れじゃな。」

なぜか俺の下半身を見つめてる。やめろよ。

「それがですね。もうひとつ俺にはユニークスキルがありまして。」

「うん、なんじゃ、申してみよ。」

「一時的に家族になるために、相手の体を人間に変えるスキルです。」

一瞬の間があったが、お姫様は反応した。

「え!それはつまり、」

お姫様の顔が真っ赤になった。おれはタイミングをはかり、お姫様に魅了2をかけた。そしてあらかじめ準備していた、MP回復薬二本を入れたコップを煽った。そしてエリーンにも魅了2をかけた。

「もちろん、お姫様が平穏な日々をお望みなら、そのようなスキルは忘れてもらって良いのです。」

「そうか、なるほど。エリーンはどう思う。」

「お嬢様のような高貴なお方がそのようなことはお考えにならないほうが良いと思いますが、私ならばその覚醒の恩恵を受けて、更にお嬢様のお役に立つことも良いかと思います。」

お姫様はその言葉を聞いて泣きそうな顔になった。

「エリーンそれはずるいぞ。われらは家族のように過ごそうというのに、そちだけがシュウと愛し合うとは。それは許せん。わらわも決めたぞ。そのスキルを使う!」

そんなドヤ顔しなくても。

「お嬢様、それはなりません。お立場をお考え下さい。」

「エリーン、わらわはそなたの意見はいつも聞いてきたが、この件についてはそうはできん。これが結論じゃ!」

「わかりました。それではお嬢様のお考えに従います。ところで、シュウさん、覚醒スキルの効果をどのようにして知ったのですか?」

そういう流れになりますよね。冷汗が止まらない。

「えー、そのですね。」

「確か、数日前は、まだそのスキルについて詳しくは分かっていなかったようでいたよね。」

エリーンはテーブルの槍を手元に引き寄せた。ぎゃー。お姫様も気づいたようだ。

「ショウ。まさかあの者と!わらわというものがありながら!」

地獄がまっていた。


夜になると、奥の小部屋にエリーンと俺は呼ばれた。それから先のことはここでは言えない。翌朝、俺は目覚めると、二人のステータスを確認した。


HP 130 MP 1900 知力 1050 体力 90 腕力 60

素早さ 250 幸運 50 レベル 30 空の民 スキル 火魔法 闇魔法 

特技 MP吸収


HP 2100 MP 250 知力 230 体力 1200 腕力 220

素早さ 210 幸運 230 レベル 30 草原の民 スキル 治療  特技 運搬


ふたりも起き上がってきた。まだ同期を解いていないので、人間のままだ。ふたりともステータスを確認して、改めて三人で抱き合った。みんな泣いている。


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