表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/108

取りあえず、行こう異世界

影が消えてしばらくの間、俺は呆然としていた。自分の体を見直して、どこかに継ぎ目があるんじゃないかと探してみたが、どうも継ぎ目はないみたいだ。裸だと寒いので服をきて、すこし離れたところにある袋に目をやった。詫びの菓子折りでも入っているのかと思い開けてみた。何と中にあったのは金塊だった。金塊のようなパッケージのチョコをみたことがあるので、持ち上げるとそれは重かった。風呂にある古い体重計を持ってきて重さを計ると一本十キロだ。十本入ってるので百キロ!時価十億円。これで一生分の生活費がオケだ、と喜んだが冷静に考えるとこんなのどこで怪しまれずに換金できるのか。宇宙人に貰いましたと言ったら、最低病院行きだな。

次にテーブルの上にある冊子に目がいった。

{基本編}

最近のネトゲーはチュートリアルが適当で、解析してる人と仲良くならないと色んな情報が入らないことが多いが、しっかり説明してくれるなら好感度アップだな。


{移動にはゲートオープンと声に出してください。ゲートオープンには膨大なエネルギーを使います。ゲートは初期状態で五回の移動力を蓄積しています。最大五回分の移動力を蓄積するのに五日かかります。ゲートの利用は計画的に。}


どこかのサラ金みたいな説明だが、つまり一日で一回分リチャージできるんだな。膨大なエネルギーをどこから調達してるのか心配だが、ここは無視しておこう。


{初期設定では双方の山小屋の寝室にゲートマーカーが設定されています。マーカーは設定コマンドで変更可能です。それぞれの世界で最大五か所のマーカーを設定できます。他の人に目撃されるとゲートは永久に閉じられるので注意して下さい。}


清里の山小屋は誰もいないけど、向こうはどんなところなんだろうな。目撃判定とかどうなってんだろう。


{異世界では最低限の現地レベルの装備を準備しています。山小屋の間取りは同じですが、異世界の文明レベルに応じた設備になっています。}


風呂とかトイレはどうなってるんだろうな。便座も寒そうだな。


{異世界ではみんなが自分のステータスを確認することができます。それに加えてあなたには鑑定のユニークスキルが付与されます。それをつかうことにより他のもののステータスを確認することができます。経験を積むことによって新たなスキルを獲得したり、いままでのスキルが更新されます。}


これは行ってみないとわからないな。ユニークスキルとか言われるとちょっと興奮するな、ネトゲマニアとして。


{異世界では、種族はそれぞれ孤立して成長した文明なので、基本的に種族ごとに使う言葉は異なります。文字は一部の種族だけが持っています。あなたは言葉については自動変換でどの言葉も理解できますが、文字は読めません。}


山小屋が密集していてお隣さんがいても挨拶できるんだな。そもそも隣が人間だったらの話だが。いきなり切りつけられるとか勘弁してほしい。


{異世界には人類とほぼ同じスペックの人類が存在しています。その人類のふりをする際は言語で人語を選んでください。そうするとこちらの言葉は人語に限定されます。}


異世界で俺だけ異種族というのは困るしな。まずは一安心。ほぼ同じというのがちょっと気になるが。


新規にネトゲが始まった時にはまず行ってみるのが俺の行動パターンなので、今回もとりあえず行くことにした。ネトゲではそのおかげで頓死も多いが。服と時計とお菓子を詰め込んでリュックを背負った。水はさすがにあるだろう。いちいち服を脱ぐのは面倒だ。

「ゲートオープン」

一メートル五十センチほどの黒い穴が目の前に現れた。身をかがめてその中に入っていった。穴を跨ぐとそこは山小屋の中だった。丸太を組んだ外壁は清里の山小屋そのままだったが、畳の間は板間になっていた。キッチンはかまどと無骨な棚だけに変わっている。窓はガラスではなく、ずらすと日の光を取り込めるような造りになっている。廻りをひととおり眺めた後、まず窓に近づいた。お隣さんはあるのか、と思ったが杞憂だった。窓の外には森が広がっている。まわりの目を気にせずにここに住めるのが確認できたので、山小屋の中を詳しく見ることにした。山小屋は居間、大部屋、寝室の三部屋からなっている。寝室には装備品が転がっている。鑑定すると、鉄の剣、鉄の盾、鉄のヘルメット、と表示された。ほんとに基本装備だな。オリハルコンの剣とか期待してたのに。そこで自分のステータスも見ないといけないと思い出した。


HP 100/100 MP 96/100 知力 100 体力 100 腕力 100 

素早さ 100 幸運 100  レベル 1 スキル 鑑定 


なんとも安易な数字が並んでいた。100というのはどのくらいなのだろう、他の人がみんな10くらいで、既にチートレベルのステータスかもと期待したが誰もいないのだから比較のしようがない。MPが減っているが、鑑定を使うと消費されるのだろう。どれくらいでMP回復するのかな。


台所に行くと、竈の横に薪が積まれている。これ火をつけるの大変そうだ。棚には木の皿や椀がいくつかある。どうやって洗うんだろう、水道無いし。棚の下の箱を空けるとトウモロコシみたいなのが入っている。これは食べられるんだろうな。持って帰って調理してみよう。そのあと向こうのトイレや風呂や納戸にあたるところを見てみたが大したものはなかった。


ドアを開けるとそこは森のなかで、空に少し赤っぽい太陽が輝いていた。初めて異世界に来たのを実感した。水の音がするので少し歩くとそこには小川が流れている。水の確保はできそうだ。手間かかりそうだけど。一時間ほど山小屋のまわりを歩き回ったが、そこは森が広がるだけだった。山小屋に戻り、もう一度中を見回ってから清里に戻った。色々運ばないとな。いちいち服を脱ぐのが面倒だ。

体調が悪いと嘘をついて会社とMMOのギルド長から休みの許可を取って、色々とネットで買い物をした。横に金塊があるせいか、気が大きくなってる。とりあえず異世界の山小屋でサステナブルにならないと始まらない。それから数日は毎日寝る前に異世界に通って小さいリュックを呪いながらせっせと物を運んだ。これだと冒険ゲームじゃなくて、運搬ゲームだな。


そんななか、異世界の山小屋で地図を見つけた。この山小屋は島のやや南側に位置しているようだ。正確な距離は分からないが、廻りの山の配置から考えて、南の海に出るのに一週間くらいかかりそうだ。海に近いところだったら誰か人がいるに違いない。島のサイズは南北八百キロ、東西五百キロくらいある。結構大きいな。山小屋は山に囲まれた盆地にあるようで、南の端に盆地から抜ける川が流れている。そこから南を目指せそうだ。念のため装備を付けて川に沿って出かけたが、三キロほど歩くと木が途絶えてなだらかな草原にでた。川の流れに沿って進むと水も補給できるので都合が良い。鹿に似た獣が見えたので鑑定した。


HP 70 MP 0 知力 10 体力 60 腕力 30 素早さ 130 

幸運 70    鹿  スキル なし  


なんと鹿みたいな獣とそれほど変わらないのが俺のステータスであることが分かった。もう出かけるの止めようか。鹿もどきを追いかけようとしたが向こうの方が早いので、直ぐにあきらめた。その日は気分も落ち込んだので一度引き上げて二日後に盆地の出口を目指した。


寝袋や何とかバーというのをリュックに詰め込んで夜明けと同時に山小屋をでた。道中は順調だったが二日目の朝、草原でイノシシのような牙のある獣が遠くに現れた。早速鑑定したところ。


HP 90 MP 0 知力 20 体力 120 腕力 120 素早さ 140

幸運 60  イノシシ スキル なし


おい、俺よりステータス高いじゃないか。これはまずい、と思っていると向こうもこちらを見つけて、こちらに走り出した。向こうの方が速いので覚悟を決めて鉄の剣を抜いた。ドドドっと地響きを立てながら走るイノシシは一直線にこちらに向かってくる。斜めから切りつけようとしたが、皮が硬いのと、刃の角度が悪いのか跳ね返された。イノシシの牙はかろうじてかわしたが、頭から体当たりされ地面に叩きつけられた。立ち上がろうとしたが、イノシシは既に反転してこちらに向かって来ようとしている。とっさにリュックから胡椒を詰めた紙玉を投げつけた。玉はイノシシの足元に落ちて霧のように広がった。イノシシはその霧を浴びると、驚いて俺の左側に方向転換して走り抜けようとした。今度は転がった姿勢からイノシシの右腹に剣が突き刺さった。剣をイノシシの腹の中でまわすとイノシシは倒れた。息が上がっていた俺は剣を引き抜くとイノシシの頭を貫き止めをさした。自分のステータスを見るとHPが20減っていた。かすっただけで20も減るの!残念なことにイノシシを倒しただけではレベルも上がってなかった。まあモンスター倒したわけじゃないしな。その日はそこで反転して山小屋にたどり着いた。唯一の収穫はHPの回復は一時間に2ということが分かったことだった。


清里に戻った俺はジビエの解体方法をネットで学習して、分解可能なボウガンを購入した。ボウガンは規制がかかってるので、そんな強力なのは買えなかったが。一週間後にもう一度異世界に戻った俺はボウガンを使い鹿とイノシシを二頭づつ倒した。そしてやっとレベルが2に上がった


HP 102 MP 102 知力 103 体力 104 腕力 101 

素早さ 103 幸運 101  レベル2 スキル 鑑定


この調子だとイノシシくらいの強さになるまでに相当時間がかかりそうで、心が折れた。そのまま異世界にひと月とどまった。狩りをして、獲物を台車に乗せ山小屋に戻るというワイルドな生活だが、意外と楽しい。獣を解体して肉を処理することにも慣れてきた。少しして気づいたが、朝日の出る時間が少しずつずれてくる。あたりまえだが、自転の長さが違うんだな。こっちは一日が26時間くらいだ。ジビエの燻製つくりと狩りに打ち込んでついにレベル5に到達した。


HP 110 MP 110 知力 109 体力 112 腕力 113 

素早さ 108 幸運106 レベル 5  スキル 鑑定 魅了


HPとMPはずっと2づつ上がっている。それ以外は多少のぶれ幅があるが平均するとやはり2前後だ。唯一の収穫は新しいスキルを獲得したことだ。魅了なんてものはセイレーンとかサキュバスとか色っぽいお姉さんのスキルだと思っていたが、俺が使うとどうなるのだろう。新しいスキルがまさかレベル5で取れるとは思ってなかったので放置していた説明書のスキル一覧をめくってみた。


{魅了 ユニークスキル 異性の知的生物から敵意を消滅させ、好意を持たせることができる} 


これもユニークスキルなのか!猟師のような生活をふた月近く送ってきた甲斐があった。ところで知的生物ってどこまで入るの。


新たなスキルを手にいれたところで少し冷静に考えてみた。ゲーマーの感覚でいうと、今のステータスは雑魚キャラ以外の何物でもない。まるで無課金でギルドに寄生しているような。そういう意味では無課金でも人柄が良いと廃課金の人に色々クエストに連れて行ってもらえるという点で、魅了は素晴らしいスキルかもしれない。それこそ寄生確定だけど。人のいる場所を目指すにしてもこのステータスではやはり相手にされそうにない。やはりもう少しレベルを上げてから人里はめざそう。

翌日雌の鹿を見つけたので魅了を試してみた。案の定効果はなかった。しかし驚いたのは、MPの消費が100!もし強力な知的生物の敵が複数でたら、2体目に魅了をかけるまでに二日もかかるのね。それも雌限定だし。使えね~。


俺は更に二か月猟師生活を続けた。レベルが上がると必要な経験値も増えるので、獲物はたくさん必要だ。どうもこの盆地は豊かな土地らしくて獲物を狩りつくすこともなかった。むしろけもの道を見分けることができるようになって効率は上がった。その分処理する肉が更に増えたのは誤算だった。料理用の計量器を向こうに持ち込んだのだが、同じものを清里と異世界の小屋で計って比べると異世界では5%くらい重くなる。惑星の組成が同じだと仮定すると、異世界のほうが大きな惑星なんだろう。そうこうしてるうちにレベル10に達した。


HP 120 MP120 知力 119 体力 124 腕力 123 

素早さ 119 幸運 110 レベル 10  スキル 鑑定 魅了 覚醒


覚醒!これは絶対すごいぞ。説明書どこだ。


{覚醒 ユニークスキル 家族またはそれに準じる者のステータスを大幅に向上させる}


またユニークスキルなのか。鹿やイノシシだけ獲物にしてユニークスキルばかりとは、どういうことなんだろう。とは言え、家族なんてこっちにいないからまた使えないスキルだな。なんで闇魔法みたいな中二病的なスキルこないのかね。俺のスキルは人と関わらないと使えないものばかりなのでもう山籠もりは潮時だろう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ