表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エンジェルライフ  作者: 森嶋直斗
15/17

エンジェルライフ⑮最新型の義足を使いこなすHebo。ケンジは、その義足をぶっ壊す!

Heboは、義足の装着を始めると、どんどんとプログラムをこなしてケンジの想定を上回るスピードで上達した。順調に進んでいるのに不安を語るケンジ”順調すぎるのが、怖い。大きなケガの恐れもある”プロとしての経験が、ケンジを慎重にさせている。ケンジが、思いついた最終テストとは!

ケンジは、義足を壊したいと言い出した!

ケンジは、最大の難関をクリアしプロジェクトの成功に自信を持ち始めていた。ただ、心配事も一つ残っていた。それは、Heboが怪我をすることだ。今回の義足は、すべての部品が新開発で組み立て方法も特別な物ばかり。今の時点では、Heboの歩く速度が遅いので義足が壊れても怪我ににつながることは少ない。Heboが義足での歩行に慣れてくると、どんな動きをするか予測できない。今回の義足は人間の足のように折れる。いわば、ちゃんと壊れる義足になっているのでHeboが怪我をしないように義足が、ちゃんと壊れるかが最後のハードルとなる。


Heboの体を採寸、採型した3本目の義足が届いた。

真理:義足の試着に入ってからは、とんとん拍子ね。Heboは午前中の授業中も義足のことで頭がいっぱいで、私の話なんて上の空。サリーにくっついてる時間も無くなってサリーも寂しそうだわ。

ケンジ:ジャイアンとHeboは兄弟みたいになってジャイアンが義足の組み立て競争の相手をさせられてるよ。大柄なジャイアンは、細かい義足の部品をすぐにどっかに飛ばしてなくすからHeboにいつも叱られてる。どっちが兄貴か分からないよ。

真理:3本目の義足が来たよ。何本発注しても予算内で結果が出れば文句無しだけど、予算もそろそろ気になりだしてるけど・・・これで最後にできそう?

ケンジ:そうしたいですね。

笑って返した。

2本目の義足を試行、組み立てバラシを練習して1週間。3本目は、ふくらはぎの取り外しからバラシ、組み立て、歩行までを一人でやってみる。2本目の義足で一人で全部できるようになっている。バラシ1分、組み立て2分20秒。すでにケンジの目標はクリアできるところまで来ている。

ケンジ:さあ!行くよ! よーい、始め!

3本目の義足は、肉の部分が新品で、ちょっと外しにくくて戸惑った。子供らしく焦りからペースを乱したが、それでも1分でバラシた。そのまま組み立てに入る。部品が新品だと組み立ても引っかからずにスムーズに行った。Heboの顔から自身がみなぎっている。組み立てが終わりHeboがケンジの顔を見た。

ケンジ:OK! はや! 2分40秒! バラシて組み立てて、2分40秒は、ケンジの想定を大幅に短縮している。まいったな。Heboお前の方が僕より早いよ・・・

実際の生活では、ダンパーをすべてバラスことはせずに交換部品として取り換えるので、バラシて組んで2分以内で十分行ける。実用段階に入れるね。そのまま付けて歩いてみて!。

Hebo:うWaっ、気持ちいい!ソケットが足に吸い付いてくる。うん、いい感じ。

すぐに立ち上がって歩き出した。

Hebo:良い感じ、いい感じ!全然ぐらつかないから走れそう!

と言ってHeboが走りそうになった。ケンジは、分かってたと言わんばかりにサッとHeboの手を握り引っ張った。

ケンジ:走るとどこが壊れるか分からないから今は、走っちゃダメ! ビデオを見るよ!

Heboに義足を付けさせたままビデオを流して見せた。陸上競技用の義足の破損事故を紹介したビデオだ。中には選手が怪我をして血を流しているシーンもあり、かなり衝撃的だ。

Hebo:げーっつ 痛そう・・・それでもまた、走るんだね。

ケンジ:一回義足が壊れると怖くて思いっきり走れないんだって。今は、ビデオのタイプの義足は普及が進んでいるからほとんど壊れたのは見たことが無いんだけど。Heboの義足は世界で初めての新作だから予測できない破損も考えられる。だからスピードを上げて走るのは慎重にね。ここから先、僕は体験できない。Heboだけが体感する感覚が開発の頼りなんだ。だから不安な感じがあったら何でも話して!

Hebo:分かった! 今はいい感じ! あっでもちょっと熱いかな・・

新素材のライナー素材が肌に密着し保温性が高い。冬場はいいが・・・今後の改良点の一つだ。

実際に装着する人の肌温度や発汗性によって装着感が変わるのでこのライナー素材の一番の弱点ともいえる。

Heboからその言葉が貰えることが二人の信頼の証ともいえる。


真理とケンジがガーデンホテルのロビーで話している。

ケンジ:今日は歩行テスト、義足のバラシ、清掃、組み立て、装着、歩行まで、一通りHeboが自分でできるようになったし僕の想定よりHeboが器用だったんだと思うけどかなり早く組み立てられる。一応、契約上の内容はクリアできたと思う。

真理:義足の試着まで10日もかかって、正直、いらいらしたけど試着してからは、驚くようなスピードで上達していってHeboの変化に、目を疑ったわ。

ケンジ:子供の場合、大人以上に義足を始める人とまわりの人との人間関係が大切なのがよくわかったよ。正直最初は、どうしていいかわからなかった。ここまでこれてよかった・・んだけど・・

真理ちゃん相談なんだけど・・ちょっと不安なところがあって・・・

真理:なんか問題があるの?

ケンジ:僕の考えすぎかもしれない・・けど、、 Heboは、義足でまだ一度も転んでないんだ。もちろん転んでから起き上がる訓練もしている。Heboは運動神経が良すぎるから義足が無くても体の反動で素早く起き上がれるんだ。かなり急激な方向転換も試したし、階段や椅子から飛び降りたり、衝撃のテストもこなしてきた。でも・・Heboは、一度も転ばないし、義足も壊れない。経験上、出来すぎていて・・・

真理:出来すぎだから不安ってのも考えすぎかなって思うけど・・ で、どうしたいの?

ケンジ:そこなんだよね。・・・このままこの義足で走行テストするのは全く考えてない。走る以外で義足やHeboに強い付加をかける方法は無いかな・・・

真理:蹴るとか、たたくとか・・・とみめさんが見たら虐待かと思うね(笑い)

ケンジ:キックボクシング?とか・・

真理:義足のテストに?ボクシングいるか?

ケンジ:空手、・ん、柔道じゃない。柔道なら投げられて義足が、バキッって壊れたり!

真理:足技でHeboが転んだり!

ケンジ:柔道だよ。柔道!

真理:ケンジって柔道経験あるの?

ケンジ:まったくない。ルールもよくわからないね。

真理:自慢か!午後から渥美病院に行くから元さんに聞いてみるは・・・


モトズラウンジで、

元:そりゃすごいな、義足の試着からはあっという間だったな。

真理:なんだけど杉本さんが、経験上、出来すぎてると後で何かあるって、不安なんだって。せめてHeboが実際に使用して転んだり義足が壊れたりする経験が不可欠だって言うんです。

元:さすがにプロの発想だな

真理:それで、柔道はどうかって話になったんだけど・・・杉本さんも私も柔道経験は無いんで・・・

あさこ:はーい!私、高校まで柔道部だった。

元:えーっつ あさかが、柔道部!?

あさこ:はい!今まで言ってこなかったけど・・・言う機会もなかったし・・・

真理:どうりで元さんがあさかの尻はどうしても触れんって・・・女三四郎に死角なしってことか・・

あさこ:義足の柔道家はいっぱいいるし義足で柔道はできるけど・・Heboと乱取りができるとなると体格も限られるし・・小学校3年生ぐらいまでの子かな・・

真理:あさかさんとこの旬君は!?

あさこ:しゅん?? 旬助か・・ おーっつ有るかな? 本人ゲームばっかで・・Eゲームでオリンピックに出る!って言ってるぐらいだから柔道なんて興味なさそう・・あっ!居たわ・兄貴の息子・佐助、兄貴は今も柔道の指導者で佐助は去年から柔道やってる。2年生

あさこは佐助の父で、あさかの兄の宏に相談してみた。

あさこ:・・で、柔道教えて欲しいの・・もちろん報酬も・・

宏:えーっそんな時給貰えるの!やるやる、佐助にも絶対やらせる!

エンジェルクルーでは、最低時給は全職種で一律5万円。一般的には考えられない時給に宏は佐助に話すまでもなく、大人の事情で快諾。稽古のある日は会社も早引きする覚悟で臨むらしい。

ガーデンホテルの貴賓室横に会議室がある。その一部屋に柔道用の畳が敷き詰められ専用の柔道場ができた。


久しぶりに新品の柔道着に身を固めたあさかが、兄の宏と急ごしらえの柔道場に姿を現した。大声であいさつすると二人は久しぶりに稽古に入った。宏は地元の柔道クラブで指導者をしているので動きは軽快。あさかも久しぶりとは言え高校でインターハイまで行った有段者。すぐに勘を取り戻した。うっすらと汗をかいたころ真理と杉本が現れた。

真理:どうですか

あさこ:十分使えるよ。問題ない。畳も進化している感じで私が現役の時より滑りずらいし畳のヘリも気にならない。

杉本:オリンピック仕様ですよ。

あさこ:そりゃすごい

宏:町の柔道おじさんのレベルで使える畳じゃないね。

杉本:今日は、Heboも佐助君も初めてだから緊張していると思うから顔合わせ程度にして一緒にお昼にしましょう。

昼食をみんなで食べながら

あさこ:兄は子供の指導専門だから任せていいと思うよ。

宏:もう大人はしんどくて乱取りも出来ませんから子供とでんぐり返しばっかりやってます。

昼食後練習を開始した宏は言葉通り、Heboと佐助を従えて、新しい畳の上をでんぐり返しで転げまわった。

おとなが一人で、でんぐり返しを連発しているので佐助もHeboも一緒になって転げまわった。

宏:次は、後ろに倒れる受け身の練習。佐助が見本を見せるので真似してみて!

宏が佐助を自分の正面に立たせ胸のあたりをポンと押す。押された反動を受けて佐助は後ろに倒れると同時に腕を前にクロスし落ちる寸前に手を広げて畳を打つ。簡単な動作だがすべてのタイミングが合わないと心地よい畳の音がでない。ポイントは、押された時の脱力と力の抜けた手が自然に残って前で交差すること。

Heboが佐助とやってみる

佐助がHeboの胸を押すと、Heboがしゃがむように倒れて様にならない。最初から後ろに脱力しながら倒れるのは怖いだろう。

宏:佐助!遠慮して押すのが弱すぎる Hebo!押されたら怖いかもしれないが勇気を出して押された力で自然に倒れる!よし、もう一回!

佐助がさっきより強めにHeboの胸を突いた。Heboは言われたとおりに脱力し、後ろに倒れた。

きれいに手が前に残りクロスした腕を倒れる寸前に大きく手を広げて畳を後ろ手に打った。

部屋中にバシーン!と畳の音が響きHeboの体が畳から浮き上がった。

あまりの美しい受け身に佐助も宏も目を見広げてあっけにとられている。

Hebo:できた? ねえ佐助・・できた?

佐助:すご!きれいだった。

宏:Hebo!完璧!

Hebo(得意げに眉を上げた)

佐助の学校が休みの土曜日の朝に練習することになりHeboはこれまで2回の練習であっという間にいろんな技を覚えた。器用なHeboは、組手にこだわらず右足を軸にして技を出す。持って生まれた運動神経に片足になったことによる強靭な体幹で、名前もないような技をどんどん編み出して佐助に繰り出す。2学年も下の義足の少年が佐助を苦しめた。指導者で父親の宏も自分の子供がコテンパンにやっつけられるようになり少しいら立っていた。

3回目の練習が始まった。いつもより更に佐助の表情がこわばっている。Heboの方は柔道が楽しくてしょうがない。縦横無尽に立ち回るHeboの動きについていけない。飛び跳ねるように組みに来たHeboに佐助が今までやったことが無い巴投げを見せた。Heboの組手の勢いを脱力して、いなすと、後ろに倒れながら袖を引いて下からHeboの腰を右足で突き上げた。小柄なHeboの体が、大きく浮き上がり受け身も取れずに畳に叩きつけられた。

Hebo:うっつ・・

腰を打ったのかHeboが動かない。

宏:大丈夫か!Hebo!

しばらくもがいていたHeboが、むっくと起き上がり・・

Hebo:大丈夫・・

と、言って立ち上がったかと思ったらすぐに前のめりに転んだ。

宏:やっぱりどっか痛いんじゃないか?

Heboを畳に寝かしたまま体を触った。足元を見ている時、

宏:あっつ Hebo!義足のかかとから先が取れちゃってるぞ。

Hebo:あっホントだ! どうしよう壊しちゃった。 

佐助:大丈夫! 痛くない?

Hebo:痛くないよ

義足だから壊れても痛くはないが、壊れた義足を初めて見たHebo、佐助は驚いて佐助が・・

佐助:ゴメンナサイ・・・

と、泣き出した。

佐助が泣き出したので

Hebo:も、大きな声で泣き出した。

二人が、大泣きするんで宏もうろたえて二人を抱きしめて・・・

宏:どうしようと・・・と、つぶやくだけで、二人の背中をさすっるのがやっとだった。

声を聴いてサリーが声をかけた。

宏:サリーどうしよう。義足が壊れちゃった・・高いんだよね・・

大人の事情が先に来る。

サリー:ケンジ呼んできます。

ケンジが、慌てて走ってきた。

ケンジ:二人とも怪我は無い? Hebo!どっか痛い?

Hebo:足が痛い! どいて!

宏が、Heboの義足じゃない方の足をがっつり踏んでいた。

ケンジが、宏の足をどかしながら・・

ケンジ:他には?

Hebo:大丈夫? どこも痛くないよ。

ケンジ:佐助は、どっか痛い?

佐助:どこも・・・大丈夫・・・

宏:佐助は投げた方だから・・怪我は無いと思うけど・・

ケンジ:じゃなんで泣いてんの?? 宏さんまで涙目で・・・?

宏:ふところが、痛くなるのかなと‥思って・・

ケンジ??

ケンジ:おおっつ、派手にぶっ壊したな! ダンパーが、割れてるな。

Hebo:治せる?

ケンジ:割れた部品は交換するしかない。予備が有るから自分で修理しな。

ケンジが、予備のダンパーを持ってきてHeboに渡すと、Heboはその場で義足を付けたまま修理を始めた。

畳の上なので少してこずったが、すぐにふくらはぎの肉を外し壊れたダンパーを取り外して新しいものに交換した。

Hebo:これで、かかとが付くから・・・

義足をあっという間に修理して、ひょいっ!と飛び上がって立った。

佐助:えーーつ ロボットみたい! 3人で大笑いして、また、泣いた!

宏:杉本さんこれ、高いんですよね。

と、割れた部品をかき集めて手のひらに広げて聞いた。

ケンジ:契約中の出費は、全部、真理ちゃん持ちだから大丈夫ですよ。

宏はホッとして、また泣いた。

ガーデンホテルのロビーで、

杉本:真理ちゃんやっと壊れたよ。これで、破損個所を解析すればどんな力がかかったか分かるよ。誰も怪我しなかったし、一安心できる。今回の義足は、人間の足のように壊れることで、人体への影響を極力抑えることが新しい特徴なんだけど全然壊れないから強度がありすぎるのかと心配してたんだ。怪我せずに義足が壊れてくれたのでまずは合格の事例になった。

真理:そろそろプロジェクトの完了報告しても良いかな!

杉本:みんなと別れるのは寂しいけど・・・そうだね。


その夜

サリーの料理を並べ、ジャイアンの昔話を聞いて、Heboが目の前を横切る船を調べて佐助に自慢げに教えて、、真理もエリも飲みすぎて、佳代子までおしかけてきて大騒ぎになった送別会も無事終わった。


中部国際空港で、とみめとHeboは、帰国便を待っていた。

場内アナウンス:ロイヤル・トンガ航空727便 オークランド経由トンガ行きへご搭乗のお客様は、搭乗時間となりました。7番搭乗口よりご搭乗ください。

とみめが、搭乗口へ続くエスカレータを登っていった。ギリギリまで佐助と写真を撮っていたHeboを、

とみめがエスカレーターの上から呼ぶと・・Heboは、二本足で飛ぶようにエスカレーターを駆け上がって行った!



今回の、Heboのリハビリや、義足の記述には、著者である私が実際に入院している病院の看護師、作業療法士、理学療法士のみなさん、義足を利用している患者さんのからのご意見やアドバイスを参考にさせていただきました。取材にご協力頂いた皆様に感謝しております。

それと、とみめちゃんは、ホントに、よし子ちゃんに似た美人さんだったんですよ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ