エンジェルライフ⑫Heboが、一番気を許しているサリーとのじゃれ合いにヒントを見つけたケンジ。
肝心のHeboとの信頼関係を築く切っ掛けすら見つからないケンジは、焦っていた。信頼関係を築く前に義足をテストしたらHeboが義足を嫌いになる。自問自答しながらHeboの変化を注視した。思わぬチャンスは、目の目にある伊良湖水道を通過するタンカーにあった!Heboの心を動かした奇策とは!
⑫
Heboの回りの大人たちは、仲良くなっていったが、肝心のHeboが心を閉ざしたまま。リハビリ担当の杉本健司は、Heboの心をつかめるか?
翌朝貴賓室に杉本が現れた。
真理:杉本さんお待たせしました。お渡ししていた義足の調子はどうですか。
杉本:肌に触れる部分のシリコンが相当改良されています。大人用より柔らかいし、復元力も強く早い。
杉本:どんな素材なんですか?
真理:さて、そこは、教えられませんね。東三河、安城はゴム製品の優秀な開発メーカーがあります。少し前に問題になった早すぎるスイミングウェアーもこの地域で開発されたものです。
真理:サリー、Hebo連れてきて!杉本さんは、これに着替えて
杉本:このTシャツですか、このキャラクターは、機関車トーマス?
真理:日本から来たことになってる機関車トーマスのキャラクターで、ケンジ!新幹線みたいでしょ。
杉本:杉本健司だからケンジ?アニメで喜ばせようと・・・
真理:マリ、サリー、ジャイアン、ケンジ 良いでしょ!Heboも分かりやすいと思って、、
杉本:まー良いですけど、やってみましょう。
とみめ:Oho-ケンジ!お似合いです!
サリー:ほらHeboケンジがいるよ!
杉本:Hebo君 ケンジだよ!
Hebo:・・・・・・・・
うつむいたまま興味なし・・・
真理:興味なし・・・みたい・・
杉本:そのようで・・
杉本は、何かを思い出したように窓際に駆け寄った。近くにあった机にパソコンをセットすると・・・
杉本:このサイトだったな。パソコンに世界地図が広がった。伊良湖岬を拡大すると・・・・
パソコン上の地図に大小の船のマークが表示されていた。杉本は、目の前の伊良湖水道を実際に通過する貨物船をみて、パソコン上の伊良湖岬を通過する大きめの船のマークをクリックした。
杉本:サリー!これ何かわかる!?
船の写真と船籍などの情報が出ていた。
サリー:えっつ何? 目の前の船の情報がリアルタイムで分かるの!?
杉本:こんな風にすると・・・
地図を広域にすると船の絵から赤い点線が伸びてインドの方に伸びている。緑の点線は、四日市へそして、静岡に続いていた。
杉本:この船は、パナマの船籍で韓国で作られたタンカーで、クウェートから原油を持ってきて、四日市コンビナート静岡の興津ふ頭まで行く予定の船!
サリー:ケンジ、スゴイ! そんなことまで分かっちゃうの!
真理:あの左の船は、
杉本:ほら・・貨物船だね。日本の船だ名古屋港に行くところ。
真理:ケンジ、すご・・
サリー:Hebo!みてみて!ケンジ魔法使い・・・
杉本:サリー!ほっといて!Heboに構わないで、こっち見て、次は、トンガの周りを・・
サリー:へっ・・・どうして・・
真理:ケンジに考えがあるのよ・・まかせましょう・・トンガの北側に大きな船がいるね。
杉本:これ??オイオイ Wonder of the Seas だよ!!まじか!世界最大の豪華客船!6,800人乗船だって!
サリー:なにそれ・・何してるの?トンガに立ち寄ったのかな??
杉本:この船は、大きすぎてトンガには寄港できないかもしれないな・・・トンガの景色を見てフィジーかニュージーランドまで行くんじゃない。ほら・・緑の線がフィジーまで・・フィジーなら夕方までに付きそうだね。
とみめは、何かを悟ったように微笑むと窓際に駆け寄った。
とみめ:去年、就航した客船だよね。大きさも凄いけどシェフやアーティストも世界最高峰の人ばかり。いつかは、乗ってみたいと思ってたの日本に来るかな!
サリー:Heboっどうした。見たい?
Heboは、船には興味を示さず、サリーの手を引いて片足でけんけんしながら本棚のところに連れて行くと一冊の動物の絵本を抜き取るとサリーに渡した。
とみめ:そっちで絵本読んであげて。
杉本:さあ、こっちは、僕の大好きな”海底調査船 ちきゅう”の場所を探してみよう。こうやって、名前が分かっている船は検索すると・・・おっつ 地図を広域にして、田原市のちょうど大山の真南にいるね。伊良湖岬から・見えるかな?
真理:海王丸は、訓練用の帆船。富山湾で一度見た白い帆がきれいでびっくり!
杉本:これだね。いくつもの大きな白い帆を広げた帆船が映っていた。今は、えーっとここは、・・・清水港だね。オイオイ、緑の線が名古屋港まで伸びているから2,3日中にこの前を通っていくよ・・・ちょっとまって
杉本は、ネットで海王丸の公式ページを探した。
杉本:あった。 イベントか・・5月の27,28日に名古屋の金城ふ頭で体験乗船会だって26日には名古屋に入ると思うからやっぱり明日、明後日にはここを通過するよ!。
真理:すごい!帆を広げて走るとこ見てみたい!
杉本:帆を張っているかどうかは微妙だな。ここは、船舶の航行が多いからエンジンで進んでる可能性が高いね。
真理:えーっ ナーんだ。
とみめ:真理さん帆船が好きなの?
真理:学生時代ヨット部で、あそこらへんにある蒲郡の海陽ヨットハーバーにも合宿に来てました。
とみめ:へーっ ヨットやってたんだ。今度、うちのヨットに乗せてあげるわ。
真理:わーっ 楽しみです。
大人たちは、Heboのことを忘れてヨットや豪華客船、映画の話に夢中になった。
杉本:あっという間にリハビリの午前中の時間が終わっちゃいましたね。
真理:あーっ本当だ11時50分!
杉本は、パソコンを残したまま、何も言わずHeboの頭をなで回すと手を振って出て行った。
真理:とみめさん!すいません! なんか私まで夢中になっちゃって。
とみめ:真理ちゃん。ケンジの作戦に乗ってみましょうよ。
真理:作戦・・・??
杉本は、昼食を食べながら自分の部屋の壁を見つめて考えていた。
杉本:まずは人間関係を築くこと・・どんなに難しい相手でも焦らずに人間関係を築くこと・・信頼されなければ必ず失敗する。
真理も悩んでいた。歩行用の義足の開発が遅れ試着もできていない。そもそも歩行用の義足の開発が遅れたのも杉本の要望が厳しく大人用を転用することができなかったことが原因だ。シリコンゴムも柔らかく復元性が高い素材を求めた。子供の皮膚の柔らかさや成長のことを考えるともっともな注文なのだが、一から開発となると時間もお金も掛かる。エンジェルクルーの報酬は、高額とはいえベースの報酬に出来高制。経費の増加分はそのまま真理が負担することになる。
真理:信頼しているけど・・・今週中に歩行用義足の歩行訓練ぐらいは進めないと・・・
やっぱり、こちらも壁に向かってつぶやいていた。
一方、貴賓室は、杉本が残していったパソコンをサリーがいじくって遊んでいる。
サリーが、パソコンを一人でいじっているとHeboが車椅子を一人で降りて片足で跳んで、ちょっかいを掛けてくる。
サリー:Hebo!やめて!検索ワードが消えちゃったじゃない。それじゃあさ、どの船が良いか選んでみなよ・・この船をクリックすると・・タンカーだね。また、いじわるする・・・行き先が分かんないじゃん。
そこへ杉本が戻ってきた。サリーは、杉本が戻ってきたことに気づかない。しばらく見ているとサリーがHeboのいたずらにいらだってきた。
サリー:Hebo!遊びたいならここに座って、マウス持って・・・やらないなら邪魔しないで!
Heboがすねて後ろのソファーに体当たりした。
サリーは、これ幸いと目の前を通り過ぎる船を検索し目的地や寄港地の情報を見て仮想の世界旅行を楽しんでいた。
ソファーでぐずっているHeboの横に杉本、いやケンジが座りHeboの頭をなでた。Heboはソファーに顔を埋めたままだが、逃げる様子はない。サリーが後ろの気配に気づいた。
サリー:ケンジ!来てたの・・ゴメンなさい。どうぞ、使ってください。
真理もやって来て
真理:ケンジ、さて、何から始めましょう。
ケンジは、真理が少しいらだっているのが分かった。午後も15時まではリハビリの時間に割り当てられている。
ケンジ:真理さんスケジュールを変更してもらえませんか。今日、明日の午後は勉強に回して、木、金の午後に13時から17時をリハビリにください。
真理:どういうこと・・
ケンジ:予定していた機材が調子悪くて・・修理してきます。すいません。
ケンジは、出て行ってしまった。
真理:サリーどうしようか、、機材の故障じゃしょうがないけど・・Hebo絵を描く? 歌が良い?
Heboは、サリーを押しのけてパソコンの前に座った。
真理:じゃあ トーマスのYoutube見るか!
真理がYoutube を流し、Heboはマウスを動かし右端のサムネイルをクリックして遊んでいる。今日はこれで良しと、自分を納得させた。
次の日、時間通りに貴賓室にやってきたケンジは、
ケンジ:真理さん、今日はドライブしても良いですか。
真理:近場なら全然だいじょうぶです。田原市から出るときは、あらかじめ警察に報告することになっています。
ケンジ:遠くても堀切から中山ぐらいです。
真理:一応ジャイアンも同行します。
ケンジ:1時間ぐらいパソコンで、また、船の情報を検索します。いいですかこの画面で緑の線が伊良湖水道を通過する船だけを選んでください。できるだけ画面の端っこの船が良いです。
サリーに耳打ちをする
ケンジ:サリーが真っ先に検索して
Heboがサリーの足にしがみついている。
ケンジ:それじゃあ誰が選ぶ?
サリー:私やります!
サリーは、なんでかわからないが、Heboとパソコンを取り合うような状況をケンジが求めているのが予測できた。
ケンジ:サリー、じゃあお願いします。
真理もなんとなく読めてきた。タイミングをうかがう。
サリー:この青い大きい印、決定!
ケンジ:じゃあ船の名前とどこの国から来てどこの国へ行くのか教えてください。
サリー:船の写真をクリックすると・・・名前はボイジャー3 香港いや中国から日本です。
ケンジ:ハイ次の人
真理:次わたしやりた・・・
ケンジ:早いって・・
真理の手を引っ張って止めた。くっそ、なんで・・・真理がつぶやく
真理:ダチョウ倶楽部じゃないの・私、あたしワタシわたしあたし!で、Heboがやる気になったら どうぞどうぞって
ケンジ:だれもやらないなら 僕が、えーとこの赤い船の印をクッリック!・Yes!BigタンカーGet!写真をクリックして、クウェートから日本で船の名前は、ケベックオーシャン。
ケンジは、サリーを見てうなずく
サリー:次、私、行きます!今度、こっちからの船・これ!やっぱり青いの!Yes!サンフラワー、日本から日本!
その時、Heboが、サリーが明けた椅子に座りこんだ。ケンジがすかさずHeboのお尻の横に滑り込みサリーに、
ケンジ:サリー!Heboひとりで、できるかな・・
Heboはすかさずマウスを動かし赤い色の船をクリックした。
ケンジがサリーを見るとサリーは、笑いながらうなずいた。
ケンジはHeboがその船を選ぶと確信していた。その船は、画面の下の端っこにあって、サリーの足にしがみついているHeboの目の前で、気づきやすい、昨日の時点で、Heboは赤色がタンカーだと、分かっているのもケンジは気づいていた。Heboはタンカーが好きなようだ。ケンジがトーマスのTシャツに着替えているときも窓の外を通過するタンカーを見ていた。Heboのその目にケンジは何かを感じ取っていた。
Heboが写真をクリックした。名前は・・どこから来た・・ ケンジはサリーを見た。
サリー: オーシャンベース サウジアラビアから日本です。
サリーがHeboを見て手のひらを広げるとHeboがハイタッチした。
ケンジ:Hebo! この船で良いね
Hebo:(眉をクッと上げて、OKの合図をした。)
OKそれじゃあみんなで出発しよう!
ジャイアン:車を付けたら連絡します。
ケンジ:パソコンも持っていこう携帯のデザリングでNETに常がるようにして・・・と・・OKだ!
Heboすごいな! 自分でパソコン使えるんだね。
Hebo:・・・・・
一瞬、笑いかけたが、いつものようにサリーの股の間にもぐりこんだ。
ジャイアンが車を玄関エントランスにつけ、みんなが下りてきた。ケンジが運転席に座り
ケンジ:Hebo!チャイルドシートがセットしてあるからHeboは、ここだよ。
Heboは、嬉しさを隠せず笑顔で助手席に登り込んだ。カッチ・・カッチ・ググッ・ジャイアンが、Heboのチャイルドシートをセットした。
ケンジ:みんな乗った!?ケンジとHebo、二列目にサリーとジャイアン、真理が一番後ろに乗った。
ケンジ:まずは、日出の石門!(ひいのせきもん)ビューホテルに上がらずそのまま一本道、5分ぐらいでつくよ。途中、ビューホテル下のカーブは、世界一の絶景だから!
サリー:あっ海がきれいね。ホテルの前より青い感じ!
ケンジ:さあ、この右カーブを上がると・・・みんな・・・右側を見て!
Ohoo・えーっつ恋路が浜!神島!
真理:神島の向こうが答志島、その向こうに鳥羽!
サリー:ウァーっカーブ、うぁーっ海 海スッゴイ あっーーっつ 砂浜・・長いね
ジャイアン:急に下りますね。Wooo
サリー:えっサボテン? ウソッ サボテンなんで・・・
ケンジ:ホント!よく見つけたね。
サリー:花が咲いてた。
ケンジ:ここを右に入って・・
サリー:Wooっ・・海岸に出た。
ケンジ:さあ、着きましたよ。左から大きな船が近づいてくるよ。あの船の名前を知ってる人!?
Hebo:ボイジャー3!
Heboがケンジの顔を見て叫んだ。
Hebo:サリーが選んだ船じゃん。・・
サリーは、ぽかんとしている。
ケンジ:ほらっ、サリー、パソコンの写真と見比べると・・・どう
サリー:ボイジャー3だ!。Heboすごいじゃん。
Heboがいつものようにサリーとハイタッチした。ケンジもさっと手を出した。
Heboがケンジとハイタッチして、得意げに
Hebo:イエッイ!
と、笑った。
Hebo:その後ろから来るのは、ケベックオーシャン!
ケンジがパソコンを見ながら
ケンジ:正解! Hebo、すごいじゃん
Heboは当然と言わんばかりに次の船に視線を進ませている。
ケンジ:じゃ場所を変えます。
ケンジは来た道をガーデンホテルに戻っていく。
ケンジ:さっきの絶景カーブは、今度は、逆の左側が海だよ。
ジャイアン:すごい上り坂!
真理:後ろもきれいだよ!
ケンジ:さあ、右カーブだ!
サリー:ヤシの木・・空キレイ!
ジャイアン:恋路が浜がよく見えます!
真理:この藪っ邪魔っ 切ってほしいわ・・・
ケンジ:フェリー乗り場を超えてトイレの横に・・・ 車を降りて歩こう。
ジャイアン:ちょっと待って・・・ いいよ!
と、言ってHeboのシートベルトを外すとHeboを抱え上げた。そこの堤防まで行こう。
サリー:サーフィンやってる。
ケンジ:サーフィンは、ロングビーチが有名だけど、波によってここも穴場スポットなんだって。
大きい船が、西のほうからやってきた。
サリー:サンフラワー
Hebo: ・サンフラワー 二人でハモった!
ケンジ:今のは、サリーが一瞬、早かったね。
ケンジ:じゃあ目の前の小舟は、わかる人!
真理:名前あんの小さすぎて出てないんじゃない。
ケンジ:正解は、たこ丸!
真理:うそ!なにそれ!
ケンジ:これ見て!
パソコンを見せた。
サリー:たこ丸!写真も出てる
真理:まじか!
ケンジ:昨日、調べてみたらでてた。今日もさっきクリックしたら出てたからここに来てみた。
真理:ケンジ!機材の故障なんてうそでしょ!。昨日、リハビリの時間キャンセルしてこんなこと調べてたのね。
ケンジ:バレましたか。でも、大変でした。近いと言っても歩いては回れないので、、、港にいたおじいちゃんに聞いたらそこの伊良湖マリーナにレンタカーが有るって教えてもらって・・夕方まで船の行き来がよく見える場所を探して・・・でも僕が夢中になっちゃいました。
真理:だけど、あんな小舟が写真まで出して世界に配信されてるサイトに情報をわざわざ出してるの?
ケンジ:仕組みは、船舶無線。船舶無線は、世界中統一してどんな小舟も搭載しなければならないことになってるんだ。船舶無線を買ったときに船舶の識別符号情報が登録される。無線機の電源を入れると船舶無線のVHF電波に自動的にデジタル信号が付加されて送信されてるんだ。
こんな小舟の電波は、世界中までは届かないんで近くの海上保安庁の船や陸上の船舶管制施設が情報を受信するとAISのコンピュータに情報を登録する仕組みになってるんだ。
だから、たこ丸の漁師さんはただ、船舶無線の電源を入れているだけで、何もしてない。僕らに監視 されてるの知らないってわけ・・・
サリー:面白いね。トンガの小舟もみれるの?
ケンジ:昨日の夜、やってみたら港に何隻か停泊している船舶が確認できたよ。
真理:すごいね。
ケンジ:そろそろお昼ごはんだね。帰ろう!
偶然見つけたHeboの反応。目の前の伊良湖水道を行き交う大型タンカーに視線を送っていた。船舶航行管システムも実際のタンカーを見ていなかったら興味を示すことも無かったであろう。そして、大人が本気で遊ぶ姿に子供は、興味を示す。我を忘れて、夢中になったサリーのお陰か!
船舶航行監視システムは、実際に運用しているシステムです。皆さんも海に出て、目の前を行く船を見かけたらスマホ、パソコンで見てみてください。その海が世界に繋がっていることを実感しますよ!ちなみに、たこ丸も伊良湖港船籍をおく実際の船です。探してみて!




