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作者: 林修 大

友を見捨てた。正確には友と呼べるような間柄ではないかもしれないが彼は私によくしてくれていたし何かあれば話しかけてくれるような奴だった。ある日、私は授業をサボろうと学校の図書館に居たのだがそこに彼が現れたのである。

「おう、お前もサボりか。」

そう聞かれ私は

「まあ、うん。」

そう答え、スマホに目線を戻そうとした時先生が彼を見つけたのである。視線的に私は見つかっていない。前にある自習机が壁になったようである。先生は

「何でこんなところにいるんだ。授業はどうした。」

そう問いただし彼は

「今日自習なんですよ。だからここに。」

そう言った。これを聞いた時無理があると思った。いくら自習と言えど普通は教室にいるものである。図書館にいるはずがない。先生は

「自習で?ふーん、そうか。何年生?」

「3年です。」

私と彼は高等学校3年生である。先生はそれを聞き図書館にある職員室の中に入っていった。このやり取りを見た時私の中に何かもの凄い焦燥感が生まれたのである。このままでは私も見つかる。そういった焦燥感だ。恥ずべきことにこの時にはすでに私自身のことしか考えていなかった、持っていたスマホをしまい空いていた鞄のチャックを閉め足早にその場を離れようとした。その私の行動を彼は見ながら

「帰えんの。」

そう言ったのが聞こえたが私は何も答えなかったと思う。そして、鞄を持ち、帰ろうと歩き出した時、先ほどの先生が別の先生を連れてきたのである。私はその先生二人の顔を見たあと自習机に座っている彼を見た。その後だ、私自身でも驚くような行動をしたのである。あろうことか「私ではなく彼を」とでも言うように彼に向かって指を刺しそうになったのだ。寸前のところで腕を引っ込めたが腕は自分の頭に手がかかるくらいに上げており逆L字のような感じになっていた。その後、先生二人が彼に迫っていくのを見たがこの後のやり取りを私は知らない。そのまま乗ってきた自転車に乗り学校をあとにしたからだ。

自転車に乗っている時、自責の念にかられた。あれはなんだ、あの行動は一体なんだ、まるで、保身のために友を見捨てたようではないか。自分がひどく嫌になった。このままではいけない、そうも思った。帰途、神社に寄った。手持ちの小銭から50円玉を取りお参りをした。

「どうか彼に良いことがありますように。私は彼を見捨ててしまった。どうか彼に良いことがありますように。」

そう願って神社をあとにした。この後も自責の念にかられた。これはただの自己満足ではないか、と。私が彼に何かしてやった訳でもないし私が先生にあの時私も居たんです、私も罰してください。と、言った訳でもない。ただ神社にお参りをして、良いことがありますようにと願っただけである。また、自分が嫌になった。学校をやめたいと思った。もはや社会に向いてないんじゃないかとも思った。神社からの帰りは自転車に乗る気にはならず、自転車をひいたまま歩いて帰った。その帰途ずっと死にたいと思っていた。私は簡単に人を見捨て保身に走り何か他人にしてやるということが出来ない卑しい人間だと。ずっと自分を責め続けた。その時、私の周りに黒い煙のような雲のようなものが自身の体にまとわりついているような気がした。どうやっても取れない自分の卑しい部分がそのまま雲としてあらわれたみたいで気味が悪かった。呼吸もまともにできなくなった。大きく息を吸わないとまともに呼吸ができない気がした。過呼吸になりながら帰っていると元気に遊ぶ自分より小さい子供が目に入った。羨ましかった。私もあの子供みたいに純粋で居られたら。

様々なことを思いながら家に着いた。いつもなら何の気兼ねもなく家に入れるのだがこの日だけは家に入るのを躊躇った。まるで自分の家ではない別の何かだと思った。それと同時にこんな自分には帰るところはないんだろうとそうも思った。

私は息を整え家の門を開けた。ひどく居心地が良かった。家に帰ることができ、安心している自分がいた。

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