第99話
「男に……って――――――――――――――いや、別に……。」
男に生まれたかった。
そう思ったことがあるかといえば何度も男だったらルイスと恋人になれるんじゃないかと考えたことは大いにある。
けど、だからと言って心の底から男として生まれたかったというのとはまた違う。
そもそも、男だったらというのもその時々で感じる気の迷いに近いわけで、
どちらかといえばボンキュッボンになりたかったというのが正しい。
それに……―――――
(仮に男だった場合にルイスが好きになってくれていたり、ボンキュッボンだった場合にルイスが好きになってくれていた……ってなると、それもはや外見で好きになられたってことになるからちょっと虚しいし……。)
心の底から男になりたいと思ったことはないため、私は「無い」と返答した。
もちろん、ボンキュッボンは個人的な願望としてあこがれはありますけどね!!
なんて思いながらとりあえず「本気で男になりたいと思ったことはない。」という意思をハーネスさんに伝えると彼は何かを考えるかのように唸りだした。
「う~ん…………じゃあ質問を変えましょう。男の子になれるとしたらなってみたいですか?」
「……それって、変身魔法とか何かでってこと、ですか?」
なれるとしたらという事は多分そういうことだと思う。
多分なんかの心理テスト的な質問なんだろう。
だとしたら別に正直に答えてもいいんじゃないだろうか。
なんて思えてきた私は私の考えを口にした。
「まぁ、その、元に戻れるなら変身願望的なのでなってみたい気はしますけど……。」
誰だって違う自分に憧れることはあると思う。
正直男装だって私は嫌いじゃない。
変身することは楽しいことだと思う。
そんな思いから返答し私の言葉にハーネスさんは少し不気味な笑みを浮かべた。
そしてその次の瞬間だった。
ハーネスさんの手が私の首を掴み、更にその手に力が込められた。
「がっ……ぁ……」
何をするのか。
そうといたいのに苦しいあまりに言葉が出てこない。
あまりの苦しさに私は私の首を絞めるハーネスさんの腕を両手でつかんだ。
その瞬間だった。
ハーネスさんは私の首を絞めていない手を私の股下へと滑り込ませてきた。
「じっとしていてくださいね、アリスさん。君のような可愛い子に抵抗されたら俺は萌えてしまうたちなんで。」
抵抗するな。
そう言われても苦しくて反射的に体に力が入ってしまう。
だけど正直首が苦しくて首以外の感覚がよくわからない。
多分、多分だけど首を絞められている意外に私は何かをされているのだと思う。
だけどその何かがよくわからない。
更に苦しい以外の感覚が私を襲い始めてきた。
熱い。
全身が燃えるように熱い。
「や……やめ―――――」
必死に「やめて」と言葉を紡ごうとする私。
そんな私の言葉を遮るように突然視界が赤くなる。
そしてその次の瞬間、締め付けられていた私の首はハーネスさんの手の中から離れた。
首を絞められていたことで全身に力が入らない私はそのまま地面へとへたり込んだ。
「……どこの誰ですかね?突然ファイアーボールをぶっぱなしてくる危ない人は。」
私のすぐそばで落ち着いた口調で話すハーネスさん。
そのハーネスさんの言葉から私の視界を赤く染めたのはファイアーボールで、誰かが首を絞められている私を見て助けてくれたのだと思う。
その誰かが誰なのか。
私はいきなり息ができるようになったことでむせ返って咳をしつつもその誰かへと視線を向けた。
するとそこには私のよく知る人物、ヴァルドがいた。
「お前のような痴漢やろうに名乗る名前なんてねぇよ。」
昨日会ったヴァルドとは違いいつも通りのヴァルドがそこにはいた。
瞳は力強く、堂々としているヴァルド。
一晩で何があったのか、そんなヴァルドの様子に私は息を整えながら少しだけ安堵する。
「……なるほど、そういう事ですか。ふむ、まぁ直接肌に触れなかった弊害かいろいろ不完全ですけど問題はなさそうだし、今日のところは引きましょうかね。」
何かを理解したような様子で言葉をこぼすハーネスさん。
一体何を言っているんだろう。
そう思った瞬間だった。
ハーネスさんは地面に座り込む私と視線の高さを合わせるようにしゃがみこみ、顔を覗き込んできた。
そして私の耳元に口を近づけると―――――
「家に帰って服を脱いで確認してみてください。今の君の身体は正真正銘、男の子になったので。」
(…………え?)
驚くべき言葉を言い放たれたのであった。




