第95話
「はい、お仕置き終了。」
私とルイスの唇が重なってからそう時間もなくルイスの唇は私の唇から離れた。
まるで一瞬夢でも見ていたんじゃないかと思うほど信じられない時間だった。
(……っていうかもしかしてここは夢の中?じゃなかったら……――――――)
「ルイス……何かあった……?」
あまりにもおかしいルイスの行動。
ルイスは基本お預けばかりでこういう恋情を持つ同士の好意を示す行動を進んで撮ったりはしてくれない。
なのにどうして突然……。
私の頭はひどく真っ白だった。
「……何かあった、か。うん、まぁあったといえばあったかな。でも何があったかは教えてあげないけどね。」
ルイスはそうにっこりとほほ笑むと私に背を向け、自分の背後にいるドレッドに体を向けた。
「個人的な話だけど宣戦布告だったらよかったのにって少し思ってたんだ。ドレッド、僕は君が好きだよ。もし君が女の子として生きる道を選んだら恋人にしたいくらい。」
「……俺もあんたは嫌いじゃない。都合よく欲求満たしてくれる彼女になるのは死んでもごめんだけどな。」
ルイスとドレッドは面と向かい合い言葉を交わす。
そしてドレッドの言葉を受けたルイスが小さく笑うとルイスは私へと振り返った。
「バイバイ。お休み、アリス。」
ルイスは私に笑顔を浮かべながら手を振る。
そしてその次の瞬間には部屋から姿を消していた。
「…………何、今の。」
去り際のルイスの言葉に疑問を覚え、私は疑問を口にした。
「バイバイ」という言葉。
何故かそれが妙に引っ掛かる。
それに――――――――
「ねぇドレッド。もしかしてルイスはドレッドと私が恋人になることを望んでたりするのかな……。」
先程ドレッドに向けた言葉。
盗み聞きしていたからわかる。
ちょっとうぬぼれたことを言うけど、宣戦布告というのはおそらく私をルイスから奪うとか、ルイスに向かっている気持ちを自分に向けるとか、そういうたぐいの話なのだと思う。
そしてルイスはそうだったらよかったのにといった。
つまり――――――
「……わからないよ。どういうことなの……?」
一体どういうことだというのだろう。
私の気持ちがドレッドに向いて、ドレッドの気持ちも私に向かうことを祈っている。
そんな発言をするくせに何故わざわざ私にキスをしたの?
本当に理解できない。
いつも以上にルイスが理解できない。
理解ができなさ過ぎて私は頭の中がぐちゃぐちゃになり、どういう感情からあふれてくるのか、目元に涙がたまる。
そしてそんな私に静かにドレッドが歩み寄ってくる。
ドレッドは目元にたまった私の涙を長い指で拭うと私を静かに抱きしめた。
「安心しろ。俺はお前の「友達」だ。お前がそれを望み続ける限りは何があろうとそれは変わらない。」
ドレッドは私の耳元で囁きながら私を抱きしめたまま頭をなでてくれる。
そんなドレッドの優しさに私は甘えることにした。
優しく抱きしめてくれる腕の中で私は涙を流し続けた。
……苦しい。
今までもルイスの考えがわからなくて傷ついたことは何度もあった。
だけど今日は少し違う。
恋心を抱くことすら拒絶されたような感じを覚えた今日は一向に私の涙が止まってくれない。
胸を締め付ける苦しみも同じく止まってくれない。
理解したくても理解できない。
(ルイス、私は貴方を好きでいてはいけないの?じゃあどうして私の心をつなぎとめるようなことをするの?自信がないのは貴方じゃない、私なのに――――――。)
愛されている自信がない。
でも愛されている気がする。
そんな状況で不安にならないわけがない。
本当は愛されていないんじゃないかとか、好きは好きでも友愛で、恋愛対処に見られてないんじゃないかとか、そもそも傍にいてもいいんだろうかとか、自信が持てなくて不安でたまらないのは私の方だ。
なのに、なのに……――――――
「ひどいよぉ……ルイス……。」
ルイスとの2度目のキス。
1度目はその前に経験したことを忘れてしまうほどに幸せなキスだった。
だけど2度目のキスはひどく切なくて、喜べなくて、だけどそのキスもとても軽く流せるものではなくて……――――
私は今日ヴァルドと出会ってしまったことも、ライラ夫人から身を隠していることも、ここが闇ギルドのドレッドの部屋である事すら忘れてドレッドに泣きつくのだった。




